九百三十七生目 人吸
ヒロとマーミャ。
その裏の顔が今の闘士。
表の顔は義賊と孤児院シスター。
「なんというか、渡す側と貰う側のふたりがこうやって戦っているって思うと、なんとも不思議な気分になるな……」
「まるで普段の職とは今の立場とは違うんだねぇ〜」
「ベビーフェイスとヒールはあくまで役割でしかないからね。客に求められてなるものだ。それに、普段と違う役割が自分に求められることは、スイッチのオンオフになるだろうからね」
『おおっとここでトリプルアタック入るか! おおっ! トリプルチャンスガードで返した! うまい! 高ポイントだ!』
実況のわかるようなわからないような技解説を聞き流しつつ私は肝心の情報を整理する。
つまるところだ。
「所属する派閥は、普段の姿からは参考にはならない……ってことなんですね」
「そうだ。俺たちは役割というマスクの下にある顔はまるで別だ。こっちが本当の顔か、表が本当の顔か……それは自分でもわからなくなる。よほど、自分を強く持つ以外はな」
「ところで……あなたの普段の職業は?」
「俺? ああ、児童学校の先生だ!」
「「えっ!?」」
全員がその少年じみた顔や背丈を3度見するはめになった……
『うおおおお!! オーバークロス!! 決まった!! 不必要なわからせ攻め!! これぞヒールの魅力だああぁ!!』
「「わあああぁぁ!!」」
いつの間にか私以外はすっかり熱狂していた。
場は称賛の嵐だ。
きっとエールもたくさん飛び交うだろう。
なにせ最高峰に盛り上がっているところであちこちから駆け回るここの売り子みたいなニンゲンたちが声をかけまわっているのだから。
「今のヒロやマーミャへのエールはどうですか! 酒つきエールもありますよ!」
「ダジャレ……でもいただこうかな」
「ありがとうございまーす!」
インカがポイントで割高な酒を買う。
一部がエールポイントになるわけだ。
マーミャにポイントが送られていた。
「じゃあ僕は美しく戦い抜いたヒロに」
「ありがとうございまーす!」
ハックはヒロの分を購入した。
自然に目線は私の方に向けられるわけだけれど。
ええっと……
「じゃあ酒はいらないから、エールをふたりに」
「ありがとうございまーす!!」
エールの金額とかよくわからんな……
とりあえずひとり100ポイントでいいか。
のこりふたりの様子をチラ見してから売り子は離れていく。
闘士と従業員だものね。
「……俺らは基本的に賭けたりなんだりは闘技場では禁止なんだ。八百長禁止だな」
「私は従業員としての立場がありますので、仕事中は遊びをしません」
ふたりともだろうなって返事が返ってきた。
「それにしても……義賊もシスターも今回の件に関してはあまり関係なさそうだなあ」
「ま、そうだな……どちらも可能性はなくはないが……薄いな」
確かに義賊の噂ではなく実は凶悪な人さらいだったり。
シスターは人身売買の隠れ蓑かもしれない。
ただあまり強い論にはならない。
「次の対戦は誰なんだろうか?」
「次は……おっ、ニュービーのドラーグが出てくるぞ。相手は……これは悪いなぁ」
「悪い? 相手が?」
「そうだ。今メキメキ強くなっているヤツだ。名は、聖騎士のヴァルディバラード。ベビーフェイスだ」
未だ全貌は霧の中に。
ドラーグと聖騎士のヴァルディバラードが出てきた。
……? なんだ今一瞬だけ変なにおいがしたような。
すぐに場は熱狂の渦に包まれる。
ヴァルディバラードはまさしく聖なる騎士といった風貌だった。
頭部まで覆う頼もしい白銀のフルプレートと対人用のこれまた白銀の剣。
美しい刃のきらめきは刻まれた紋様たちが高貴さをイメージ……
「なんだあれ!?」
「えっどうしたのおね……お兄ちゃん」
ハックが気をきかせてくれたけれどそれよりもメチャクチャ気になることが一瞬見えた。
「あの剣、鎧、ちらっとだけ見えたんだけれど、なんだか術式がおかしい。もうちょっと見せ――」
「貴殿が新しく来られたドラーグどのか! 先程の活躍、見事であった! ぜひ、手合わせ願いたいと思っていたところよ!」
「まだまだ始めたてなので、よろしくおねがいします!」
「――ああ、はじまっちゃった!」
ドラーグとヴァルディバラードが互いの武器を振るいぶつけ合う。
こうなったらちょっと遠くから精細に紋様見せてはできない。
魔法紋様や刻まれた中身がなんかわからなかったが……
すごく嫌な気配があった。
簡単にいうと聖なるものってきいた英語圏のものに呪や死という漢字が掘られていたのをみたくらい。
鎧と剣を……"観察"!
[人吸木の首刈り刀]
[人吸木の腹切り鎧]
うわぁ。




