九百三十六生目 善悪
ダグラにとりあえずあれこれ教えてもらえた。
まず陣営がわかれていてベビーフェイスとヒール。
そしてどちらにも属していなサード。
例えばニュービーなドラーグはサードだ。
狂戦士を名乗るダグラはヒールである。
そしてベビーフェイスは……
「そうだ、こんなところで離しているのもなんだ。実際戦っているシーンを見るのはどうかな?」
そんなダグラの提案で私達は席の方へと歩みを進めていた。
席に座るには席代代わりにポイントを支払う。
2ポイントでオッケーだ。
もちろん勝ちたいニンゲンはもっと賭ける。
私達はそこまでやる必要がないだけで。
今回の戦いはベビーフェイスvsヒールという人気の組み合わせらしい。
簡単に言えば善玉と悪玉の対戦だ。
「今回の戦いは速攻の華ヒロと殺戮者マーミャの戦いか。カード的には今日の大一番と言ってもいいな」
「ふたりとも、強いってこと?」
「強い。それ以上に、うまい。まあどんな相手なのかは見ていればわかるし、普段どんなやつかってのも見ながら話そう」
ふたりが出てくるだけで歓声が上がる。
片方は金の宝飾を身にまとった赤い花飾りが特徴の爽やかな青年。
もう片方は顔に大きくバツの化粧をした紫の鎧を着込んだ女性。
見るからにどちらがどっちかわかりやすい。
「さあさあ、俺を捕らえられるかな? お前の剣はノロいからなー」
「へらず口と脚の速さもここまで、あんたも斬り捨てたカウントの1つにしてやるよぉ!!」
互いに互いをののしったあと試合開始。
マーミャは背中から大きな剣を取り出す。
ヒロは短剣を2つ身構えた。
いざ加速するとヒロのほうがあっという間に姿が消える。
正確には……ニンゲンの目にはとまらぬ速度で動いている。
速い……光の輝きが残像としてラインが残るほどに。
「ほらほら」「こっちだよ」「みえてんのか?」「見えてないのか?」
「ちょこまかと……!」
ヒロが高速で抉るように近距離ナイフ攻撃。
一瞬反応が遅れたマーミャは頬から血が飛び出た。
『ファーストブラッドはヒロだぁ!!』
「このアナウンスは、初撃が決まったってことだな」
拡声魔法を通して聞こえてくる声に会場は大盛りあがり。
マーミャも四方八方からの攻めにタジタジになるばかりではない。
「ふん、どれだけやっても、軽い軽い!!」
地面に剣を思いっきり叩きつけた!
すると粉塵が一気に広がる。
近づこうとしていたヒロから「うわっ」と声が漏れた。
「そこっ!」
「ガブッ!?」
そして入るクリーンヒット。
速度重視のテレフォンパンチが相手の顔面を打ち砕いた。
会場大盛りあがりだ。
「さあさあ!」
「んおっ!」
マーミャは大きな剣を片手で軽々振るう。
ヒロは防ぎきれなくて……ということをやっている。
私達はそれよりもだ。
「ヒロは見ての通りスピード型だ。ただ、ここの稼業以外では若干噂が怪しい」
「噂……? もしかして、彼の身のこなしが?」
「そうだ。とはいえヒロはいいやつだと思ってはいる……いるが、黒い噂もある。あいつは世を賑わせる義賊だっていう話だ」
「義賊……っていうと、お金を盗んで市民に配る、みたいな?」
「ああ。逆に言えば噂が本当ならば、世に轟く大悪党ってことになる」
なるほど確かに。
ヒロは戦い方はわりとヒーローぽくはない。
正面からけして攻めずちまちま死角から暗殺するかのように刃を滑り込ませている。
「んじゃあ、あのマーミャってほうは? 随分剛直な戦い方だけどさ」
「殺戮者マーミャ、彼女の本職、知ってる?」
「え? 闘士じゃないのか?」
「孤児院のシスター」
全員思わず驚き二度見する。
えっシスター。
えっシスター!?
しかも孤児院のである。
肩書も剣もまるでそんな雰囲気はないが。
「おっと、俺が言ったって言うなよ……彼女はオンオフはっきりしてるんだ。バラしたと気づかれたら俺が殺されちまう。それで殺戮者なのは彼女の技に特徴があって……おっ、やった!」
話していたら歓声が上がる。
そこでは殺戮者マーミャの凶刃がヒロの胴を特徴的な光で切り裂いたところだった。
「しまった!」
「ハッハー! あったまってきた!!」
すると彼女の全身が光に覆われる。
赤い輝きを見るに彼女がひとまわり強くなった気がする。
「あれがマーミャの技、殺戮者としての本領だ。相手をあの技で傷つけた時に、力を一時的に吸い取る!」
「はああぁぁー!!」
あまりに素早い速度をマーミャが出す。
逆にヒロはまるで調子が悪くなったかのようだ。
速さが落ちたようだ。
「くうぅ、これがあるから!」
攻勢が突然の逆転をした。
ヒロとマーミャの速度が追いついてきたのだから。




