九百二十二生目 提案
「お、ここらへんから花街のようですよ」
「なるほど! なんとなく雰囲気は出ているね!」
快活にいいながら2人は花街の方へ歩みを進めていく。
意味を理解してだ。
オウカは経験上言い回しは理解していたしカンタはこんなところに花を植えてある地区なはずがないと推測から辿り着いた。
なおふたりとも女性にそういう興味がない。
かたやおばあさんでそっちの方向には趣味がない。
かたや娘すらいて生粋の魔物好き。
まるで花街に向かう意味のないふたりだが。
「さあ、いざ!」
「酒屋へ!!」
……大人の社交場の楽しみ方も人それぞれである。
スキップを踏むように歩んでいったとさ。
そして私の方に戻る。
ここは1つの多きな屋敷みたいなテント。
最初見たとき豪勢でびっくりしてしまった。
その中に入って今ひとりの相手と向き合っている。
取り巻きっぽいガラの悪そうな男たちが数人いるのがなんだかなあとなるが。
こっちにエイナがいることで牽制になっているようだ。
そして向かい合う男は凄い筋肉が太いのが目立った。
どうしても食事情や環境で成長段階で骨と筋肉を育てられない者は多い。
私の前世世界では先進国ではみんな当たり前に享受していて気づきにくい環境だった……という知識はあるが。
とにかく目の前の相手は大股で座り袖のない服は腕の筋骨を目立たせ座っているだけで威圧感の有る姿。
私を黒VV.I.P.持ちと知っていても高圧的な態度と姿勢を崩していない。
「それで、要件は?」
「……ここで行われている取引のいくつかに、違法な品が紛れている状態なのを見ました。いくつかの店舗に捜査させていただけないかと」
ピクリと動いたのはエイナの方だ。
目の前の男……風俗街管理主ジャックはその歯をギラつかせた。
「だめだ」
やはりそうなるのね。
エイナは少し考え込みながら何も言わない。
「兄ちゃん、いいことを教えてやろう」
兄ちゃんと言われて一瞬誰のことかわからなくなるがよくよく考えれば自分のことだと気づく。
私は今男として姿を変えここにいるもんなあ。
長くたなびく赤いタテガミは普段女のころはなくて力強さの象徴になっている。
だが相手はそんなことまったく気にしない。
「あんた、衛兵か?それとも政府の人間か? 違うだろ、そういったニオイがしねえ」
「まあ、違いますね」
「だったらよお、そういう他人の庭に踏み込むような真似はよしたほうがいい。長生きできねえぞ……?」
ぐっと身を乗り出し私を上から威圧してくる。
どうやら脅しかかっているらしい。
けれど。
「お気遣いどうも。けれど、こちらも依頼で来ているんだよ。押し通させてもらいたい」
「なるほど、カタギではないな……冒険者かなにかの類か」
少し目で凄み返せば向こうの笑顔が深まり椅子に座る。
ボスのジャックはまったくもって譲る気のなさそうな顔だ。
「こちらもやることがあり、そちらは不正がそのままだと、市場の健全化の妨げになるのでは?」
「興味はない。強いやつが生き残り、弱いやつが滅ぶ。ここはそういうところだ。どのような手に使おうと、そもそもここには咎めるやつは入ってこねえ。街で悪いことしちゃいけねえのは、そういううるさいやつらが商売の邪魔をするからだ。ここではそんなことはない。自由にやればいい」
犬歯を剥き出しに。
そうまさしく語った。
「違う、悪いことはみんなを守るためだ。そのほうがよりよい社会と、恩恵があるからだ。完璧ではなくても、少しでも善くするためにしてはならないことだ!」
「お為ごかしだな! お前の提案に俺たちが乗る理由がねえ、わかるだろ? 俺みたいな商売しているやつが、弱みを見せるわけにはいかねえ。なびくような姿勢を魅せるわけがねえのよ、お前にも、R.A.C.2従業員にもな」
エイナの方を見て目の鋭さを増すジャック。
エイナは気にも止めない。
「多くの人が犠牲になっているんですよ!」
「犠牲の上に俺らは立つ! それだけの話しじゃないか!」
「ならば交渉にはなりません。どのような条件をお望みで?」
ジャックは手を組み深く息をはく。
「わかってるだろ? メスが入れられるってことはよ、それほどまでにこちらは打撃を受ける。どれだけでも似たようなやつが新たに入ってくるだろうが、そこを俺は許容しお前は許さないり最初から受け入れるメリットは互いにない」
「だったら……!」
私と相手は互いに拳へ力を込める。
一触触発。
私も今の状態であまり自分を止められる自信はない。
だからこそ。
エイナがスッと出てきて私達の間に来たときにふたりとも驚く。
「そこまで。ここは従業員の私の顔をたててください」
……それは驚きの提案だった。




