九百二十生目 迷宮
いくつかめぼしい場所はピックアップ出来た。
だがまさか正面から乗り込んで『人さらいだろ! お縄につけ!』とはできない。
物証がないからだ。
それらをやるための衛兵なんているはずもないし。
私達は客だから裏手にまで乗り込めない。
さてどうするか。
「もうよろしかったでしょうか?」
「こっちあんまり面白いのなかったよねー」
「うーん……」
なんて伝えるべきか。
彼女も結局従業員。
立場としては向こう側だ。
……あっそうだ。
先程ちらっと混ざっていた話があった。
「ここの地区の代表者って、会いに行けたりしますか?」
オススメはしないといわれつつも案内されたのは裏手。
先程まで性を道具にしたものが何重かの意味で転がるような光景が広がっていたが。
今度は暗がりと雑多な荷物の組み合わせ。
道を圧迫し狭っ苦しい場所を歩むとやがて光景が変わってくる。
中央から離れていく割に豪華さが増してきたのだ。
「あのおふた方は置いてきてよろしかったのですか?」
「うん。彼らは休憩するみたいだよ」
……事情を念話で話しふたりと私は別れて行動していた。
彼らも義憤に駆られ手伝ってくれるらしい。
今頃ふたりならではのやり方あの場の目の眩むような光に隠されたものを暴き出しているだろう。
他のみんなとも定期的に連絡はとりあっている。
どうやら九尾博士とアカネはうっかり風俗街に迷い込んだらしい。
急いで抜けて遊園地施設へと抜けたらしい……
遊園地といっても私が想像する絶叫マシンなんかがあるテーマパーク的な雰囲気とはまた違うようだ。
「さあさ、紳士淑女の御二方。このテントの中は他では体験できない迷宮に迷い込むことができますよ!」
……テント1つまるまる使ったなにかの体験を出来るものがよくあるらしい。
遊園地コンテンツは他と違って中央管理以外の取り巻きコンテンツの数が少ない。
まあそれもそうで体験に対して跳ね上がるような金をそこだけで稼ぐのは困難だからだ。
誘導でプラスアルファのお金払いを狙い飲み物やお土産やら女性を『買わせる』ことを狙っている。
そのためちゃんと回すには元々の材料や情熱が必要で。
それらは中央のほうがよく持っていた。
アカネと九尾博士は口直しにということで中に入っていく。
「ここって……?」
「広いのう、空間が拡張されておるわい」
ふたりが語る通りそこはとてつもなく広い場所だった。
よく整備されておりまるで小さな道となっている。
そう天井以外防がれた道。
文字通りのダンジョンだ。
人工的に作られたものであり本来はインストラクターと共にちょっとした非日常を経験するもの。
出てくるのもハリボテから魔物演じるニンゲン。
安全が保証された遊びの体験だ。
子どもがやるというより大人たちがほんのひとときの非日常を味わうものになる。
ではアカネたちはそっちを選んだかと言えば当然そんなはずもなく。
「いくよ!」
ジャキンと音がしそうな爪をアカネは指先から生成する。
……危険ルートだ。
なぜこんな道が用意されているかといえば腕自慢の男が買ったおんなたちに良い顔をしたいからだろう。
ここでのルートは曲がり角に罠があったり魔物扮する演者がちゃんと攻めてきたりする。
オプションでこっちの結界もなくせる。
当然アカネたちはなし。
普通は力を見せつけるということでそこそこ偉いニンゲンやお金持ちは騎士たちと共に武器を構える。
だがアカネたちはたったふたり。
なんなら九尾博士は構えてない。
「……おい、どのぐらいでやるんだ?」
「……わからん、たまに勘違いしたカップルが来ることはあるにはあるが……武器らしいのは、あの手甲だけだろ? それに片方はそこそこ落としを召しておられる……」
ヒソヒソ声はアカネの耳に入ってくる。
手甲爪に見えるのはそう工夫して肉体を変えているからだ。
実際は直の爪なんだけれど。
「そこ! 聴こえてるぞ! 来るなら来い!」
「「ッ!?」」
そしてアカネはそこまで自身の気迫を隠さない。
いざ戦闘の気持ちになれば闘気が凄まじく発せられる。
思わずといった様子で隠れていた雇われ人たちは飛び降りる。
頭に魔物っぽい絵のある兜をつけている。
防具がなんだかそれらしい着色なのだ。
「ご登場だね!」
「くっ、やるぞ!」
「怪我をしたら、お近くのスタッフまでにお声がけくださいっ!」
スタッフふたりは研がれていない剣を構える。
アトラクション用だ。
「それってリタイア扱いでしょ? いらないっ! さっきのストレス、ここで解消させるから!」
アカネもそれはわかっている。
本気ではあるが全力は出さない。
爪だってあくまで添え物みたいなものだ。




