九百十九生目 愛嬌
ツインテールが頭から伸びて揺れ笑顔を振りまくごとに歓声があがる。
見た目は完全にニンゲンながらも派手めな美貌のキュートさはニンゲンのそれを片足だけ超えている。
こんな立体映像程度でわかるほどなのだから実物はどれほどのものか。
体全体から人を寄せ付けるためのオーラを感じる。
あれはおそらく複数の能力を纏っているけれど……
1つは目立つ力のタンクスキルかな。
味方のために敵の敵愾心を引き上げるスキルの応用だろう。
敵愾心のかわりに注目を集めている。
なんとなく私の"無敵"とは逆の力だ。
たくさんの人々が放送の小さな投影機に群がる。
こんなところにあるせいで薄汚れているし映像もなんだか不調気味だ。
仮説が吹っ飛んだがともかく。
あれこれ話してニコニコ愛嬌を振りまいているその姿は顔のない神らしくはないなとなんだか思った。
「な、なんなんだろうあれ」
「あれは俺にもわからない……」
ふたりとも目を点にして驚いていた。
まあ私も同じようなものだ。
笑顔でを振りまくアイドルはまさしく偶像だった。
VVの放送を見ていたらエイナが咳払いした。
どうやら解説してくれるらしく3名ともに注目先を変える。
「あれはローカルネットワークというものを通して映している、VVの姿です。スタジオという撮影場所から、各地に声と映像をお届けしています」
「ゔぃゔぃ……? っていうの? 彼女は?」
「VVはここの……R.A.C.2全体の、そして翠の大地の、ゆくゆくは世界のアイドルとなられるお方です。そのために……コホン。とにかく、ここでは彼女が絶対です。これは黒VV.I.P.の方も覚えておいたほうが、無用なトラブルは避けられます。みんなの憧れなので。ただ、黒VV.I.P.の方は実質VVの友人のようなものとうかがっています。そこまで気負わなくても良いでしょう」
「「なるほど……」」
「VV様ー!」
「きゃーっ! こっち見た!!」
「VV様最高ーー」
「「な、なるほど……」」
VVが歌うでもなくただただ少し話すだけで凄まじい声援が飛び交っている。
うん信者だ。
ニンゲンとニンゲンのアイドル像ではなく神とニンゲンのアイドル像だなこれ。
普通は賑やかというものになるはずがほとんど暴動みたいな声援だもの。
スポーツ応援でもここまでならないよ。
何がすごいかってさっきまでの寂れと腐りが入り混じった空気と人々が一気にピンクの空間に赤い熱と黄色い声で飛び交うものに変わったのだから。
光がキラキラと舞い映像内のVVを彩っていく。
メチャクチャ派手な演出と共に本人が喋りまくる。
ハイトーンボイスが右から左に突き抜けていった。
VVが少し指を向けるだけでこの場がきらびやかなったと思えるほど明るくなる。
こんなただれて寂れた空間が華やかに空気が広がる。
柵の向こうにいる衛生状態悪そうな足を繋がれたニンゲンも。
キャッチに勤しんで腹黒さを隠す気もない男も。
こんなところまで足を運ぶ物好きの客たちも。
一気に全員が掠れた立体映像にかぶりついていく。
今までも似たようなことはあった。
ここで暮らす程に適性があるものは……きっと神の後光に包まれるのもすぐなのだ。
まあもちろん私達はポカンとするだけだが。
ただでさえ今回のメンツ全員に私とのラインが繋がっていて対抗加護がある状態だ。
VVにやられることはないだろう。
「じゃあ、またちょうどいい時間で! バイバーイ!」
シュンと音と映像が途切れる。
今度は何か商品の説明が流れ出したが全員活力が切れたかのようにダラダラとその場を離れていく。
「こわ……」
「ここではよくある光景です。じきに慣れますよ」
すごいな……VVが出てくる時間を強制的に祈りの時間にさせているわけだ。
効果は凄まじいだろう。
他の3柱と違って手広くかつ閉鎖的にやる手口がうますぎる。
これは厄介だぞ。
どうせこいつも悪神なのだがスキがない。
悪神いるところニンゲンの欲と犠牲が集う。
そして犠牲者たちは自分たちが搾取され犠牲となっていることなど気づきもしない。
今が何よりマシで他よりマシだとずっと思っている。
楽しみもあるから頑張れるのだ。
典型的ではあるもののだからこそ厄介でうまくできている。
私達が粉々に破壊してうまく成り立たない部分がここにあるのだ。
まあ必要とあらば壊しますが。
というかまあどういった形であれ彼ら4柱の道は犠牲が大きい。
彼らは欲の方向性の形。
業の信仰とでも言うのならばいずれ大鉈を振るわれるその日が訪れることすら1つの完成されたサイクルとして受け入れられているのかもしれない。




