八百九十三生目 安息
敵のハサミを持つ虫の足元から突如地面を割って先の尖った巨大な木の根が生えた。
頑丈な外骨格すらくだき貫く1撃。
「お、おお……なんか出た。こうやれば、そうなるのか……」
根が地面の下に引っ込みハサミもちの虫魔物がダウンした。
たぬ吉自身もあまりわかってなさそうな動き。
セミオートと言っていたからなかば自動なのだろう。
最終的に自分でやれるのが理想だがそこまでの道のりはあったほうがいい。
たぬ吉は太い木の槍を勢いよく振った。
「さあ、次は誰だあー!」
そしてジャグナー側のこと。
ジャグナーは身を固め全身を襲う打撃に耐えていた。
「おらっ、どうした! もっと打ってこい!」
ジャグナーを襲うのはジャグナー並……つまり熊並のサイズを誇る虫の4本の腕から放たれる乱打。
あらゆるところからジャグナーのガードを崩そうとしているが身を固め防御していれば光の膜すらまともに傷つけられない。
だからといって下がろうとすれば。
「休むなっ!!」
対峙した虫からみればそれの迫力はまさに絶望的に見えるだろう。
飢えた熊の大上段腕振りおろし。
爪に引っかかればニンゲンの皮ならそのままの勢いではがれるらしい。
迫力はリーチの見誤りを招く。
避けた大きな虫は絶妙に外骨格にひっかかる。
それだけで外骨格は紙のように斬り裂かれた。
「っ!」
青緑の血が散ってさらなる追撃を食らう前に反撃。
ふたたびジャグナーが身を固める。
つまり攻撃を誘われた形だ。
戦法として地道だ。
しかしあまりに確実。
特に巧妙なのはジャグナーがとにかく相手の大技をうたせないように立ち回っている。
力量もだが1番は戦いの組み立て方が圧倒的に差がある。
つまり頭脳戦で虫は負けていた。
戦闘の経験は時折残酷なほどに一方的なペースに持ち込み。
「もういい、お前では練習にならん」
何度か繰り返した後に小気味好い連撃とヒザをついた相手へ大きく振りかぶって光が地面を走り斬撃が力強く走る武技を放つ。
その1撃であっさりと吹き飛ばした!
「次! まとめてかかってこい!」
とまあみんな大活躍である。
なんなら適度に合流しジャグナーが惹きつけている間にたぬ吉がグサグサにしたりユウレンとノーツで射撃囲みし蜂の巣になりそうなほど撃ち込んだりとなかなかだ。
あまり慣れてないメンツも多かったので助かった。
レベルは私とか他のアノニマルース効果で跳ね上がってても扱えるかどうかは別だからね。
私はというとさっきドラゴン虫ぶっ飛ばしてお空の星にした。
彼らしつこいからしっかりふっ飛ばさないと諦めないんだよね。
『みんな、なんとかなったかな?』
『ま、なんとかな』
ジャグナーは肩を回しながら合流してきた。
何体か地面に頭から埋まってる……
死屍累々という言葉が迷宮的にもぴったりな状況だが現在は冒険中。
みんなも殺生はしない。
そこらへんはわきまえている。
「じゃあ行きましょう。まだまだ遠いのよね?」
『うん、表でニンゲンたちが言っていた』
「そうなんですねぇ〜、出来うることなら、今日済ましたいのですが」
「このメンバーなら、強行軍を提案」
『じゃあ陣形組んでちゃっちゃと行きますかっての。どうも気が滅入る空間だしな』
「あらそう? ワタシは気に入ったけれど」
『そりゃ死霊術師はな……』
ユウレンは朗らかな笑みをたたえる。
それだけでこの場所が死霊術師にとっての天国だとはっきりわかるものだった。
それとユウレンは基本的にただしい死霊術師だ。
彼女が魂たちをおくる必要がない場所……
それだけでこの場の平穏さがそのまま出ているようなものだ。
正直強行軍はとても順調だった。
さっきまでも各々戦ってて無事だったのだ。
一丸となって前へ突撃するだなんてこのエリアの相手では相手になるわけもなかった。
次のエリアに移動したときに他の冒険者も見かけちょっとヒヤッとしたが戦っている横をくぐりぬけれたので何もなし。
結局多少苦しくなってきたら休んだり補助をかけたりして駆け抜けた。
そのころにはみんな動きのサビが落ちて素早い速度で場を駆け抜けもはや襲ってくる虫魔物をまるで轢いていた。
こんなにも5体組で早く動くことはないという速度で切り抜けて行き……
ほぼ道のりとしては直線できたのでゴールもそこだった。
『みんな、もう近いよ!』
「あら、本当に散歩みたいだったわね」
「虫死骸の山をのぼるのが……?」
「散歩の単語には不適格な行軍」
『超巨大な虫たちの外骨格を渡り歩いた谷も含むんなら、毒されてるな……』
各々の難所を思い出しつつ軽く笑い合う。
ちなみにユウレンは急いでいくと決めた段階で歩いていない。
低空を霊的な何かに乗りながら移動していた。




