八百六十六生目 雷落
ミアが発した言葉に全員の注目が集まる。
それはあまりに場違いでもあり。
誰もが求めていた進展のための声。
「わたしは、ここの組織に襲われ、人買いに売られるところでした」
「「な!?」」
あちこちからどよめきが走る。
味方からは困惑。
賊たちからは怒号。
「ガンザ……まだぼくに隠れて、そんなことを!」
ミルーカは頭痛を抑えるようにうめき。
「ちっ……やっぱり一部ミスってたか。バカが」
悪態をついているのがガンザ。
一応心理を"見透す目"で見ているが割とここらへんは素直な反応だ。
演技の可能性も考えていたが大丈夫そうだ。
ミアは毅然として語る。
「あなたたちがどのように思い、どう組んで、どうやろうと、それはやったこととは別です……償いを」
ミアは静かに両手剣を構える。
ミルーカは顎に手をやってから……
「償いは……する。それでも、今は止まれない。だから本来はガンザを切って君たち冒険者の実力に賭けようと思ったんだ」
ミルーカはおそらく何かを飲み込んだ。
苦々しくそしてミアに向けるのは憐憫の目。
そして贖罪をするかのような瞼。
それでも折れない意思が瞳の奥から覗かれる。
「そんな言葉なんて……!」
「待ったミアちゃん、確かにこいつも殴り倒したいのはわかるが……ちょっとそれどころじゃなさそうだ」
「っ!? なぜ扉が閉まっていっている! 待つように言ったはずだ!」
それはミルーカと私達双方の扉が閉じていく音。
バンがミアをグループの中に引き戻したのはそのため。
戦闘の気配だ……
全員に強化補助を配ってもいいが今の今だとさすがに感覚がつかめないだろう。
さっきまでのメンバーに絞ろう。
全員の視線……ミルーカ含む全員が注がれる視線は軽い笑いが響く先。
ガンザは心底おかしそうに笑っていた。
「ったくよお、切りたがっていたのはそっちだけじゃあないんだぜ? 求心力、男爵……は、まあまだ生きてるかはわからんが、それに、資金力。そのまんま処分すれば、ここの隊が割れる。だからこういう時まで耐えてきたんだぜ? もう近くにいるのは、俺様の派閥だけ。言っている意味がわかるか?」
「ガンザ、貴様! 裏切ったな!」
「はっ! 裏切ったのはどっちだ!! 冒険者様と相打ちで死亡、それが貴様の末路よ。やれ、ビュウロウ」
「ビュウロウっ!? まずい! 全員広がって避けろ!!」
「「なっ!?」」
ざわめきが広まるまでも一瞬。
全員が感じたプレッシャーは魔力の波長。
……ついに影にいたやつが動いた。
「喰らえ」
地面へ放たれるのは水晶体のような杭。
それが6箇所広く。
全員が急いで駆けて……
[ビュウロウ Lv.58 比較:普通(戦闘技量が高い) 状態:疑似召喚 危険行動:ウインドストーム]
[疑似召喚 召喚の石や儀式的な召喚をしたわけではなく、神が相手を見初めて力を貸している状態。限定下に置いて神としての力を全力で振るえる、古き盟約の抜け穴]
[ビュウロウ:旧き月の神々の1柱。もっと巨大な争いに与して月に封印された尖兵。小神だが嵐の渦巻く風を宿し戦の技術が身についている]
「神力解放」
空から雷の輝きが降り注ぐ。
あまりの閃光にみんなが顔を腕で覆い……
「マズっ……!」
「……あれ? 何も起こっていない……?」
みんなが閃光に目をやられる中。 雷光は1つの場所に集う。
空中にいる私と……剣ゼロエネミーに。
「何!?」
「くそっ、紛れていたか!」
剣ゼロエネミーは雷撃を吸収する。
「ごめん、コイツは違う。コイツは場違いだ。だから私が手を出す」
「なんだ、あれは……?」
「助かった……って魔物か?」
「剣が、雷撃を食べた?」
渦巻いていた稲妻がゼロエネミーに全て飲まれていく。
どれほど広範囲でもどれほど強力でも。
そこには相性という名の絶対的な力関係が横たわっている。
「てかローズさん浮いてね?」
あまりみんなに余裕がないせいで私へのツッコミはひとりに留まった。
さてビュウロウだ。
全身に目に見える風をまとった青い肌の持つ人形っぽい何かだ。
たまに病人のニンゲンを青白い肌と言うがちゃんとコバルトブルーなので比較にもならない。
そもそも人肌の質感をしていない。
エレメンタルというか自然が削り出した奇跡の人型というか……
顔もニンゲンのようでいてその目はどこまでも冷たい石が嵌っている。
まだゴーレムのほうが近い印象だろう。
ちなみに私が翼を展開せずに飛んでいるのは純粋な魔力を念力のようにつかんで固めて動かしているだけだ。
細かい動きでなければこんなとこもできる。
向こう側の高台にビュウロウが着地して私は反対側の高台に着地する。
ビュウロウはちらりと下にいる面々を見たがこちらを見据えた。
どうやらやる気らしい。




