八百四十九生目 竜巻
矢はミアを捉えているのに刺さらない。
「なっ!? どういうことだ!?」
「あいつ、矢は当たっている! 弾いてもいない! それなのに……傷一つないぞ!?」
「ミアちゃん!? それ、それは一体……!?」
近くで見ていたバンはまさしく奇妙な光景がはっきり見えただろう。
矢は放たれミアにしっかり当たって。
その上で矢が逸れて落ちていくのを。
「任せてください。剣の能力です」
「わ、わかった!」
バンはそれだけ聞いて再び駆ける。
弓兵たちは分かれたふたりどちらを射ればいいか一瞬なやんで……
何か身構えているミアに恐怖を感じたのだろう。更にミアを射った。
「あの小娘をさっさと落とすんだ!」
「無駄です」
やはり矢はミアにあたるとボトボト落ちていくのみ。
それを弓兵のひとりが見て声を震わした。
「あ……あいつ……人じゃあねえ……! 今の、超強力なスライムとおんなじ体の動きを!」
「は!? スライム!?」
見たのだろう。
矢が刺さるかと思ったらぬるりと体がゆらめき矢が押し出され落ちていくのを。
あれがユニーク能力だ。
柔軟流変は体を変質させるスキルだ。
肉体はぐねぐねになり変形し穴があくようなものでもぐにゃりと流す。
流せなくても体にうめて出血も傷跡もなしで押し出せる。
軟体として全てを受け流す。
受けたとしても押し返す。
相手に合わせて柔軟に姿形を変えて受け流す能力……当然普通はニンゲンが使わない。
「……よし。はんっ、げき!」
ミアが両手剣に込められた宝石をブースターに杖として振るうと共に放ったのはツル。
2本の太いツルが伸びてそのまま木の上を薙ぎ払う。
ギリギリスキルレベル1で覚えた草木の魔法だ。
「「ぐうっ!?」」
直撃したのはほとんどなかっただろうが突然の反撃に足場を崩されたりしているようだ。
弓や手に当たるだけでも被害はある。
そしてそれで十分。
「クソッ、なめやがって!」
「へえ? なめてたのはどっちだ?」
「あっ!?」
重い打撃音が響く。
軽装にしていた弓兵が地面ごと叩きつけられていた。
派手な武技だ……
弓兵たちもぎょっとしてそっちをみる。
しかし目を離した瞬間にミアが突っ込んだ。
本来ならこんな短期間ではできない能力だったんだけれど……
ミアが私との短期間修行で一時的にどうやら向けられる気配の察知が出来るようになってしまったらしい。
「竜巻斬り」
ミアが武技を発動させる。
大きく回転して切り裂くと周囲に光の竜巻が生まれた。
その範囲全体を切り裂く刃!
「「ぬおああぁぉ!!」」
「うひょー、派手」
なんかこんなこともできるようになっちゃった。
私は元々ミアにはもっと地道な訓練をさせるつもりだった。
私を経験値にさせるにしてもあそこまで実践的にやらずとも伸びる。
ただミアは違った。
目指す先を見据えているのと目の前のぶつけるべき敵を見据えた覚悟。
そしてこれが大事なのだが……
ミアの体は非常に基礎が出来上がっていた。
当たり前っちゃ当たり前である。
彼女はばっちり農家で毎日を鍛えながら過ごしている。
食事はやや心もとないが暇つぶしに鍛えるぐらいは普通にしていたらしい。
内職にも限界はあるしね。
そんなこんなでベースは出来ていて心に火がともっており強敵との戦いで才華濫発したらしい。
多分おちつくまでのものではあるだろうけれど……メチャクチャ強くなったようだ。
「……? あれ、弱い……?」
一方その頃3人組。
「フンッ!」
「うぐっ!?」
農民崩れとはいえ立派な兵士たち。
武技を交え振るってきている。
当然のように2段斬りとかしてくるなあ。
2段斬りは剣士が使うような武技系統で1回の斬りかかりで2重に光の刃で斬りつけるものだ。
……私の"連重撃"が上位互換?
それはともかく一般的にかなり強い。
しかもその2段斬りに耐えた瞬間横から狼爪突きという技が飛んでくる。
狼を模した光と共に鋭い突きが放たれるかっこいい武技だ。
私の使える武技全体的に地味だなあ。
他にも武器が延長して波状に何度も斬りかかってくるものや浮きあげるように空へと昇る鳥がイメージされた光で斬り上げとか。
ガンガンと3人組は攻められていた。
そうそこまで徹底的にやられて。
「はあ、はあ、しんどっちい! こいつら……!」
「あと5人もいるのだが、いるのだが!」
「……なんだこいつら、しぶといそ」
兵がボソリと言葉をこぼす。
そのとおりだった。
兵たちは息を切らし武技を打ちまくっている。
そして3人組は息を切らしてはいるがまだ血を流しながら立っている。
武技を使わないのは武器が違うからだろうか。




