八百三十一生目 解析
"無敵"は敵愾心をなくす。
逆に言えば元々なめてかかってきたやつは完全に油断するのだ。
突然の私が手合わせ提案してもゾロゾロと外についてきてくれた。
いわゆる中庭になっていて訓練ができるようにちょっとした設備がある。
「まったく、お嬢ちゃんもモノ好きだね……オレたちに挑もうだなんて」
「ヒヒ、悪く思わないでくれよ?」
「せっかく声をかけてくれましたからね。ところで、ちょっとした賭けをしませんか? 負けたほうが勝った方の言うことを聞く、シンプルなやつで」
「ムホ」
3人の目が変わった。
欲の色に染め上げられている。
うーんゲスい。
相手と自分の力量差がはかれていない。
まあ私が隠蔽しているのもあるが……
隠蔽に気づかないのもまた1つの失敗談になる。
他の冒険者もチラチラとこちらに集まってきた。
こういうのはやっぱりちょっとしたエンタメになるからね。
「取りやめはなしだぞ!」
「言ったなぁ嬢ちゃん!」
「オレが先にやる!」
狸の皮算用……
なぜ相手がこんなことをふっかけたのか疑えないのは"無敵"とは関係ありません。
「じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃおう」
ぶっちゃけタイムリミットがあるだろうから。
「後悔するなよ、嬢ちゃん」
互いの武装は刃を潰し周りを覆った模造品。
勝負は3本先取。
向こうは1回ごとに交代。
急所に当てる姿勢に入ればオーケー。
つまり頭上に直や首それに胴や小手など。
実戦形式のため急所以外の攻撃もオーケー。
向こうはツーハンデッドソード。
つまり両手剣。
身の丈とあっていない。なんで?
今回力量だけじゃなく技量でも負かせたいので不得意な武器を使う。
直剣もまあ得意ではないんだけれど割と使っていたからなあ……
ということで。
「へぇ! こういう戦いで、斧で良いのかい?」
「ガードも難しいぞう?」
「大丈夫です、普段は使いませんが、今日はこれが良い運を引き寄せると思うので」
「……知らねえぞお? 調子に乗っちゃって」
舌なめずりする酔っ払いの顔が普通にテンションが落ちる。
こう……言いたくはないから言わないけれど……きたない……顔が……
とりあえず私も軽く振って調子を整える。
片手斧は非常にちゃんとした作りになっていた。
適度な重さと重量位置。
そりゃあとんでもない逸品に比べれば見劣りするけれどこの寂れた中では1番ちゃんとした模造品だったのだ。
私の血は使わない。
そして構える。
その構えは……カムイさんも同じ構えで。
カムイさんはユウレンの執事で実はアンデッドだ。
昔は組んで冒険したことがある。
今も学校で教鞭を振るって忙しそうだ。
彼の得物は片手斧。
1番知っている動きの1つが出来る。
さあて……
「ジャッジはわたしがやるよー。やりすぎないようにね……」
「へへっ、わーってるよ」
手すきの女性がひとりジャッジに立候補してくれた。
どうやら私をかばってくれているらしい。
多分かばう方は逆になるよ。
「よーしいいな、始め!」
合図と共に両者踏み込む。
互いに適正距離まであとわずか。
切り合いは互いの手数による足し引きの計算で有利不利が決まると言うが。
「はっは! もらっ」
「それ」
めっちゃスキだらけだからバンバン打ち込める。
立ち回りを瞬時に変えて色んな方角から斧を叩き込む。
小手。胴。甘い剣筋を弾いて開いた逆胴。後頭部からの……
「首」
「グアッ!?」
「えっえっ!?」
パワープレイだと意味がないのでシンプルな技量で攻めた。
だからスピードがあるように見せてちゃんと目で追えていたはずだ。
そこに反応出来るかは別だっただけで。
向こうから見たらどれだけ斧の動きが揺らめいたのかな。
私の動きも影に見えていたのかもしれない。
ボトリと弾かれた両手剣が落ちる。
「判定は?」
「あっ……い、一本!」
周囲のざわめきが一層強くなった。
斧を抜いて首元から離す。
男はそれだけで腰を抜かした。
「い、いでぇ……」
「どうした!? バカが、油断しただろ!」
「あ、あれ、オレは……?」
「次はオレだ!」
今度の相手は魔法使いらしく身の丈にまったくあってない小杖を指先で構えた。
どうして……
今度は距離が離される。
魔法使いもとにかくちゃんと訓練用レベルの威力が頭とかみぞおちに当たればオーケー。
ただまあ関係はないよね。
「この距離なら、間に合うはずがねえ!」
「始め!」
私はあえて動きを止めて見据えた。
こう見えて汎用的な前衛技術は結構あるんです。
「オラッ!」
放たれたのは土の石弾。
なんでやねん。
魔法はとっくに解析済みなのでそのまま介入して壊せるのだが。
切り捨ててみせた。




