八百十ニ生目 約束
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新しく活動報告を更新しました!!
「――剣神殿は乗り越えろ、倒してみせよと豪語されるのだから多少は僕のような小神に一本頂くくらいの成功体験を積ませて頂きたいものだね。多少の手応えはモチベーションになるからさ」
スイセンの口調には相手に臆する雰囲気はみてとれない。念話は罵倒と焦りだらけであってもそれを一切外には出さずに完璧に取り繕われている。
そもそも剣が本体の神にとって使い手として剣を握っている鎧は剣戟をやるための人形のようなものなのだ。
「手を抜くことこそ相手への礼に欠ける行いだ。だが、面白い――まだ先があるな」
……。あれ?
てっきり「ないわ」というツッコミ念話が飛んでくるんだと思ってたけど、あるの?先?
[シンシャ:まー、ここはプライベ~トな話なんで……]
私の疑問に普段は話たがりのリュウすら教える気配がなくて代わりにシンシャが濁すように答えた。
「久々にもう少し本気を出せそうだ。限界まで――見せてみろ!」
剣神の発する気配が増大する。彼にとっての遊びのチャンバラごっこをちょっとだけやめたということだった。
『いつになったら満足するんだよこの脳みそカラカラ剣バカ神!! これだから老害クソ大神共は! さっさと滅べ!!!』
スイセンは内心はめちゃくちゃキレている。おそらくスイセンにとって他者には見せたくも行使したくもない力を全て吐き出させるまで満足しないことは目に見えている。
「しかしこうも楽しめるとは予想以上だ。逃がさぬように呪いを『買った』だけの価値はある。このような急なことによく対応してくれた」
えっ。
『えっ』
[リュウ:はー、そうかそうか]
[VV:剣は呪いを使えないわけね]
「剣神殿が僕を買っていることに応えらればいいがね! 家猫の振りをした虎が子猫の反撃に本気になるようなものさ!」
しかしスイセンは剣神の失言に気づいた素振りを見せることは無い。むしろ決闘に乗り気になったかのように振る舞いながら――今まで攻撃に割いていたリソースを全て神視眼という名のついた障害物も貫通し遠くまで見わたせるスキルにぶち込んだ。
蝕死の呪いは術者が見ることが必要条件だ。
そして今回は急にかけた――つまり。
スイセンの視界共有で神視眼の視界が私にも共有される。
ほとんどスイセンの立っている場所からソナーのように細部まで円形に広がっていく。
1キロ探知――該当なし。
5キロ探知――該当なし。
"鷹目"のめちゃくちゃ上位じゃん、これ! 視覚処理はとんでもなく大変だろうなあ!
そして
18キロと452メートル。
拡げられたスイセンの眼がその姿を捉えた。霊能者の衣装を着ている、老齢の女性の姿形をしている小神だった。
術者は剣神ではなくても近くにいたわけだ。
その女性の背後にあった色々なものが念力の力で浮き上がる。
この距離でその精度って普通に強いよね。威力は高くないようだけど幾らでも戦闘に使えそう。
次の瞬間、家具やら本屋ら水晶玉やらが術者に飛びかかって術者をボッコボッコにした。もう必要ないのだろう。スイセンは神視眼を閉じた。
術者スイセンの胸についていた呪いが剥がれ――
あっ!もういない!!!
視界共有の視界が一瞬全然違う場所を写してから途切れる。
さっきまでむしろやる気になって剣を交わしていた相手は剣神にとってはあまりに唐突に消えた。振りかぶった最後の一撃はゼロエネミーに受け止められず空振りして飛んでいき遠くの雲が割れた。
「――何が起きた」
ただ、剣神は呆然としている。
とりあえず剣神の視界に入って詰問されてしまわないように私もここを離れておこう。
あれから半日。私も仕事ですっ飛ばされてきたもので仕事なのだから報告しなければいけないわけだけど、結局どういう風に報告したらいいのかが分からない状態だった。
大神と小神が戦って小神が途中で逃げたって正確に報告して大丈夫?どうそのへん? リュウたちにチャットを飛ばしてみたが返事は今のところ帰って来ていない。
ちなみにゼロエネミーはスイセンが消えた瞬間に私の手元に戻ってきている。よほどスイセンが気に入らなかったようだ。
【通常チャットルーム:お疲れ様会 に招待されていますログインしますか】
悩む私の前にポップアップ。通常ってことは多分時間は普通に流れるやつだよね。
【yes】っと。
「結構良くない?このへんの切り抜き。保存しとこ」
なんかやってる。
スイセンのアバターの前には端末のようなものが開いている。
さっきの戦いの映像記憶ログからスイセンが切り抜きをしている。激しい打ち合いのシーンや詭弁の部分などのカッコイイシーンを切り抜いて繋げている。え? 動画編集???
もう露骨に前世でいうインターネットなんだよね……
「さすがにない。大神とやり合ってあんなに大変だったのに、半日でそうケロってする?」
「……誰だローズオーラに招待だしたの」
スイセンが私に気づいて編集の手は別に止めないままげんなりしている。ゼロエネミーを貸す時に第一に決めた私を罵倒語で呼ばないという約束は守るつもりがあるようだ。




