八百十一生目 最悪
ほとんど破裂音のような巨大な雷が剣神に迫る。日が出てるにも関わらず、雷に付随する光がフラッシュのように周囲を白く染めた。
避けようのない広範囲の攻撃だった。あ、ちなみに私はチャット空間から帰ってきてからは離れたところから"鷹目"で全体を視界共有でスイセン視点を見ている状態なので巻き込まれることは無い。
だが――
「剣に雷など効かぬ! 剣は鋼である! 雷はただ我が身を焼くことはない!」
で
雷撃無効……!
『剣なら電流効かない理論ってなんだよ!!普通は多少効くわ!!』
相性もあるだろう。だけどさっきのは大神の一撃には及ばなくても神の放つ高威力の神鳴りだったのに全くダメージが入っていなかった。
っていうか普通にスイセンなんか強くない?
感じる神力も魔法の威力も先程より上がっている。これがチャット空間でやってた【承認】?
"観察"!
[スイセンLv.58→61 状態:蝕死の呪い・顔の無い神々 比較:少し弱い→強い]
観察で見られる比較値が強くなってる……。
以前観察したときは当時の比較値でも私より下だった。
レベルがちょっと増しているがこれは前との比較値であり今いきなり上がったわけではないだろう。多分逃亡生活が刺激になって経験を稼いだんだな。
雷魔法は効いていないがスイセンも効かない魔法を続けて撃つことはない。
次は――
空気の刃――風魔法――を放つ。圧縮された無数の風邪の刃が辺り一面に展開された。
「――風霧千羽!!」
それは実際見えている刃より手数が多い。見える空気の刃と見えない空気の刃が重なり合いまぎれることで認識できる手数を少なくしている。
そのまま、その無数風の刃をスイセンは剣神に叩きつけた。もちろんこうしている間にもゼロエネミーと剣は撃ち合っており、多層防壁による妨害防御も並行して行われている。
「面白い……まだまだ底が見えぬなッ!」
剣神の刃が振り抜かれる。それだけでも空気は道を譲り彼の剣ここにありと主張していた。
「だが! 甘い! 剣は風を裂くものであり風に裂かれるものでは無い!」
『どいつもこいつもスキルゴミ――!使えねー!!』
[VV:借りといてそれ言う?]
「身体が変わるようなものはなるべく使いたく無かったけど使うしかないか……マジで最悪……」
ゼロエネミーの攻撃範囲内の中で剣神とは距離をとって攻撃を繰り返していたスイセンがボヤきながら踏み込む。
作った防壁を足場にして蹴った。距離を詰めるということは隙間が産まれるということだ。ゼロエネミーの防御の刃が間に合わない。スイセンが身体周囲に纏うように展開している防壁が破壊され。
曲がる剣がスイセンの背後に――!
「とったと――思ったか」
次の瞬間、太い竜の尾が鎧に向かって振り下ろされていた。
だが鎧はその尾に叩き潰されることはない。尾は次の瞬間剣に斬り落とされていた。
だが切断面から血が吹きでるようなことはない。切り離されたとたんパンと弾けるように尾は消えて何事もなかったかのように傷一つなく生えている。
スイセンの姿はさっきの一瞬のうちに変わっていた。白い竜の尾と金色の角が生えている。やや体格も少しだけガッシリしていた。
リュウの能力だ。スイセンはリュウに似た姿になっている。リュウと違って両手足はあるけど。こういう力まで貸し借りできるんだ…。
「竜種の力を見に宿すスキルを持つか……昂ってきた……」
『かってに興奮してろバーカバーカ』
だからそういうのを念話しなくていいから。
明らかに身体能力が上がっている。魔法がことごとく効いていないので物理メインに切り替えたようだ。
だが、物理こそ剣神の領域だ。
「久しぶりに竜を斬れるとは。受け止めて見せよ、ドラゴン殺しの剣を」
剣神の剣がエフェクトをまとった。
「げーっ!!」
スイセンが悲鳴をあげる。
人の手に扱える大きさからドラゴンの首を狩る大きさへ、より重く固く剣が変形していく。
「"竜狩"!」
ドラゴンに対して強い力を持つ姿に変わった剣、その技が無情にもスイセンに向けて振るわれた。
ドラゴン狩りの剣は竜種を斬るための剣だ。ドラゴンに対して特効を持っている。ドラゴンであればひとたまりもなく、ドラゴンの力を使う能力にも刺さる。
ドラゴンであれば。
少なくとも私は知っている。リュウがドラゴンではないということを。もちろん当たり前にそれを分かっているスイセンのビビる声は嘘だ。ドラゴン以外にとってはただ相手の得物が変形しただけにすぎない。
竜狩という大技で生まれた僅かな隙をスイセンは狙った。
激しい剣戟と神同士の戦いが、その僅か一秒にも満たない間だけ止まった。
偽のドラゴンの上っ面を囮にスイセンがゼロエネミーを魔法で補助しながら空きの鎧に叩き込んだ。だけど隙をついても大神はこの分野においてスイセンの遥か先にいる。
「剣は守るものだ。我が身が砕けぬ限り使い手が倒れることはない」
わずかな隙すら対応され先回りされ受け止められていた。




