第69話
与根山の山頂にある御堂での戦闘が終わった後、休憩所で少しばかり休み、体力が回復した後に、登ってきた山道に沿って、与根山を下りることになった。
無事に下山した後、駐車場に停めていたワンボックスカーに乗り込み、出発する。
発車したワンボックスカーは信号まで走り、信号を曲がると国道に出て、来た時に使ったルートを戻るように走り始める。
それから数分後、絶壁を繋ぐ真っ赤に塗装された与根山大橋が見えてきた。
その大橋を走り抜けて、すぐに色んな魚介類が販売されている鮮魚センターの姿が見えてきた。
その鮮魚センターに入る入口が近づいてきたから、方向指示機を点滅させる。
そうして入口に来たので、そこから入る。
何で仕事帰りに鮮魚センターに寄ったかというと、実はこの鮮魚センターの隣にはホテルがあるのだ。
何でも、今回は仕事が終わったら、このホテルを利用しようと、吉川さんが予約していたのだ。
それで良いのかと思って、吉川さんに聞いてみたんだけど、
「大丈夫よ!必要経費で落とせるんだから、お金の問題は気にしなくても良いのよ!」
と、答えてきたのだ。
「ちょ、ちょっと!ホテルに仕事が終わった後にホテルに泊まるのが、何で必要経費になるんですか?」
僕は少し慌てながら、吉川さんに訊ねると、
「大丈夫!大丈夫!ちゃんと交渉して勝ち取ってきたんだから!」
吉川さんがまるで誇らしげにそう言ってきた。
「だから、それが心配なんです!」
思わず、そう声をあげてしまったよ。
「ホントに大丈夫だって!皆で山に登った後に、もしかすると山頂で戦闘になって、その後にまた山を下りる事になったら、かなり疲労が溜まる事になるわ!」
「だから、その結果、帰りの道すがら疲労に為に、交通事故になる可能性を示唆する事を書いたのよ。そうして、ワンボックスカーの全損、ただでさえ数の少ない霊器の使い手が全員死亡、更にもっと数の少ない霊器の全損による消失。これらの損失の可能性を考えた場合とホテル代の出費、どちらが損失が少ないかとしっかりと申請書に書いたら、簡単に許可が下りたわ!」
得意げにしている吉川さんの顔を見ていたら、少し頭痛がしてきた様な気がしてきたよ。
ホテルの駐車場にワンボックスカーを停め、着替え等の荷物を持って車から降り、一度表側の方に向かって歩き出す。
そうすると、すぐに鮮魚センターの姿が見えてきた。
その鮮魚センターを背にすると、目の前には横幅が5メートルくらいで、高さが二階建ての一軒家くらいの階段が続いていた。
その階段は、まるで神殿の入口の様な威容を放っているかのように、錯覚を覚えてしま
う。
視線を横に向けると、本間君も広花ちゃんも、階段の先、上の方を見上げる姿勢で動きが止まっていた。
「ねぇ!ここで立ち止まっていても仕方ないから、早く行きましょ!」
吉川さんがそう言って、階段を上り始めた。
「あ、はい!」
僕はそう答えて、吉川さんの後を追う様にして、階段に足をかけた。
そして、階段を上りきった所で、ホテルの入口が見えた。
入口はガラスで出来た自動ドアで、僕達が近づくと、軽い機械音と共に左右に開いた。
自動ドアから中は、如何にも高そうな絨毯がロビーに敷いてあり、それが受付カウンターまで続いていた。
吉川さんが受付まで歩いていくので、僕達もそれについていき、全員分のチェックインを済ます事が出来た。
受付で部屋のキーを受け取ると、僕達はエレベーターに乗り込み、上階に上がる。
エレベーターのドアが開き、目の前に伸びる廊下を歩き出す。
突き当りまで進むと左側に曲がり、すぐにキーに書いてある番号のプレートの付いた部屋の扉が見えた。
「ここみたいね」
吉川さんはそう言って、手に持っているキーをドアに差し込む。
「俺達はこっちだな」
本間君の声がして、そっちに顔を向けると、隣の部屋のドアにキーを差し込んでいる所だった。
「それじゃあ、またな」
本間君がそう言ってきたから、
「うん、またね」
僕はそう言って、吉川さんの開けた方の部屋に入る。
「わぁ!素敵な景色!」
先に部屋に入っていた広花ちゃんが、そんな歓喜の声を上げていた。
「ホントだ!いい景色!!」
広花ちゃんの見ている窓の方に、顔を向けると、僕もそんな声を出してしまった。
部屋の壁一面がガラス張りになっており、広花ちゃんはその前で、外の景色をみていたのだ。
そこから見えるのは景色一面を覆う程の海だった。
その景色を阻害するような、邪魔なものは存在せず、見渡す限りの水、水、水だった。
「ほらほら!この景色は後でも見れるから、早速お風呂に行って、汗と埃を洗い流しましょ!」
吉川さんが、手をパンパンと叩いて、僕達の注意を引いて、そう言ってきた。
「あ!そうですね!」
広花ちゃんはそう答えると、さっそく荷物から着替えを取り出し始めていた。
「それじゃあ、行きましょ!」
吉川さんのその言葉に、
「はい!」
広花ちゃんが元気に返事を返していた。
僕はその様子を見ながら、
「行ってらっしゃい!」
と言って、軽く手を振る。
ここはやっぱり、僕が混じると変に緊張したりするだろうし、そうなると疲れも満足に取れないと思う。
だから、ここは本当の女性同士でお風呂を楽しんだ方が良いよね?
僕はこの部屋に備え付けられているお風呂で汚れを落とす事にしようっと!
「英奈ちゃん、何を言っているの?」
吉川さんがそんな事を言ってきた。
「え?」
僕は何か変な事を言ったかな?
そう思いながら、吉川さんに軽く首を傾げてみる。
「そうですよ!英奈さんも一緒に行くんですよ!」
広花ちゃんもそんな事を言ってきた。
「え?だって、私はこの部屋のお風呂に入ろうかと思っていたんだけど・・・」
広花ちゃんに、僕はそう答えた。
「何を言っているのよ!せっかくホテルに来たんだから、一緒に大浴場に行きましょう!」
吉川さんもそんな事を言ってきた。
「2人とも何を言っているんですか。私が行ったら、2人とも落ち着いてお風呂に入れないでしょ?」
そう言ったんだけど、
「そんな事無いわよ!」
吉川さんが言うと、
「そうですよね~!」
広花ちゃんまでそんな事を言ってきたよ。
「で、でも、2人とも気にならないんですか?」
と問いかけてみると、
「「ぜんぜん!!」」
2人とも声をハモらせて返事をしてきた。
「で、でも、私が気になるんだけど・・・」
僕がそこまで言おうとしたら、
「でもも何でも無いわよ!」
そう言って、吉川さんがいきなり近づいてきた。
いきなりの事で、反応できないでいると、ぼくの両手首を掴んできたのだ。
「え?」
僕がそんな声を出している間に、
「捕まえた!」
吉川さんがそう言ってきた。
「吉川さん!英奈さんの着替えも確保済みです!」
広花ちゃんが僕の荷物を開けて、着替えを取り出していた。
何時の間に!?
「さっ!行きましょう!」
吉川さんが満面の笑みを、ただし、やたらと迫力のある笑顔でそう言ってきたと思ったら、掴まれていた両手が後ろ手に回されていたよ。
「さ~!早く行きましょう!」
その間に、広花ちゃんが部屋のドアを開けて、廊下側で待っていた。
ちょっと待って!
何で2人とも、こんなにコンビネーションが良いの?
そんな事を思っている内に、後ろ手のまま、廊下に連れられてしまった。
僕達が部屋を出ていくのと同じタイミングで、隣の部屋のドアが開く。
「お?三人ともどうしたんだい?」
隣の部屋のドアを開けた三井田が、そう声をかけてきたよ。
「これから三人でお風呂に行こうとしていた所なの!」
三井田の問いに、吉川さんが笑顔でそう答えていた。
「ちょっと三井田!この2人に言ってやってよ!」
僕が三井田にそう言うと、
「ん?どうかしたのか?」
「2人がお風呂に行こうとしていたから、女性2人で気兼ねなく楽しんでもらおうと思って見送ろうとしたら、私まで連れて行こうとするのよ!」
僕がそう状況を説明すると、
「別に良いんじゃないか?」
三井田はさも普通の事の様にそう言ってきた。
「だ、だって!ほら!私はアレなんだし・・・」
尚も何か言おうとしたけど、上手く言葉が思い付かずにいると、
「ほらほら!三井田さんもこう言っているんだし、早くお風呂に行きましょう!」
広花ちゃんがそう促していると、
「そうね!早く行きましょう!」
吉川さんが答える。
「お~!楽しんできなよ~!」
三井田がそう言いながら、見送ろうとしていた。
「ちょっと!三井田!何とかしてよ!」
僕は吉川さんと広花ちゃんに連行されながら、三井田に呼びかけると、
「中山!ホテルなんだから、大きな声を出すと、他の客に迷惑になるぞ~!」
そう返されてしまった。
僕の抵抗も虚しく、そのまま連行されてしまった。
大浴場に入った結論。
女性の裸の付き合いって、過激だったよ・・・。




