第68話
「山岸!今だ!!」
本間君が鋭い声を響くように発した。
「はい!」
広花ちゃんは、一声そう答えると、肩に担ぐように持っていた斧を勢いよく振り下ろした。
ズドン!
振り下ろされた広花ちゃんの斧は、先程と変わらない衝撃を与えたようで、さっきと殆ど同じような振動が、僕達の足元から伝わってきた。
しかし、その振り下ろされた斧は、またしても位牌に届いていないようだった。
だが、斧は先程よりも位牌に近い所まで、進んでいた。
「くぅ~~~」
広花ちゃんは振り絞るように力を込めて、押し込もうとしているが、やはり、まだ無理のようだ。
あと、ほんの数ミリ位で届いたのに!
「中山!」
本間君が鋭い声で僕に呼びかけてきた。
僕は、声を出してきた本間君の方に顔を向けると、本間君は凄く真剣な表情で、僕の方に顔を向けていた。
その表情から、何かを言おうとしているのかを読み解こうとした瞬間に、本間君の姿が横に動き出した。
それを目で追っていると、本間君は既に槍を構えた状態で走り出していた。
本間君は、右側に設置されている位牌に向かっていた。
その姿を見た瞬間に、本間君の言わんとした事が分かった様な気がした。
だから、僕はその考えに従う様にして、左側にある位牌の方に向かって、走り出していた。
僕は走りながら、手に持っている刀を横向きにして構える。
「はっ!!」
先に駆け出していた本間君が右側にある位牌の前まで来ると共に、手に持っていた槍を位牌に向かって繰り出していた。
広花ちゃんの斧と違い、本間君の槍は音も無く、位牌に吸い込まれていったかのように見えたが、広花ちゃんの斧と同じく、直前で止められていた。
「ちっ!」
本間君が舌打ちをする音が聞こえてきた。
ちょうど、その時に僕も左側の位牌の前に着いた。
そのままの勢いを利用すると共に、腰を回転するようにして捻り、構えていた刀を前の位牌に向かって、全力で突き出す!
突き出した僕の刀は、位牌の直前で止められてしまった。
やっぱり、僕の力ではこの結界を突破できなかったか!
しかし、そんなのは予想の範囲内だよ!
僕は刀を引き戻すと、すぐさま上段に持ち上げる。
「はっ!」
気合の声と共に、僕は高々と持ち上げられた刀を両手で構え、振り下ろす!
振り下ろされた刀は、結界の力で阻まれてしまったが、まだ残っていた勢いは殺しきれなかったようだ。
僕の刀の切っ先が、位牌の表面に当たり、軽く傷を付ける事が出来たのだ。
「やった!」
それを視認できた僕は一瞬喜んだが、いまだ結界が維持している所を見ると、あまり効果は無かったようだ。
「それなら、効果が出るまで、何度だってやってやる!」
僕は再び刀を引き戻し、そのまま、それを上段に構え直す。
そして、もう一度上段から振り下ろす!
その一撃は、更に位牌の表面に一筋の傷を付けた。
再び刀を引き、次に斜め右から袈裟懸けに斬りつける。
位牌に更に傷が増える。
今度は斜め左から、逆袈裟懸けに一閃する。
一撃毎に、位牌に傷が増えていっているが、いまだ破壊と言えるまでの損傷を与えられてない。
ふと、視線を他の皆の方に向けていると、そちらでも少しの変化が有った。
本間君は、今の僕と同じく、何度も何度も槍を繰り出しているようだった。
少し離れて見ているのに、物凄いスピードで槍を振るっているから、本間君の腕がブレて見える程だった。
そこから放たれている槍は、一撃一撃がまるで閃光が走っているんじゃないかと思ってしまった。
そして広花ちゃんも、手に持っている斧を上から叩き付けるだけではなく、遠心力を利用するように身体を捻りながら、横からも叩き付けている様だった。
やはり、一撃の威力が大きいからか、広花ちゃんの斧を叩きつけられている位牌は、端っこの方が欠けて、少しだけ散乱し始めていた。
それでも、まだ決定打にかけているようだった。
そう思い始めていると、僕の後ろを横切る影を見た気がした。
僕の背中を通り過ぎたのを感じたので、そちらを目で追う様にしていると、その影は、走っている三井田の姿だったのだ。
三井田はそのまま走り、薬師如来像の斜め後ろにある、五芒星の一角の一つである、まだ手を出していない位牌の前まで来ていた。
そして、すぐさま腰に佩いている鞘から、小太刀を抜き放つ。
三井田は足を少し開いた感じにして、安定した状態で位牌の前に立つ。
そして、抜いた小太刀を右手で逆手に持つと、柄の尻を左手で押さえる。
そのまま、小太刀を高々を掲げるように構えると、それを勢いよく振り下ろした。
「この~~~!」
三井田がそんな声を発し、自分の体重も乗せるようにしながら、小太刀を無理矢理に押し込むように力む。
振り下ろされた小太刀は、位牌に当たる直前、その動きが鈍ったように見えたが、それもほんの2~3秒くらいだった。
動きの止まっていた小太刀は、まるで突き抜けるように、いきなり進んだ。
結界を突き抜けた小太刀は、そのままの位置にあった位牌を、その刀身に捉える
小太刀の攻撃を受けた位牌は、まるで砕かれたかのように破片をまき散らしながら、後ろに吹き飛んでいった。
その瞬間、僕の目の前の位牌から発していた黒いモヤも、急速にその濃さが薄まってきた。
僕は反射的に位牌に向かって刀を振り下ろすと、多少の抵抗は感じたものの、そのまま押し切ると、位牌を切り裂く。
そして、返す刀で横薙ぎに振るって、周囲にあった別の位牌も一緒に上下に断ち割る事が出来た。
それを確認した後、状況を確認する為に周囲を見回してみると、本間君の目の前にあった位牌は全部、槍に貫かれたようで真ん中に穴を開けられていた。
広花ちゃんの方を見ると、彼女の所にあった位牌は粉々に粉砕されていた。
その様子から、どうやら2人とも、無事に位牌を破壊する事が出来たようだった。
そう思っていると、御堂の中に充満していた黒いモヤは徐々に薄れていって、完全に見えなくなっていった。
「ふぅ・・・」
僕は軽く息をつくと、近づいてくる足音が聞こえた。
音のした方に顔を向けると、そこには吉川さんがいた。
吉川さんは、額だけではなく、顔全体を汗に濡らしていた。
それだけではなく、何か少しやつれた様な気がするよ。
「やっと終わったわね」
吉川さんが凄く疲れたような顔をしながら、そう言ってきた。
「そうですね。・・・やっと終わりましたね」
・・・ホントに疲れた。
早く休みたいよ。




