第66話
「きゃっ!?」
それと同時に刀だけでなく、僕自身まで黒っぽい空気に包まれて、そのまま弾き飛ばされてしまった。
僕は姿勢を崩して、仰向けに倒れそうになってしまった。
ボスン!
そのまま床に背中を打ち付けると思っていたら、何かがクッションになって助かった。
「・・・え?」
僕は思わず目を閉じてしまっていたが、予想と違う感触だったから、恐る恐る目を開いてみると、すぐ近くに本間君の顔があった。
「え?」
僕は一瞬、状況を理解できずにいると、
「中山、大丈夫か?」
本間君に、そう声をかけられてしまった。
「う、うん」
僕は、何とかそう答える事が出来た。
そう答えた後に、慌てて本間君から離れようとする。
その時に、足がもつれそうになったが、足に力を入れてバランスを取って、ふらつきそうになるのを何とか堪えた。
どうやら、僕が弾き飛ばされるのを予測して、ここにいてくれたようだ。
「ありがとうね」
僕が本間君にお礼を言うと、
「ああ!」
そんな少しぶっきらぼうに答えてきたのだった。
「所で、これをどうしようか?」
僕は、たった今、僕が切り裂こうとしていた位牌の方に顔を向けながら本間君に訊ねてみる。
「そうだな。今度は俺が試してみるから、皆は少し離れていてくれるか?」
本間君も位牌の方に顔を向けながら、そう言ってきた。
「うん。わかった」
僕はそう答えて、本間君と位牌の線上から離れる為に後ろに下がった。
周りの方に視線を向けると、他の皆も察したのか、一緒に下がっていた。
本間君は僕達が離れたのを確認すると、姿勢を正しながら槍を構え出した。
そのまま重心を下げるようにして身体を安定させる。
「すぅー、はぁー」
本間君は精神を集中させる為に大きく深呼吸をしている。
一瞬、本間君の息が止まったと思った瞬間、本間君の姿がブレた。
そして、それと同時に位牌に槍を突き刺そうとしている姿が現れた。
「くぅ~」
槍を繰り出している本間君が、悔しそうに声を漏らしていた。
あんなに素早く繰り出した本間君の槍も、位牌の手前でその動きを止めていた。
あと、5センチ位なのに!
「あ!」
五芒星を構成している他の位牌の周りを漂っていた黒い煙が、本間君の握っている槍に向かって移動し出してきたのだ。
けれども、僕の発した声とほぼ同時に、本間君は槍を引き戻していた。
引き戻したと思ったら、すぐさま槍を近くにあった別の位牌に繰り出していた。
その一撃が位牌に届こうとした瞬間、また槍の動きが止まる。
「くっ!駄目か?」
本間君は、また槍を引き、もう一度槍を繰り出す。
その一撃は先の2激とは微妙にズレた軌道で繰り出されたが、それも阻まれる。
本間君はその後も何度か槍を一撃を繰り出したが、そのことごとくが位牌に届く前に阻まれる。
そうこうしていると、本間君の前にある位牌の周囲に黒いモヤが集まってきた。
「ちっ!」
本間君は舌打ちすると共に、攻撃の手を止め、後ろに飛び退る。
「本間君、大丈夫?」
下がってきた本間君にそう訊ねると、
「ああ!」
本間君は位牌から目を逸らす事なく、一言そう答えてきた。
「速さも駄目って事は、ここはやっぱり、力で押し込むのが良いですよね!」
僕と本間君の横から、広花ちゃんがそう言って近づいてきた。
「お前もやるのか?」
本間君は、広花ちゃんに問いかけると、
「もちろんです!」
広花ちゃんは妙に気合が入っているようだった。
「それじゃあ、皆、下がっててくださいね」
広花ちゃんは、手に持っていた斧を肩にかけて、そう言ってきた。
僕達は、広花ちゃんの邪魔にならない位まで離れる事にした。
「それじゃあ!せ~の!!」
広花ちゃんは、足を肩幅くらいの位置に広げる様にして立つと、斧を両手でしっかりと握り締め、それを高々と掲げる。
そして、そんな掛け声を上げながら、掲げるようにしていた斧を力いっぱい振り下ろす!
ズズン!!
広花ちゃんが斧を振り下ろすと、そんな音を立てながら、床が震動する。
「うわ!?」
僕と本間君、それに吉川さんは姿勢を正し、重心を落としていたから、多少の震動でも姿勢を崩す事は無かったが、三井田はそうゆう訳にはいかなかったようだ。
三井田は、尻餅をついたり、片膝をつく程ではなかったけれども、それでも姿勢を崩して、少し足が縺れそうになっていた。
今度こそ上手く、位牌を破壊できたかと思った。
そう思っていたが、広花ちゃんの振るった斧は直前で止まっており、位牌には届いてはいなかった。
惜しい!
さっきの本間君の槍よりも近くまで進んでいたが、それでも、無理だったようだ。
「こんの~~~!!」
広花ちゃんは力いっぱい声を出しながら、斧を押し込もうとしている。
広花ちゃんが力を込めると、僅かに近づくが、直ぐに押し返されて、中々上手くいかないようだ。
「むぅ~~~!!」
広花ちゃんが負けじと足腰に力を込めていると、また黒いモヤが集まってきた。
「広花ちゃん!下がって!!」
僕が広花ちゃんに叫ぶのとほぼ同時に黒いモヤが広花ちゃんに押し寄せ、広花ちゃんが弾き飛ばされる。
「きゃっ!」
広花ちゃんが悲鳴を上げて後ろに飛ばされてきた。
そして、後ろの壁に叩き付けられそうになったが、そこに飛び込む影があった。
その影は広花ちゃんの後ろに回り込むと、そのまま壁に叩き付けられた。
広花ちゃんと壁の間のクッションの代わりになって、広花ちゃんを守ったのだろう。
「2人とも、大丈夫?」
僕は壁に叩き付けられた2人にそう声をかける。
「は、はい!私は大丈夫です。でも・・・」
広花ちゃんはそこまで言って、心配そうな顔をして、後ろに顔を向けた。
「本間君、大丈夫?」
僕は広花ちゃんと一緒になって、広花ちゃんのクッションになった影、いや、本間君にそう呼びかけた。
「っ~~!あ、ああ!俺は大丈夫だ!」
本間君は背中を押さえながら、呻いていた。
僕と広花ちゃんが心配になっていると、本間君が立ち上がってきた。
「俺は大丈夫だから、2人とも、そんな顔をするなよ」
本間君が顔に流れている冷や汗を腕で拭いながら、そう言ってきた。
「本当に大丈夫なの?背中がかなり強く打ったでしょ!」
そう訊ねたんだけど、
「ああ!これくらい、何てことは無いぞ!」
本間君は笑いながら、そう答えてきた。
まったく、本当は背中が痛いくせにやせ我慢して!
そう思っていると、
「なるほどね」
少し離れている所にいた吉川さんがそう言ってきた。




