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霊器の想起  作者: 甘酒
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第63話

「ほら!広花ちゃん!頑張って頑張って!」

 ようやく復活して、立ち上がってきた広花ちゃんを励ますように、僕はそう語り掛ける。

「は、はい」

 広花ちゃんはそう言いながら、何とか歩き出してきた。


 駐車場を出て、登山道に向かって歩き出す。


 歩き出すと、自動車がやっと通れる位の細い舗装された道に変わってきた。

 そして、10分も経たない内に、直ぐに木造作りの一軒家が見えてきた。昔からあるような感じの一軒家がポツリポツリと点在していた。

 いかにも、昔からあるような集落を歩いていると、進行方向の先に山に入るような坂道が見えてきた。


 あっという間に与根よねやま登山道に着いたのだ。

 与根山登山道の入口に、大きな木の杭が刺さっており、その上部に木の板が横向きになって打ち付けられてあった。

 その木の板には、与根山登山道コースと書かれてあった。



「ここから登るんですか?」

 広花ちゃんがそう聞いてきた。

「ええ、そうよ!」

 吉川さんが広花ちゃんの問いにそう答えた。

「ええ~~~!?」

 広花ちゃんが凄く嫌な顔をしながら、そんな不満の声を上げてきた。


「そんな声を出しても、私達がこんな格好していた時点で予想はしていたでしょ?」

 僕はそう言いながら、軽くスカートをつまんでみせる。


 そう!

 今の僕の服装は、紺色のTシャツに、迷彩柄のスカート、黒色のスパッツを穿いているのだ。

 つまり、戦闘用の動きやすい服装にしているのだ。

 因みに、本間君も僕と同じで、紺色のTシャツと迷彩柄のズボンという戦闘用の服装であるし、三井田の服装も本間君と同様の姿だった。

 そして吉川さんは、戦闘時には巫女服を着ているんだけど、現在は動きやすい様に登山用の服装を着ていた。

 山に動きやすい服装で行くのは、即ち、山に登る事が前提になると思うんだけどね。


「ま、まあ、ある程度は予想はしていましたけど・・・」

 広花ちゃんが声を小さくしながら答えてきた。

「予想が出来ていたんだから、ここは諦めて、歩きましょ!」

 僕がそう言って、広花ちゃんに手を伸ばす。

 広花ちゃんが諦めたように、ゆっくりと手を出して、僕の手を握り返す。


「じゃあ、行こうよ!」

 僕がそう言うと、

「は、はい」

 広花ちゃんがそう答えて、僕の後ろについて歩き出してきた。


 与根山登山道コースの看板の隣には、土を踏み固めて作られたような坂道が続いていた。

 その坂道を歩いていると、それが階段に変わっていた。


「・・・こ、これを登るの?」

 その階段を見上げた広花ちゃんが、そう言ってきた。


 その階段は、踏み固められた土の坂道に、細長い木の板を横に嵌めて、その板が数百枚、数千枚と続いており、その段差がまるで階段になるようになっていたのだ。


「そうよ!だから頑張って!」

 僕が励ますように両手の拳を握って顔の前で並べる。

「・・・え、ええ~~~」

 広花ちゃんが露骨に嫌そうな顔をしてきたから、

「そんなに嫌そうな顔をしても、これは仕事なんだから、諦めて前向きに登った方が、少しは気が楽になると思うよ」

 と、諭す事にした。


「うう~~~・・・」

 広花ちゃんは迷った顔をしながら、唸っていたが、やがて溜息をついてきた。

「あ~も~!分かりました!登ればいいんでしょ!登れば!!」

 そう言って、広花ちゃんは階段を上りだした。

「そうそう!この仕事が終わったら、後で好きな物を作ってあげるからね」

 広花ちゃんのやる気に、僕がそう言うと、

「約束ですよ!」




「何か登り辛い階段ですね・・・」

 広花ちゃんが、そういう感想を言ってきた。

 確かにこの階段は、段差の高さも違えば、次の段差までの距離も違うから、同じペースで登る事も出来ないし、妙に疲れてくるのだ。

「まぁ、そうなんだけど、それが山登りの醍醐味じゃないかな?」

 僕がそう言ったんだけど、

「そうですか?」

 広花ちゃんに返されてしまった。

「うん。とりあえず、前を見てみてよ!」

 僕の言葉を受けて、広花ちゃんが面倒臭そうな感じながらも、前を見る様に顔を上げてみている。

 その瞬間、広花ちゃんの顔が、輝いているかのような笑顔になった。


「わぁ~!まるでギリシャの神殿にある柱みた~い!」

 目の前に広がる景色を目にしながら、広花ちゃんがそんな歓声を上げてきた。


 登山道に入ってから立っていたブナの木は、奥に進めば進む程、木の本数が増えていっているだけでなく、そのブナの木の高さや太さまで凄くなっていた。

 その様は、さっき広花ちゃんが言っていた様に、ギリシャにある神殿の中に立ってある柱の様に見えてくるのだ。


「こういう景色ってのも、たまには良いものでしょ?」

 僕は広花ちゃんの方に顔を向けて、そう訊ねると、

「はい!」

 広花ちゃんから元気の良い返事が返ってきた。


 さっき、神殿の柱みたいだと表現していたが、確かに何と言うか、神秘的と言うか、雄大な感じを受けてくるのだ。


「でも、何で山道の木々を見ているだけで、こんなに凄いというか、幻想的に思う感想を持つんですか?」

 広花ちゃんがそんな疑問を持ったのか、そう聞いてきたのだ。

「それは多分、この山が霊峰だからじゃないかな?」

 だから僕はそう答えたよ。

「霊峰?」

 広花ちゃんが首を傾げながら、そう繰り返してきた。

「うん!この与根山はね、990メートル位の高さしかないけど、薬師如来を祭っている山で、霊峰なんだよ」


「そうなんですね」

 僕のそういう説明を聞いていた広花ちゃんは、今までとは違い、前向きな表情になっていた。

 それから、自分から階段に足を踏み出していた。



 歩き続けていると、ふと、木々がいきなり開けてきた。

 開けた事によって、視界も開けていた。

 そこには、下り坂が有り、そこを降りた後に、また上り坂になっている山道が見えてきたのだ。


「ほら!広花ちゃん!あれが山頂にある小屋だよ!」

 僕は前方にある小屋の方に指を指し、横にいる広花ちゃんのいる方に顔を振り返らせながら、そう伝えたのだ。

「やっと、着いたんですね!」

 額に汗を浮かべながら山道を歩き続けていた広花ちゃんは、安堵したかの様に、息を吐いていた。


「ま、まあ、ここから、また下に降りて、それからまた、この坂道を登る事になるんだけどね・・・」

 ポケットからハンカチを取り出し、それで額の汗を拭いながら、広花ちゃんにそう伝える。

「ええ~~~」

 広花ちゃんは、明らかに不満そうな顔をしながら、そんな声を上げていた。





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