第60話
テーブルに、僕の霊器である日本刀を置いてある。
僕は左手で鞘を握り、日本刀を持ち上げる。
そして、右手で柄を握り締め、ゆっくりと引き抜いていく。
引き抜かれた日本刀を掲げる様にし、少しずつ角度を変えながら、光の反射を利用しながら傷や刃毀れが無いか確認していく。
確認が終わると、手首を捻るようにして、反対側に向かせる。
そしてまた、さっきと同じ様に角度を変えながら、傷などが無いかを確認していく。
「・・・ふ~!!」
刃毀れが無い事を確認できた事で、一先ず安心できたので、息をつく。
僕は日本刀をゆっくりと鞘に戻し、それに負担をかけないようにしながら、机の上に戻す。
それから、新聞紙を机に広げる。
これは、これから行なう作業で、細かいパーツが落ちた時に、分かりやすくする為なのだ。
広げた新聞紙の上に、さっき確認していた日本刀を置き直す。
机の下に用意していた工具箱を手に持ち、それを机の端っこに置く。
工具箱のストッパーを外し、その中にある木槌と目釘抜きを取り出す。
僕は、左手に竹の棒で作られた目釘抜きを持ち、右手に木槌を手に持つ。
そして、柄の中央辺りにある竹で出来た目釘に目釘抜きを合わせる。
その目釘抜きの尻に、木槌をコンコンと軽く叩いていく。
そうすると、柄に入っていた目釘が少しずつ、少しずつ、抜けていった。
そうやって、ある程度が出てきたので、木槌で叩くのを止めて、手でクイクイっと引き抜く。
引き抜いた目釘を、机の上に用意していたトレイに置く。
僕は目釘の抜けた柄を握って、ゆっくりと引き抜いていく。
鞘を引き抜いた後の所には、金属の塊が姿を見せていた。
姿を出した金属の塊は、茎と言われる部分だ。
日本刀の刀身は、まるで磨き上げた鏡のように綺麗な表面をしているんだけど、いま姿を現した茎は、そんな事は無く、少しザラついていた。
その茎の中心付近に穴が開いてある。
それは、刀身と柄を固定する為の目釘を通す為の穴なのだ。
「っ・・・!?」
僕はその部分を見た瞬間、顔を顰めてしまった。
目釘穴から茎にかけて、別の金属がコーティングの様に覆っていた。
そう、これは補強をした後が有ったのだ。
あらためて睨むようにして、その補強部分を見続けてしまう。
コンコン
そうやって見続けていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ!」
僕がノックの音にそう返事をすると、カチャッという音を共にドアが開いた。
そこに立っていたのは、本間君だった。
「ちょっといいか?」
本間君はそう聞いてきたから、
「ええ!」
僕がそう答えると一歩踏み出し部屋に入ってきた。
「それで、どうしたの?」
部屋に入ってきて、僕の目の前まで歩いてきた本間君にそう訊ねる。
「ああ、中山も得物を確認しているって聞いたから来てみたんだ。自分の得物をチェックしていたんだろ?」
本間君がそう聞いてきたから、
「うん。報告で聞いていたけど、やっぱり自分の目で直に確認したかったからね」
そう答えた。
「それで、どうだった?」
本間君が僕に感想を聞いてくる。
「う~ん。報告書に書いてあった通り、亀裂が走っていたんだろうね?茎の目釘穴の辺りが補修の跡があったわ」
だから、僕はそう答えた。
「はぁ、やっぱりかぁ~」
僕の答えに本間君が右手で頭の毛をかきながら、溜息をついた。
「私もって言っていたけど、本間君も槍をチェックしていたの?」
頭をかいていた本間君に、そう訊ねてみたら、
「ああ!俺の方も報告書に書いてあった通りだったな」
と、言ってきたよ。
砂土金山で、僕と本間君が生き埋めになった時、それぞれの霊器を手放してしまったんだけど、僕達の救出の後にちゃんと発見されたらしい。
ただし、やはり無事にとはいかなかったらしく、それぞれに破損が確認されたと報告書に記載されていたのだ。
・・・まぁ、あんな崩落に巻き込まれて、完全に破壊されていなかっただけでも、幸運なんだけどね。
僕の日本刀の方は、刀身は鞘に入っていたからか、無事だったんだけど、その代わり、鞘と柄と鍔は完全に使い物にならない状態になっていたらしい。
それと、こっちの方が問題なんだけど、茎が目釘穴の辺りで亀裂が走っていたらしいのだ。
その為、亀裂部分に金属で覆って補強する事にしたらしい。
それと、本間君の槍の方は、刀身に数か所の刃毀れが確認された。更に、柄は所々が砕け散っていて、交換する事になったらしい。
本来だったら、刀も槍も打ち直した方が良いんだろうけど、霊器でそれを行なった場合、ちゃんと霊器として再生できるかが分からないので、簡単な補強で済ますしかなかったらしいのだ。
「それにしても、こうゆう補強はされてても、やっぱり気を付けて扱わなくちゃいけないよね?」
僕が本間君に確認するように、そう聞くと、
「ああ。補強してあるとはいえ、やっぱり元の強度には及ばないからな~」
「・・・やっぱり、そうだよね~」
本間君の言葉に、僕はつい溜息が出てしまう。
「ま!あんまり気にしていたら、動きの妨げにもなりかねないから、あんまり気にするなよ」
本間君がそう言ってくるから、
「・・・うん」
僕はそう言って頷くのだった。
「そういえば、少し喉が渇いたな」
唐突に、本間君がそんな事を言ってきた。
「コーヒーでも淹れようか?」
僕が本間君にそう言うと、
「いや、自分で淹れるからいいよ」
本間君がドアに向かいながらそう言い、断られてしまった。
「・・・そう」
僕がそう答えると、
「中山!お前の分も淹れておくから、早く来いよ」
本間君がそう言ってきた。
「え?淹れてくれるの?」
僕がそう確認するけど、それには答えず、
「ちゃんと、片付けてから来いよ」
そう言って、部屋から出て行ってしまった。
「・・・まったく、不器用なんだから」
さっきのコーヒーの話を思い出して、つい苦笑してしまった。
本間君が不自然な態度で、僕の落ち込みそうになっていた意識を別の方に向けようとしていたんだと思ったよ。
そんな事を思っている内に、鞘を嵌め、目釘を穴に差し込み、鞘を刀に固定する。
その後、工具を片付け、本間君のいるであろうリビングに向かう為に、ドアを開ける。




