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霊器の想起  作者: 甘酒
59/74

第58話

ピピピピピ!


 脇の下に入れていた体温計から電子音が聞こえてきた。

 だから僕は、パジャマの襟首を引っ張り、そこに手を突っ込み、脇の下に差し込んでいた体温計を引っ張り出す。

 そして引っ張り出した体温計に表示されている温度を読んでみる。


36.8度


「うん。ほとんど問題無い体温ですね」

 僕はそう言って、目の前にいる吉川さんに体温計を渡した。

「そうね。ホントに問題無さそうね」

 受け取った体温計を確認していた吉川さんが、そう答えていた。


「それじゃあ、そろそろベッドから起き上がっても良いですよね!」

 僕は期待を込めて、吉川さんにそう訊ねてみると、

「ん~、もう少し待ってね」

 吉川さんがそう言ってきた。

「え~~~!?」

 僕は不満な声を上げる。




 砂土ヶ島で生き埋めになり、無事に救出されてから、僕と本間君は永岡市内の病院に入院する事になったのだ。

 まぁ、生き埋めになったんだから、身体にどんな怪我や無理がかかっているか分からないから、それは仕方ないんだけどね。


 ただ、色々な精密検査が終わった後、本間君は異常無しと言う事で、早々に退院できたのに、僕はまだ入院しているのだ。

 だからと言って、何処かが怪我をしている訳でもないし、何処かが異常がある訳ではないんだよね。

 そういう訳で、僕も早く退院したいんだけど、お医者さんも吉川さんも許可してくれないんだよな。


 何か問題が発見されているんなら、僕にも教えてもらいたいんだけど、何も異常は発見されていないらしいんだ。

 それなら、さっさと退院したいんだよね。


 早く皆のいる家に帰りたいよ!

 だって、いつまでも帰らないと、その分だけ、家の中が散らかっているに決まっているんだから。

 それに、皆のご飯はどうなっているの?

 聞くのが怖くて、聞けないんだけど・・・。

 そう言う訳で、僕の精神衛生上、早く帰りたいんだけど・・・。


「それじゃあ、吉川さん達って、今はどんな食生活をしているんですか?」

 僕は心配になっている事を聞いてみようと思い、そう訊ねてみた。

「それは大丈夫よ!今は広花ちゃんが食事当番をしてくれているから、ちゃんとした食事を摂っているわよ」

 吉川さんはそう答えてきた。

「それじゃあ、昨夜はどんな料理を食べたんですか?」

 僕は更にそう聞くと、

「昨夜はねぇ、えっと・・・、そう・・・、そうそう!ハンバーグだったのよ!」

 吉川さんがそう答えてきた。


 ・・・あやしい!

 何で昨夜の料理を言うだけで、あんなに言う淀むの?

 僕は、つい吉川さんをジト目で見てしまった。

 そうしたら、吉川さんが顔を背けてくる。


「ホントは何を食べているんですか?」

 僕は更に問い質すと、

「・・・・・・・・・」

 吉川さんは何も答えなかったけど、その横顔からは冷や汗が流れていた。

 ・・・ちょっと待て!

 まさか3食ともカップラーメンとか言わないよね!?


 僕が更に聞こうとしたら、

「英奈ちゃんはそんな事を気にしないで良いのよ!」

 吉川さんがズイッと顔を近づけて、そう言ってきた。

「え?」

 いきなり顔を近づけられ、怯んだ僕がそんな声しか出なかった。


 その隙に吉川さんは病室の出入り口に歩き出していた。

「とりあえず、英奈ちゃんはもう少し病院のベッドで大人しくしていてね!」

 そう言って、ドアを開けて病室から1歩踏み出していた。

「え?ちょっと!」

 僕は慌てて声を出したんだけど、吉川さんはそれには無視されてしまった。

「じゃあ、また来るわね~!」

 そう言って、ドアを閉めて病室から出て言ってしまった。




_________________




 病院から戻った私は、一息をつく為に、カップにインスタントコーヒーと砂糖を入れて、ポットのお湯をカップに注ぐ。

 それから、スプーンを使ってカップの中身をかき回す。

 そして、そのコーヒーを一口啜る。

「ふ~~~!」

 コーヒーの苦みが緊張を解いたのか、そんな声を出してしまった。


コンコン


 そうしたら、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

「開いているわよ」

 私がそう言うと、カチャッという音と共にドアが開いた。

 そこでドアノブを手にしながら、立っていたのは、本間君だった。

 本間君は、そのまま部屋に入ってきて、ドアを閉める。


「あら?本間君、どうしたの?」

 私は部屋に入ってきた本間君にそう声をかけると、

「吉川さんに聞きたい事が有ってな・・・」

 本間君はそう答えながら、私の方に近づいてきた。

「何かしら?」


「・・中山はどんな感じでした?」

 本間君は、少し躊躇した後に、そう言ってきた。

「英奈ちゃん?」

 私はつい首を傾げてしまう。

「はい!」

 本間君は神妙な顔つきで頷いてきた。

「何?そんなに英奈ちゃんの事が心配?」

 私がそう言うと、

「当たり前だろ!」

 本間君は大きく頷いてきた。

「へ~!そ~!ふ~ん!」

 私がそう言うと、


「おい!いま変な想像しているだろ!」

 本間君が机に手をついて、大声を出してきた。

「別に~!!」

 私はそう答えたんだけど、

「嘘つくな!それなら、何でそんなにニヤニヤした顔になっているんだよ!」

 本間君が半眼で睨んできた。


「まぁ、冗談はこの位にしておくわ!聞きたかったのは、英奈ちゃんの様子でしょ?」

 私が真顔になって、そう言ったら、本間君が疲れた顔をしてきたわ。

 若いのに、体力無いわね~~~。


「は~!・・・それで、どうでした?」

 本間君が溜息をついてから、そう訊ねてきた。

「そうね。結論を言うと、いつもの通りで、異常無しだったわ」

 私は簡潔にそう答えた。

「異常無し?」

 私の言葉に、本間君が問い返してきた。


「ええ!病院で精密検査をした結果、身体的に問題が無い上に、精神的にも問題となるような異常は発見されなかったわ」

 私は、病院でも検査結果を本間君に伝える。

「そんな馬鹿な!あの時、中山はまるで別人格みたいになっていたぞ!」

 本間君私に向かって叫んでいた。

「このあいだ言っていた、山で生き埋めになる前の事よね?」

 私が問うと、

「ああ!あの時の中山は、全くの別人みたいな態度と話し方だった。まるで、昔の人間だけど、現代の事を知っているみたいな言い方をしていたし・・・」

 本間君がそこで、言葉を切っていく。


「確かに、そういう姿の英奈ちゃんを、以前、私も見た事があるわ・・・」

 私がそう言うと、

「やっぱり、吉川さんも気付いていたんだな・・・」

 本間君が嘆息たんそくしながら、そんな風に言っていた。


「ええ!」

 私が頷くと、

「それなら、何で今まで知らせなかったんだよ」

 と、問うてきた。

「だって、まだ何も分からなかったし、変な事を言って、状況を複雑にしたくなかったから、経過を確認していたのよ」

 私は理由を話した。


「それなら、もう少し観察する為に、暫くはアイツを前線に出さない様にしませんか?」

 そんなような事を、本間君が提案してきた。

「それなんだけどね、上の方から、英奈ちゃんを前線に出し続けるように言われたのよ」

 私がそういう事情を言うと、

「何だよ、それ?」

 本間君がそれだけを口にしたのだった。

「そんなの私に言われても分からないわよ!」





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