第57話
「・・・んっ」
僕は妙な狭苦しさを感じて、目が覚めた。
何だろう?
何か狭い場所にいるのか、身体のあちこちに物がぶつかる様な感触を感じる。
此処は何処だろう?
僕はゆっくりと瞼を開くと、そこは真っ暗だった。
「中山、目が覚めたのか?」
僕の直ぐ上から声が聞こえたから、顔を上に向けるとそこには本間君がいた。
真っ暗だと思っていたけど、本間君の頭頂部のあたりから、一筋の光が差し込んでいたのだ。
「・・・本間君?」
僕は、つい疑問形でそう訊ねてしまった。
「ああ!」
本間君はいつもの調子で、答えてくれた。
「ここは?・・・」
僕は動こうとすると、ほんの数センチで動けなくなってしまった。
何か凄く硬い物に覆われているみたいだな。
「おい!あまり動くなよ!」
本間君がそう文句を言ってきた。
「あ、ゴメンね!」
僕は反射的に謝ってしまった。
見てみると、本間君が顔を横にむけていた。
そっちの方は真っ暗で何も見えないと思うんだけど?
「え~と、これって、どうゆう状況なの?」
僕はそんな本間君に問いかけると、
「あ~!どうやら、山に大量の爆弾をセットして、それを同時に連鎖するように爆発させて、山を崩したみたいだな」
本間君がそう答えてくれた。
「山を崩すって、そんな事が簡単に出来るの?」
僕が驚いて、そう言うと、
「実際に崩したじゃないか」
「それはそうなんだけど・・・」
少し言い淀むと、
「他の山だったならともかく、この山は金山として、かなり掘ってあるから、その分脆かったんじゃないかな?」
本間君がそう補足してくれた。
「そっか・・・」
その説明で何とか納得は出来るかな。
「それで、地面が崩れて、俺とお前がそれに飲み込まれて、今のこの状況なんだよ」
本間君が更に今の状況を、そう言って教えてくれた。
「・・・それって、私達、よく潰されなかったね」
僕が冷や汗を流しながらそう言うと、
「そうだよな~!飲み込まれて運が悪かったのか、潰されなくて運が良かったのか・・・」
本間君までそう言ってきた。
暗くて顔がよく見えないけど、多分、苦笑いしているのかな?
「あれ?」
僕はある事に気が付き、左右の手を握ったり開いたりしてみた。
「どうしたんだ?」
本間君がそんな僕に気付き、訊ねてきた。
「うん。刀を落としたみたいで、両手に無いの」
だから、僕は正直に話したよ。
「何となく予想はしていたけど、やっぱり落としたか~」
「うん。どうしよう?」
「この場合は仕方ないんじゃないか?そもそも、俺も落としたし!」
「え?本間君も?」
「そうだよ」
「そうなんだ・・・」
「まぁ、今はそれよりも、ここからの脱出が最優先だよ!」
「うん。そうだね!」
動けないけど、取りあえずは少しでも情報を集めようと、暗いココを見渡そうとしたら、
「中山!だから、動くなって言っただろ!」
そう、本間君に言われてしまった。
「うん。ごめん!でも、少しでも何か分からないかと思って見渡していたんだけど」
僕が一応弁解しようとしたら、
「そうじゃなくて!胸が当たっているんだよ!それなのに、モゾモゾと動くのが感じられるんだよ!」
本間君が軽く叫ぶようにして、そう言っていた。
「え?」
本間君にそう言われたから、あらためて自分の状態を見てみると、
かなり、スゴイ状態になっていた!
僕と本間君は、どうやら土砂や瓦礫に生き埋めになっているようだ。
偶然なのか、木や岩石なんかが微妙に組み合わさって、僕も本間君も潰されなかったのは幸運とも言えるな。
そのお陰で助かったようだけど、ギリギリのスペースで動く事が出来ないよ。
それで、今の僕の状態はと言うと、本間君と向かい合っている状態で密着していたのだ。そして、本間君の胸に顔を埋めて、本間君のお腹に胸を押し付けていたのだ。
更に落下した時に庇ってくれたのか、本間君は両手で僕を覆う様にしてくれていた。
これは、客観的に見たら、まるで抱き締められてるかのように見えなくもないよ。
うっ、うわ~~~!!
とてつもなく、とんでもない状況だよ~~~!!
そ、それなのに、モゾモゾと動いていたから、押し付けていた胸をモゾモゾと動かしていたんだ~~~!!
「ご、ごめん!」
そう言って、僕は少しでも離れようとするんだけど、元々狭い上に、本間君の腕が僕の背中にまで回っているから、後ろに下がる事が出来ないよ!
うわ~~~!
うわ~~~!
どうしよう!
現在の状況を認識しだしたら、冷や汗が流れ出してきた。
はっ!?
そういえば、山を登ってきたから汗を掻いていたんだった!
ま、まさか!
汗臭くなっていない?
もしかして、本間君にまで臭っている?
・・・って、そうじゃなくて!!
早くこの密着した状態を何とかしなければ!
そして、早く胸を押し付けている現状を何とかしないと!
広花ちゃんよりも、胸が小さいと思われたかな?
・・・って、そうじゃなくて!!
そうそう!
幸い、暗いから本間君に気付かれてないと思うけど、スカートが捲れたりしているから、何とか今の内に直さなきゃね!
そう思って足をモゾモゾと動かしていると、
「な、中山!お前は何をやっているんだよ!?」
本間君が騒ぎ出してきた。
「え?」
「え?じゃないだろ!何で俺の足に、お前は足を擦り合わせてくるんだよ?」
その言葉で、僕は気づいた!
そうだよ!
スカートが捲れているって事は、生足を本間君の足に擦り合わせているって事じゃないか!
これじゃあ、まるで誘っているみたいじゃないか~!
「ご、ご、ごめん!!そんなつもりじゃないから!」
思わず僕は反射的に謝っていた。
「そんなつもりって何だ?」
本間君がそう訊ねてきたけど、まるで誘っているみたいだなんて、そんな事が言えるか~~~~~!!
僕は動く事を諦め、本間君の胸に自分の側頭部を当てるようにしていると、頬に体温を感じてくるし、耳には心臓の動いている音が聞こえてきた。
その音を聞いていると、今の状況って、まるで女が男にしな垂れかかっているみたいじゃないか!
そう思ってしまったら、顔が、そして耳が、更に額までが熱くなってきたよ。
これがコメディ漫画だったら、頭から湯気でも出ているんじゃないかと思うよ。
うう~~~。
何とかして、早くこの状態から脱出できないかな~。
「中山。少し落ち着け!」
僕が心の中で色々な葛藤?をしていたら、本間君がそんな事を言ってきた。
「ほ、本間君・・・」
そ、そんな事を言われたって、そんな簡単に落ち着けるか~!
そう思っていたら、急に締め付けられた。
「な、何?」
僕はそう問いかけると、
「少し落ち着け!こんな所で慌てていても仕方ないだろ?」
「それは、そうなんだけど・・・」
「いいから落ち着けって!」
「・・・うん」
一応、そう答えたけど、でも、すぐには落ち着けないよ~!
そんな感じで、ずっと救助を待ち続けていたんだけど、一瞬たりとも心の平穏は訪れなかったよ。
そして、吉川さんや広花ちゃん達が僕達を見つけて助け出してくれた頃には、肉体的な疲労は元より、精神的にもヘトヘトになってしまったよ。




