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霊器の想起  作者: 甘酒
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第56話

 そんな事を思っていたら、急に眠気が襲ってきた。

 こんな時に、寝るなんて不謹慎な真似は出来ないと我慢しようとしたが、抗う事が出来なかった。

 僕は膝に力が入らず、崩れ落ちそうになる。

 そして、そのまま、僕の意識は暗転した。




_______________




 私は目の前にいる本間さんの肩に手を置き、

「本間さん。ここは私に任せてもらえませんか?」

 と、話しかけた。


「中山?」

 本間さんは振り返り、不思議そうな顔をして、私の顔を見てきた。

 何か不安そうな顔をしていたから、私は安心させるように、本間さんに向かって頷く。

 そして私は歩き出し、その本間さんの前を通り、お藤ちゃんの前に進み出る。


「お藤ちゃん。久しぶりね」

 私は微笑みながら、お藤ちゃんに語り掛ける。

「ま、まさか、目覚めたのですか?」

 お藤ちゃんは、目を見開いて私を凝視して、それから、そう言ってきた。

「ええ!」

 お藤ちゃんの言葉に、私は頷きながらそう答える。


「目覚めてくれるなんて・・・」

 お藤ちゃんは、そこまで言って、言葉を詰まらせていた。

「まさか目覚めるとは思わなかったけど、凄く嬉しいです!」

 そう言うと、お藤ちゃんの頬を一筋の涙が伝い落ちる。

「私もまた貴女に会えるなんて思ってもいなかったから、嬉しいわ!」

 私も笑顔で、そう答える。


 それから、暫くはお互いに言葉が出てこなかった。



 その沈黙を、お藤ちゃんは私に話しかける事で終わらせる。


「あの!」

 左手で涙を拭ったお藤ちゃんが、かなり真剣な表情で私の顔を見てくる。

「なに?」

 私は軽く首を傾げて、先の言葉を促すようにする。


「いつから、目覚めていたんですか?」

 お藤ちゃんは、そんな事を聞いてきた。

「いつからって?」

 私はついそう返してしまう。

「それは勿論、霊器となって、生前の頃の記憶を思いだしたかって事ですよ!」


「そうね。そういう意味なら、数十年・・・、ううん。百年以上は経っているんじゃないかしら?」

 私は人差し指を顎に当てて、少し考える風にしながら、そう答える。

 ただ、時計や暦を見続けていたわけじゃないから、正確な年月は分からないんだけどね。

「そうなんですか?」

「ええ!」

 お藤ちゃんの問いにはそう答えておく。


「それなら、貴女(お節さん)から見て、現代いまはどう見えるんですか?」

「どう見えるって?」

 お藤ちゃんの質問の意図が分からなかったから、私はクイッと首を横に傾げてしまう。


「つまりはですね。現在の生活の事について何も考えずに、自堕落に過ごしている人達を見て、どう思いましたか?」

 お藤ちゃんが、そんな事を聞いてきた。

 そして、凄く真剣な表情で私の事を見詰めてきたのだ。


「そうね。自堕落な性格をしている人は嫌いよね」

 だから、私は素直にお藤ちゃんに答えた。

「そうですよね!そんな人は嫌いですよね!!」

「ええ!」

「それでも、今はそんな考えの人が余りにも多過ぎます!!」


「それに、他人を蹴落としたり、貶めたりしている人達ばかりが得をして、正直な人達ばかりが損な生活を強いられているのは、おかしいですよ!」

 お藤ちゃんは、心が白熱しているかのように、私に食って掛かるかのように言ってくる。

 そう言った後、お藤ちゃんはまた黙り込んでしまったわ。




 それから、少ししたらお藤ちゃんがまた話しかけてきた。

「あの!」

 お藤ちゃんはかなり神妙な顔で私を見ていた。

「うん」

 だから、私もそれに応えるかのように、真面目な顔をする。


「お願いがあります!私達の所に来てください!」

 真剣な表情を浮かべたまま、お藤ちゃんは私にそう言ってきた。


「そうは言っても、何をしているかも分からないのに、頷けないわよ」

 私は困った顔を浮かべて、お藤ちゃんのお願いに、そう答えた。

「私達は、真面目な人間ばかりが損をして、いい加減な人間ばかりが得をする世の中を壊して、ちゃんとした国に直したいだけです!」

 お藤ちゃんは、そんな事を言ってきた。

 その顔は自分のしている事に自信を滲ませている顔だった。


「だから、貴女も・・・」


「え?」

 お藤ちゃんは、私が首を振った意図を理解できなかったのか、そんな声を出していた。


「お藤ちゃん・・・」

 私は少し躊躇したけど、意を決して、お藤ちゃんに語り掛けたわ。

「お藤ちゃん、もう止めましょう」

 私がそう言うと、

「何で・・・」

「もう、こんな事は止めましょう」

「何で、そんな事を言うんですか?」

 お藤ちゃんは、理解出来ないといった顔で私の事を見てきた。


「確かに、お藤ちゃんの言う通り、酷い人間もいるわ。けど、そうじゃない人だって、大勢いるのよ」

「だから、私達はそんな人達の為に、こうやって・・・」

「お藤ちゃん達のやり方は、そうやって、真面目に生きている人達の生活だけでなく、その人達の生命いのちまで奪うかもしれないのよ」

 私がそう言うと、

「そんな事無いです!私達は私腹を肥やし、善良な人達を食い物にしている下衆げすな連中に痛手を与える為に・・・」 

 お藤ちゃんは、そう言うけど、


「それなら、永岡の展示会を襲うような真似は何でなの?」

「・・・」

「それに何で結界を破壊するような事をしているの?」

「・・・」

「あと、柴田城の結界を破壊して、何の関係も無い普通の人が危険になるような事をしているの?」

「・・・」

 お藤ちゃんは、何も反論をしてこなかったけど、私は更に続けた。


「今のお藤ちゃんは、何かと理由をつけて、暴れたいだけにしか見えないのよ!」

 私がそう言うと、

「そんな事は・・・」

 お藤ちゃんはそこまで言って、途中で反論を止めたわ。

「違うの?」

 私の問いかけに、


「だって!仕方ないじゃないですか!」

 お藤ちゃんはそこまで言って、

「何が仕方ないと言うの?」

 私は先を促すように言うと、


「だって、仕方ないじゃないですか!私達はちゃんと誰にも恥じるような事をしていなかったのに、あんな殺され方をして!それなのに、現代いまの人は何も苦労もしていなくて、大した信念も持っていないのに、安穏とした生活を送っているなんて、認められるんですか?」

 お藤ちゃんは、まるで感情をぶつけるかのようにして、それを私に言ってきた。


「お藤ちゃんの言いたい事も分かるけれど、それは認めなきゃならないのよ」

 私がそう言うと、

「何でですか?」

 お藤ちゃんが怒鳴ってきたけど、

「私達はもう死んでいるのよ。そんな死人が好き勝手にやっていい訳ないでしょ!」

「そんな言葉で納得なんて出来る訳ないじゃないですか!」


「それでも、納得しなきゃいけないのよ」

「それじゃあ、私達を殺した連中の作った世の中を認めろって言うんですか?」

「お藤ちゃんの言った連中だって、もう滅びていて、彼らが作った世の中じゃないのよ」

「だからって・・・」


バラバラバラバラバラ


 お藤ちゃんが続きを言おうとした時、そんな音が聞こえてきた。

 そして、その音はどんどん近づいてきた。

 その音が近づいてくると共に、風が吹いて、私の髪の毛やスカートが舞い上がっていく。

 私は、風に舞って乱れる髪の毛やスカートを押さえていると、お藤ちゃんの隣に何かが降るように落ちてきた。


 私は視線を上に上げると、そこには、空中を滞空しているヘリコプターの姿があった。

 そのヘリコプターの横にあるドアが開いていて、そこから、縄梯子が垂れ下がっていたのだ。


 私は視線を正面に戻すと、お藤ちゃんは降りている縄梯子に手をかけている姿が見えた。

「お藤ちゃん!」

 お藤ちゃんが何か言っているようだったけど、ローターの回る音に掻き消されて、それは聞こえなかった。

 だから、私はお藤ちゃんに近づこうとした瞬間、


ズズン!ズズン!ズズン!

ズズズズズ!


 突然、そんな音が連続して聞こえたと思うと地面が揺れて、その拍子に足元がふらついてしまった。


「中山!」

 本間さんが、倒れそうになる私を支えてくれた。

 本間さんには悪いけど、感謝もせずに、お藤ちゃんの方を向くと、縄梯子に?まったお藤ちゃんは上昇するヘリコプターと共に、空に上がっていった。


「お藤ちゃん!!」

 私のいた地面が砕けて、私と本間さんはそれに飲み込まれるかのように、地面の底に落ちていった。




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