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霊器の想起  作者: 甘酒
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第54話

 土産物店の方に視線を動かすと、視界の端に気になる姿が見えた。


 視界の端に見えたのは、40代位に見える男性だった。

 その男性は黒いディバッグを背負っていたのだ。


 その男性は、資料館に行く訳でもなく、土産物店に行く訳でもなかった。

 そして、何をしているかと言うと、資料館と土産物店の間にある、木々のある方に歩いて行っているのだ。


 だけど、それだけだったら、少し変わった事をする人もいるんだなぁ、と思うだけだったんだけど、そうもいかない!

 だって、今、ディバッグを担いで歩いている男性は僕の見知っている人間なんだもの。

 そう!あそこで木々の間に入り込もうとしている、あれは加藤なんだから!


「待って!」

 僕はそう言って、小走りで走り出していた。

 そして、木々の間まで来たので、そのまま舗装された場所から土のある地面までの境界まできた。

 僕の履いている靴はカジュアルシューズなので、迷う事無く、土のある地面の方に踏み出していく。


 土を踏み締めながら進んでいくと、3メートルも進まない内に、後ろから腕を捕まれてしまった。

 その為に足を止められてしまった。

 僕は腕を掴んだ人を見る為に後ろを振り向いた。

 そこにいたのは、僕の二の腕を掴んでいる本間君の姿だった。


「おい!いきなり走り出して、どうしたんだよ?」

 本間君が振り向いた僕に、聞いてきた。

「加藤がいたの!」

 だから、そう答えたよ。

「何?」

「だから、加藤の姿が見えたの!」


「加藤と言うと、柴田城にいたと言っていた?」

 本間君が問いかける様に言ってきたから、

「そう!私と三井田の友達の、加藤よ!」

 と、答える。


「それは本当なのか?」

 本間君が改めて聞いてきたから、

「うん!」

 僕は力強く頷いて答える。

「見間違いじゃないのか?」

「私と三井田が、加藤を見間違える筈ない!」

 本間君の顔をしっかりと見ながら、断言する。


「わかったよ!」

 本間君がそう言いながら、スマホを取り出すと、

「え?」

 驚いた顔をしていた。

「どうしたの?」

 少し気になったから、本間君に聞いてみると、

「吉川さんに電話しようとしたら、ここは圏外だと!」

 そう答えながら、本間君は困惑した顔をしていた。


「仕方ない!一旦、戻って吉川さんに連絡しよう!」

 本間君が溜息と吐きながら、そう言ってきた。

「分かったわ!連絡お願いね!」

 僕はそう言いながら、後ろを振り返ると、視界の先には加藤の姿は見えなかった

 見失う訳にはいかないから、急ごうと前に踏み出した瞬間、


「きゃっ!」

 また後ろから腕を捕まれ、止められてしまった。

「お前な!何を1人で行こうとしてんだよ!」

 本間君が呆れた様な顔をしながら、そう言ってきた。

「何をしては、私のセリフよ!加藤を見失う訳にはいかないでしょ!」

 だから、本間君に負けじと言い返す。


「まずは、戻って連絡してからだろ!」

 本間君がそう言ってきたから、

「加藤がこんな所にいるって事は、また何かを起こすと考えるべきでしょ!だから、見失う訳にはいかないじゃない!連絡は本間君に任すから、私は急いで探しに行くの!」


 本間君が睨む様に僕を見てくるから、それに負けない様に、目に力を入れるような感じに本間君を見返す。


 長いような、ほんの数秒のような睨み合いだったけど、本間君が溜息を吐きながら、横を向いた事により終わった。


「わかったよ!止めないよ!」

 本間君が頭に手をやり、髪の毛をかきながら、そう言ってきた。

「ありがとう!」

 僕は意見が通った事に内心で喜びながら、そう言った。

「ただし、俺も一緒に行くからな!」

 本間君がそんな事を言ってきた。

「え?」

 僕は一瞬、そう答えてしまった。


「だ、だって!連絡は?」

 少し慌てながら、そう聞いてみると、

「俺が連絡の為に戻ると、お前は先に行くだろう?」

 本間君に、質問で返されてしまった。

「う、うん」

 僕は頷きながら、そう答えた。

「お前を1人で先に行かせる方が、よっぽど問題なんだよ!」

 本間君が、この場での何回目かの溜息をついて、そう言ってくる。

「な、何よそれ!」

 何か失礼な言い方だよね。

 まるで僕が足手まといみたいな言い方は無いよね~。


「ほら!どっちの方に行ったんだ?」

 歩き出した本間君が振り返りながら、そう言ってきた。

 まったく!

 本間君が呼び止めなければ、そもそもが見えていたのに!

 そう思いながらも、素直にさっきまで加藤がいた場所を指さす。


「成程!あっちの方に行ったのか」

 本間君が、僕の指差した方向を見ながら、そう呟いていた。

「ほら!行くぞ!」

 本間君がそう言ってきたから、

「そもそも本間君が呼び止めなければ、もっと進めていたよ」

 僕も歩き出しながら、そう言って返す。

「何か言ったか?」

「別に」

 そう答えながら、歩く速度を上げて、本間君の横に並ぶ。


 見渡す限り、木々が立ち並び、その間を埋めるかのように、様々な草が生い茂っている坂を歩き続ける。

 歩き続けるとは言ったけど、のんびりと歩いている訳ではない。

 舗装されている道路ではなく、土が踏み締められている地面でも無いから、凹凸が激しい山道だから歩きづらいのだ。

 それでも、山道を走るなんて転倒やら足首を挫いたりといった危険があるから、出来る限りのハイペースで、歩き続けた方が良いのだ。

 もうかなり歩いているのに、なかなか加藤に追いつく事が出来なかった。


「中山!」

 そんな時、足を進めながら、かつ、周囲を確認しながら、本間君が語り掛けてきた。

「っ・・・はっ・・・何?」

 少し息が上がってきて、僕は本間君への返事が遅れてしまう。

「あんまり暴走するなよ!」

「え?」

 一瞬、何を言われたか分からず、そんな声を出してしまった。

「俺達がいるんだから、勝手に突っ走るなよ」

「う、うん」

 本間君はこんな時に何を言っているんだろう?

「何かあったら、1人で抱え込まずに、俺でも吉川さんでもいいから、ちゃんと相談しろよ」

「う、うん」

 そう答えたけど、僕はそんなに危なっかしいのかな?



 まだ、加藤は見つかっていない。

 地面には、所々に足跡が残っていたから、それを追っていたのだが、どうやらまっすぐに山頂に向かっていた訳ではないようだ。

「それにしても、何でこんなに色々と回っているんだ?」

 本間君がポツリとそんな事を呟いていた。

「ホントに、なんでだろう?」

 僕はそれにそう答えるしかなかった。


「本間君は何か思いつかない?」

 一応、何か無いかと本間君に聞いてみる。

「いや!そもそも、ここに何しに来たのかが分からないから、想像も出来ないんだからな」

 と、ある意味予想通りの答えを返してきたよ。


「もう、完全に見失っちゃったのかな?」

 草に当たらない様に、シースルースカートを軽く摘み上げながら、少し弱気になって、そう言ってしまう。

「見失って、はいそうです!と帰る訳にはいかないだろ!」

 そんな感じに、本間君が励まして?くれる。

「そうだよね」

 だから、僕はそう答えた。


 更に加藤を捜索し続けていたが、どうやら、金山の外周を回るかのようにして、進んでいるようだった。

 一体、こんな感じに山を進んで、何をする気なんだろう?


「よっと!」

 本間君が山の亀裂を飛び越える。

 そして、振り向いたと思うと、僕の方に手を差し出してきた。

「中山。?まれ!」

「あ、ありがとう!」

 僕はそう返事をしながら、本間君の手を握る。


 そして、亀裂を飛び越える。

「よっ!」

 飛び越えるタイミングに合わせて、本間君が手を引っ張ってくれる。

 でも、着地の瞬間に足がもつれてしまった。

「きゃっ!?」

 倒れそうになったけど、直前で本間君が支えてくれた。

「あ、ありがとう!」

 支えてくれた本間君にお礼を言うと、

「どうやら、疲れが足に来ているみたいだな。少し休むか?」

 そう言ってくれたけど、

「ううん。疲れたから、休みましたって言って良い状況か分からないから、このまま行くね!」

「大丈夫なのか?」

「うん。早く進もう!」

 そう言って、歩き出そうとした時、


バラバラバラバラバラ


「これって、なんの音だろ?」

 本間君がそんな事を言ってきた。

「これって、ヘリコプターの音かな?」

 僕は耳をすましてから、そう答える。

「ヘリ?」

「うん。市の撮影やら、観光会社の撮影やらで、よくヘリが飛んでいるらしいわよ」

「そうなのか?」

「うん」


「まぁ、それならいいか」

 本間君はそう言うと、すぐに歩き出していた。




 そして、更に外周を回るようにして、30分近く山を歩き続けていく。

「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

 そろそろ、体力的にキツくなってきて、顔を下に向けてしまう。


「いた!!」

 1メートル程、先を歩いていた本間君がそう声を上げていた。

「え?」

 僕はその声に反応するようにして、顔を上げる。


 顔を上げた僕の目に、見知った人間の姿が映っていた。

「加藤!!」

 僕はついその姿に声を上げてしまった。

 声をかけられた加藤は、声のした方、つまり、僕に顔を向けてきた。





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