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霊器の想起  作者: 甘酒
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第53話

 広花ちゃんを起こすのを諦めた頃、進行方向の先に、変わった形をした山が見えてきた。

 その山は、まるで中心の辺りから縦に亀裂が入り、そこから裂けてしまったかのような形をしていたのだ。


 その変わった形をしている山こそが、僕達がここまで走ってきている目的地である、砂土さど金山きんざんなのだ。


 更に進むと、自然豊かな景色に、道路以外の人工物がちらほらと見えてきた。

 そして、砂土金山に向かう道路上には、この先、史跡・展示資料館の表示看板が見えてきた。

 やっと、史跡・展示資料館に着いたのだ。



 道路が広がったかと思っていると、そこには自動車サイズの白線が引かれた四角が沢山、見えてきた。

 そこが、駐車用のスペースになっているのだ。


 ワンボックスカーを、その白線の一つに入れ、そこに駐車する。

「さあ、やっと着いたわよ~!」

 吉川さんがワンボックスカーのドアを開けて、すぐに降り、背筋を伸ばしながら、宣言してきた。


「吉川さん。本当にお疲れさまです」

 僕もワンボックスカーの後部ドアを開き、、吉川さんの近くに近づいて、労いの言葉をかける。

「いいのよ。観光では楽をさせてもらうから!」

 吉川さんがそう答えてきた。

「観光じゃなくて、見回りですよ!」

 吉川さんの軽口に、つい真面目に返してしまった。

「でもね~、見回りって言っても、最終的に何も無かったら、只の観光になるでしょ!」


「まぁ、それはそうなんですけどね・・・」

「だから、私の言った事もウソじゃないのよ」

「ははは・・・」

 吉川さんの言葉に、僕はどう答えて良いか悩んでしまうよ。

 だから、人差し指で頬をかきながら、空笑いするしかなかった。


「それにしても、何でこの格好でなければいけないんですか?」

 僕はスカートを摘み、身体を捻るようにして、スカートを揺らす。


 因みに、今の僕の服装は、ラベンダー色のブラウスに、膝丈の白いスカートで、その上には透明なシースルーのロングスカートを穿いている。

 ブラウスの方は、シンプルなデザインの作りなんだけど、シースルースカートの方は、総レース仕上げで作られているのだ。

 そして、薄茶色のカジュアルシューズを履いている。


 ついでに言うと、パンプスは断固として断ったよ!

 山に見回りに行くのに、いくらヒールの低い物でも、パンプスは無いよね~。


「そんなの決まっているじゃない!女の子たるもの、いつでも見た目は気にしなければいけないのよ!」

 吉川さんは、自信満々にそう言ってきた。

「そ、そうかもしれないけど・・・」

 もう少し動きやすそうな格好が良かったな・・・。

「それに、イザという時に備えて、ワンボックスカーの中には、防具や戦闘時の衣服とかも入れてあるじゃない」

「そうなんですけどね・・・」


 吉川さんは、フォローの為に言ったんだろうけど、最初から、戦闘に備えて着替えていてもいいと思うんだよね。


 因みに言うと、吉川さんは薄水色のブラウスに紺色のタイトスカートで、何とローヒールのパンプスを履いているんだよね。

 いかにもな、キャリアウーマンをイメージした服装なのだ。


「ハイヒールなら兎も角、ローヒールなら、走ったり動きまくる事も出来るわよ」

 まるで吉川さんが、僕の考えを読んだかのように、そんな事を言ってきたよ。

「そんな事が出来るんですか?」

「慣れれば何とかなるものよ」

「ホントですか?」

「ええ!」

「でも、私はまだ慣れていないから、このままカジュアルシューズのままで良いですよ」

「そう・・・」

 吉川さんが残念がるように、肩を落としていた。


 吉川さんから視線をずらすと、その先には広花ちゃんが見えていた。

 広花ちゃんは白いTシャツを着て、その上にはミント色のパーカーを羽織っており、下はサスペンダー付きのモスグリーン色のキュロットパンツを穿いていたよ。

 そして、靴はスニーカーという服装なんだよね。

 如何にも動く事を前提として考えている服装だよ。




 凄く羨ましい!

 広花ちゃんって、自分は動きやすそうな服装にしているのに、何で僕にはシースルースカートとか、動くのに気をつけなくちゃいけない服装を着せたがるのかな~?


 そんな事を考えていると、その広花ちゃんが近寄ってきた。

「2人して、何を話しているんですか?」

「英奈ちゃんがこの服装について色々と言ってきたのよ」

 広花ちゃんの問いに、吉川さんがそう答えたのだ。

「え~?英奈さん!」

 広花ちゃんが真剣な眼差しで僕の方に顔を向けてきた。

「う、うん!」


 広花ちゃんの勢いに、ちょっと引きながら返事をしてしまう。

「その格好!凄く可愛いですよ!」

「あ、有難う!で、でもね、今は仕事中なんだから、可愛らしさよりも、動きやすさの方を優先した方が良くない?」


「何を言っているんですか?確実に戦闘が有る訳でもないのに、物々しい服装なんかしたら、逆に目立ってしまうじゃないですか!」

「でも、イザという時に備えていた方が良くないかな?」

「何を言っているんですか?女の子はいつでも可愛くなる事を考えていなくちゃ駄目なんですよ!」

「そ、そうかな?」

「そうですよ!」

 広花ちゃんは力強く断言してきたよ。


「そうよ!それに、そうやって戦闘的な姿で目立ってしまったら、私達が行く先々で余計に注目されてしまって、逆に危険度が上がってしまうかもしれないのよ!」

 吉川さんが、広花ちゃんの言葉を補足するように言ってきた。

「そ、そういう考えもありますね」

 僕は思わず納得しかけてしまった。

「そうですよ!だから、そんな物々しい格好よりも、こんな風に可愛く着飾った方が、安全度が高まるんですよ!」

「そういうものなの?」

「そういうものなんです!」

 そう言って、広花ちゃんは胸を張ってきた。

 只でさえ自己主張の激しい胸なんだけど、それを更に強調するようにするから、たゆんたゆんと凄い迫力だよ。


「だから、今は可愛らしくする方が目立たなくする方法なんですよ!」

 そ、そういう考え方もあるのか?


 僕が言葉を探して、黙っていると、広花ちゃんがイキナリ腕を絡ませてきた。

「さ!そういう訳で、早速お仕事をしましょう!」

 そう言いながら、僕を引きずるように、展示資料館に歩き始めたよ。

「わ!?ちょ、ちょっと!広花ちゃん!待って!一緒に行くから、引きずらないで~~~!!」


 駐車場から資料館に近づいていくと、敷地を仕切る壁が見えてくる。

 最初見た時は武家屋敷かと思ったんだけど、どちらかと言えば、奉行所の壁に近いのかもしれない。

 出入り口まで来たんだけど、どうせなら、奉行所みたいに大きな門にすれば良いのに、、ここは普通と言うか、小さいよな~。



 僕達は、イザという時に備えて、霊器を竹刀袋とか布に包んでいるんだけど、流石に怪しんだのか、出入り口で係員に呼び止められてしまった。

 だけど、そこで吉川さんが、いつかの検問の時に出してきた手帳を係員に見せたら、何の問題の無くフリーパスになったのだ。


 そうして、展示資料館の中に入ると、壁面には金山が開山してから閉山するまでの歴史が書いてある年表が掲げてあるのだ。

 そして、その年表の下には、ガラスケースのある棚が置いてあり、その中には当時、鉱山の中で使用されていた道具類や衣服とかが展示してあったのだ。


 うん。見ているけど、特に何かを仕掛けられた感じは無さそうだね。

 そのガラスケースの中を見ながら、足を進めていると、次の部屋に向かう通路に繋がっているのだ。


 次の部屋に入ると、部屋を使い切る位に大きな台座が置かれてあった。

 その台座には、無数の小さな模型が設置されていた。

「へえ、ずいぶんと細かく作りこんであるんだな」

 本間君が、模型を覗き込むようにして見ている。

「そうだよね。ホントにこんなに沢山、よく作ったよね~」

 僕も本間君の隣で、その模型を見てみるけど、本当に細かく作りこんであるんだよね。


「中山もこんな感じに作れるのか?」

 本間君が僕にそんな事を聞いてくる。多分、プラモデルを作っていたから聞いてきたんだろうけど、

「ん~!流石にこれは無理かな?」

「そうなのか?」

「うん。そもそも、私はメカとかロボの奴ばかり作っているから、こんな小屋とか人形とかは作った事は無いんだよね」

 と、僕は答えた。


 この部屋の台座に設置されているのは、金山が使われていた頃を模した建物だとか、そこで作業をしていた人々のフィギュアを使ったジオラマなのだ。

「確認も済んだし、そろそろ、次に行かない?」

 僕がそう言って、先に進む事を促すと、

「そうだな」

 本間君はそう言って次の出入り口に顔を向けた。



 次の通路の先を見ると、建物の通路と言うよりも、まるで洞窟か坑道のような様相に変わっていた。



「きゃっ!?」

 通路に入った瞬間、広花ちゃんが小さな悲鳴を上げた。

「広花ちゃん、どうしたの?」

 僕は広花ちゃんに呼びかけながら通路に入ると、いくつかの人影が見えたのだ。


「あ、英奈さん。実はコレに驚いてしまったんですよ」

 広花ちゃんがバツが悪そうに、頬を掻いていた。

「ああ!これはね~・・・」


 広花ちゃんの先を見ると、広花ちゃんが悲鳴を上げたのが分かってしまった。

 何せ、坑道の先には何人もの人形があったのだ。


 その人形は、等身大のサイズの上に、妙にリアルだし、それが動いているんだよ。

「これは、ちょっと気持ち悪いですね」

 広花ちゃんがそんな事を言ってきた。

「うん。少し気持ち悪いというか、ちょっと怖いよね」


 それから、坑道風の通路を進むんだけど、そこには、リアルな人形が金山で働く人達をイメージした動きをしていたのだ。


 ある所では、手に持った金槌でノミを叩いている姿とか・・・

 ある所では、全員が地面に座り込んで、お茶碗に盛ってあるご飯を食べている姿とか・・・

 ある所では、フンドシ一丁で、金の混ざっている石を運んでいる姿とか・・・


「あ!あれって、何ですか?」

 広花ちゃんがそう言って、訪ねてきた。

 広花ちゃんが見ていたのは、人形が数メートル位の長さの円筒形の物の端っこに付いている取っ手を回している姿だった。


「えっと、あの円筒形の形をしている物の事?」

 僕が聞き返すと、

「そうです!」

 広花ちゃんが凄い勢いで頷いてきた。

「あれはね、水上輪すいじょうりんと言って、鉱床に溜まった水を汲み上げるポンプみたいな物よ」

 だから、分かりやすいように簡単に説明してみた。

「そんな昔から、ポンプがあったんですか?」

 広花ちゃんが目を丸くして驚いていた。

「まぁ、正確にはポンプじゃないんだけどね」

「そうなんですか?」

「うん。あの筒状の中に、螺旋状のネジみたいなのがあって、取っ手を回すとそれが回転して、水を上げてくるんだよ!」

「へぇ!」

 僕の説明で、広花ちゃんが感心したように、瞳を輝かせながら僕の事を見つめてきた。


 これだよ!

 これ!!

 これなんだよ!!!

 この、知識が豊富な年上に対する尊敬の眼差しを僕は求めていたんだよ!

 僕がそんな感動を表に出さず、余裕のある大人として、優雅に振る舞おうとした瞬間、


「ほら!そろそろ次に行くぞ!」

 三井田が、僕の頭をポンポンと軽く叩きながら、そう言ってきた。

 まるで、小さな子供を相手にしているようなやり方で。


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 三井田コイツ

 僕が感動の余韻を味わおうとするのを、ワザと妨げたな!

 ジト目で三井田を睨むけど、三井田はその視線を受けながら、ドヤ顔をむけてきた。




 それから、何事も無く、進む事になった。

 展示資料館を見終わり、一旦、外に出ると、

「ん~~~!」

 僕は腕を上に上げる様にして、身体を伸ばす。


 さて、これで一通り終わったね。

 これから、一応、土産物店にも見て回ろうかな。

 べ、別にお土産を買おうなんて考えていないよ。


 土産物店の方に視線を動かすと、視界の端に気になる姿が見えた。




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