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霊器の想起  作者: 甘酒
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第52話

 吉川さんは、人差し指を1本立てて、それを振りながら、

「砂土ヶ島と言ったら、それはモチロン、金山きんざんでしょ!」




 吉川さん達と話し合っていると、漸く到着したようだ。

 カーフェリーが減速しながら、港に接舷する。


 そして、船尾にある可動橋が動き、岸壁とを繋ぐ橋になる。

 出口に近い所に停めてある自動車から、1台、また1台と動き出し、カーフェリーから降りていく。


 そうして、僕達の乗っているワンボックスカーも漸く発進できた。

 徐行しながらカーフェリーから降り、港に降り立つ事が出来た。


「さぁ!やっと砂土ヶさどがしまに着いたわよ!」

 ワンボックスカーのハンドルを握りながら、吉川さんが声を上げてきた。


「本当に、やっと着きましたね~」

 僕も吉川さんの言葉に答える。


 本当にやっと着いたよ。

 カーフェリーに乗ってから、砂土ヶ島に着くまでに、2時間弱の間、する事が無かったんだよ。


「それで、これから目的地まで行くのに、どれ位の時間がかかるんですか?」

 広花ちゃんは、運転席にいる吉川さんに聞いてきたから、

「えっとね~、多分、港から自動車で1時間30分位かかるんじゃないかな?」

 僕が運転している吉川さんの代わりに答える事にしたよ。


「そんなにかかるんですか?」

 広花ちゃんが目を丸くして驚いていた。

「うん。行先いきさきって、史跡と展示資料館なんですよね?」

 僕は吉川さんに声をかけると、

「そうよ!」

 運転席からそういう返事が返ってきた。

 その返事を聞いた僕は、広花ちゃんに続きを言う事にした。


「やっぱりね!史跡と展示資料館は、この港から砂土ヶ島を横断した反対側にあるんだけど、そこまでの道のりは、高速走路や直線の道じゃなくて、かなり曲がりくねっているんだよ!」

「へ~!」

 広花ちゃんが感心したような顔をしていた。


「あ、でも、島の反対側って、かなり離れているんじゃないですか?それなら、1時間30分位で着くものなんですか?」

 広花ちゃんが人差し指を顎に当てて、そう聞いてきた。

「えっとね、確か面積が850平方メートル位で、これって、東京23区の半分位のサイズなんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。それと・・・」

 僕は左右の人差し指を立てて、上下に少しずらした位置でくっ付けてみせる。

「指がくっ付いた、こんな形をしているから、横断と言ってもそんなに距離があるわけじゃないのよ!」

 と、説明してあげた。

「「へ~~~!」」

 広花ちゃんばかりでなく、本間君まで感心したような声を出してきた。


「そこまでは知らなかったな」

 本間君が感心した顔のまま、そう言ってきた。

「そうなの?」

 僕がそう聞き返すと、

「ああ!それにしても、何でそこまで知っているんだ?」

 と、更に聞き返されてしまった。

「それはね。以前、三井田達と遊びに行ったんだけど、その前準備に色々と調べてみたのを覚えていたんだよ!」

 僕がそう答えると、何故か三井田が本間君と広花ちゃんにピースをしていた。


 ・・・お前は何も言ってなかったよね?

 何で得意げな顔をしているんだ?


「それにしたって、そういう事を調べようとは思わないよな~」

 本間君がそんな事を言ってきた。

「英奈さん、凄いです!」

 広花ちゃんも目を輝かせて、そんな事を言ってきたよ。

「それは仕方ないよ。10代の頃はこういう事には興味が持てないものだしね」

 と、僕は言う事にした。


 吉川さんも本間君も広花ちゃんも、僕の事を年上だという事を忘れているんじゃないかと思うんだよね。

 だから、ここで多少は僕が年上という事を思い出すキッカケになればいいな~と思い、軽くアピールする事にしてみたよ。


「そう言えば、こういう事は知っている?」

 運転席で、ハンドルを握りながら、吉川さんがそんな事を言ってきた。

「何ですか?」

「この砂土ヶ島って、昔、金の他に銀も産出されていたから、重要な財源とする為に、幕府の直轄地である天領になっていたのよ」

 信号待ちの為にワンボックスカーを停めて、笑顔の吉川さんがこちらに振り向いてきた。


「え?そうだったんですか?」

 広花ちゃんが吉川さんに訊ね返していた。

 その瞳は、僕を見ていた時以上に、輝いていた。

 本間君も感心したような目を向けている。



 ああ~~~!?

 本当は僕に向けられる筈だった尊敬の眼差しが~~~!!



「ぷふっ!」

 何とか声を出さない事に成功したら、そんな声が聞こえてきた。

 声の聞こえてきた方に顔を向けると、三井田が掌で口元くちもとを押さえていた。


「・・・何?」

 僕は、ついジト目で三井田を見てしまう。

「いや!・・・ぷっ、・・・いやいや!何でもないぞ!ぷふっ」

「三井田、まさか!!」

 僕は気づかれたかと思い、つい声を荒げてしまった。

「いや!俺は全然わからないぞ!ホントだぞ!思惑が失敗したなんて思っていないからな!」

 三井田が慌てて、そんな事を口走っていた。


 バレてた!

 そう思った瞬間、顔が熱くなってきた。

 多分、赤くなっているんだろう。

 僕は拳を力いっぱい握りしめ、けど、ワンボックスカーの中だから、暴れるわけにはいかない!

 拳をプルプル震わせながら、三井田を睨む事しか出来ないよ。




 そんな会話等をしているうちに、港を出て、すぐ傍にある町を通り過ぎると、畑が道路の脇に広がってきた。

 その道を通り過ぎていくと様々な花や草が見えてくるようになってきた。

 更にそこも突き進んでいくと、道路の両側を太い木々が生い茂ってきたのだ。


 ここまで来ると、見える景色は豊かな自然ばかりになってきた。

 そして、ここも停まる事無くワンボックスカーを走らせていると、幾つもの山々が見えてきた。


 この道路は専用道路ではないんだけど、途中に十字路や町や村がある訳ではないので、信号も無い。

 だから、殆どノンストップで走り続けられるのだ。


 あとは、この道沿いに走り続けていれば、史跡・展示資料館に着くのだ。



「それにしても、何も無いですね~」

 目に見える人工物が、道路のコンクリート位しか無くなって、暫く経った時に、広花ちゃんが欠伸あくびを噛み殺しながら、そう言ってきた。


 まぁ、彼女くらいの年代には、暇な景色だよね~。

 だから、こう言ってしまった。

「それは仕方ないかな~」


「こうも何も無いと眠くなりますね~」

 広花ちゃんが目を瞬かせながら、そんな事を言ってきた。

「そんな事を言ってないで、これから仕事なんだから、ちゃんと起きててよ」

 僕は広花ちゃんの隣で、起き続けているように、話し相手になっていた。

「もう駄目~!着いたら起こしてください・・・」

 広花ちゃんは、そう言って、僕の肩に頭をのせてきた。

「寝ちゃ駄目~~~!」

 僕はそう言いながら、広花ちゃんの肩を揺するが、既に夢の世界に旅立って行っちゃったよ。


 広花ちゃんを起こすのを諦めた頃、進行方向の先に、変わった形をした山が見えてきた。

 その山は、まるで中心の辺りから亀裂が入り、そこから裂けてしまったかのような形をしていたのだ。


 その変わった形をしている山こそが、僕達がここまで走ってきている目的地である、砂土さど金山きんざんなのだ。


 更に進むと、自然豊かな景色に、道路以外の人工物がちらほらと見えてきた。

 そして、砂土金山に向かう道路上には、この先、史跡・展示資料館の表示看板が見えてきた。

 やっと、史跡・展示資料館に着いたのだ。




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