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霊器の想起  作者: 甘酒
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第51話

「きゃっ!?」

 僕は突発的に吹いた風によって捲れたスカートを押さえる。

「おお~~~!!」

 三井田が右掌を額に当てるかのようにして、ワザとらしく、そんな声を出してきた。

「もう!そんな事しないでよ~!!」

 僕は三井田の態度に文句を言ってみる。

 捲れたスカートの中を見ようとするのは、多分、ただのポーズなんだろうけど、ホント止めて欲しい。


「いいじゃないか。人生には心の安息と潤いも必要なんだからな」

 三井田は楽しそうな顔をしながら、答えてきた。

「私の安息と潤いは?」

 思わず、そう言ってしまった。

「自分で探しなよ」

「・・・うぅ~」

 そう言いながら、乱れて前に寄ってしまった髪の毛を、手櫛で後ろに戻す。

「それにしても、予想以上に風が強いね~!」

 僕は髪が風で流されないように押さえながら、三井田に言うと、

「そうか?」

 三井田はそう返してきた。

「以前乗った時より強くない?」

「こんな感じじゃなかったか?」

「そうかしら?」

「そうだぞ!・・・もしかして、スカートとか、長くなった髪が風に流れたりしているから、そう感じるんじゃないか?」

「そうなのかな?」

「たぶんな」

 そう言った後、三井田は進行方向・・・・に顔を向ける。

 僕も、同じ方向に顔を向ける。


 今、僕達はカーフェリーに乗っている。


 カーフェリーとは、旅客ひとだけを乗せるフェリーや運搬船とは違い、名前の通りに自動車等の普通車やトラック等の大型車も積載する事が出来る運搬船なのだ。

 船体は全体に白い塗装を行なわれており、側面には翼全体が鮮やかなオレンジ色で目立つ鳥のイラストが描かれていた。


 このカーフェリーは、下階を自動車を積載する車両甲板になっており、何と自動車90台以上と大型車7台以上が積載する事が出来るのだ。

 もしも大型車ではなく、その全てを自動車にした場合は、150台以上を積載できる様になっているのだ。


 そして、車両甲板から上階に上ると、旅客が休む事が出来る様に座席が設置されているのだ。

 上階の間取りは、前方には巨大な窓ガラスが設置されてあり、進行方向の見晴らしの良い景色が見る事が出来るようになっている。

 1等席を予約すると、そんな見渡しの良い前方の方の席に座る事が出来るのだ。


 それから、上階の中心部分には、売店やら案内場所が設置されていた。

 そして、その部分を囲うかのように、2等席が設置されているのだ。

 この2等席は、左右から海を見る事が出来るので、どれ位のスピードで進んでいるのかが、実感できるのだ。

 そして、1等席程ではないけど、前方を見る事が出来るのだ。


 さらに、その上には最上階である甲板になっており、他の船よりはスペースは狭いながらも、外の風を受ける事が出来る。

 そして今、僕達はこの甲板にいるのだ。



「それにしても、こうやって、船の甲板にいると、昔を思い出すね」

 僕は、傍で目を細めながら海を眺めている三井田に話しかけた。

「そうだな。あの時は皆で休暇を合わせて、俺とお前と加藤の3人で遊びに行ったんだったよな~」

 三井田も、思い出した様に目を細めながら、答えてきた。

「そうだね」

「あの時は、お前が女の子になって、また船に乗るなんて、想像できなかったよな~」

「そんなの普通思わないって!」

 そう言いながら、僕はつい笑ってしまった。

「そうだよな!」

 三井田もそう答えてから、つられて笑っていた。


「出来れば、また3人でこうやって遊びに行きたいよな」

 三井田が僕を見ながらそう言った後、手摺てすりに身体を預け、海の方に顔を向けた。

「・・・うん。出来れば、そうしたいね」

 僕は三井田の言葉にそう答えながら、手摺を握って、一緒に海を眺めていた。


「ねぇ、そろそろ皆の所に戻ろうか?」

 三井田の方に顔を向けて、そう聞いてみた。

「そうだな。戻るか」

 三井田はそう言って、出入り口の方に歩き出した。

「あ!ちょっと待ってよ!」

 僕も三井田の後をついていく様にして、船内に向かって歩いていく。




 僕達の住んでいる県には、砂土ヶさどがしまと言う島が有り、その島は昔、金山が有ったので、幕府が直接運営する天領であった場所だったのだ。

 更に、近年は国内では絶滅したと言われている鳥の飼育及び、成長した鳥の放鳥を行なっている島なのだ。


 山田さんから連絡が有り、砂土ヶさどがしまに行って捜索する事になったのだ。

 今の時期なら、御霊の捜索やら、柴田城を調査やらなら分かるけど、何で砂土ヶ島なんだろうね?


 理由は分からないし、指示には従うしかないんだけどね。




「英奈ちゃん!ここよ~!」

 吉川さんが、手を振って呼んでいた。

 上階の右側の端にある2等席に、吉川さんと本間君と広花ちゃんが座ってる。

「吉川さん、お待たせしました」

 3人に近づいて、そう言うと、吉川さんに腕を捕まれて、そのまま座席に座らされた。

「外はどんな感じだった?」

「風が強かったですね」

「やっぱり!」

「でも!景色が凄く良かったですよ!」

「でも、水だけなんでしょ?」

「その景色が良いんですよ!」

「ふ~ん・・・」


 あ!これはあまり興味ないな!


「まあ、あまり興味ないなら、別に良いんですけどね」

 僕がそう言うと、吉川さんは困った顔で頬を掻いていた。


「所で、何でカーフェリーなんですか?」

 僕は気になっていた事を吉川さんに聞いてみた。

「何でって?」

 吉川さんは予想外なのか、キョトンとした顔をしながら、そう聞き返してきた。

「いや、普通の船の方が安上がりなのに、何でわざわざカーフェリーにしたのかなって?」

 だから、気になっている事を素直に言ってみる。


「あ~!その事?別に大した事じゃないんだけどね、普通の船にすると、霊器や防具関係を常に持ち続けなきゃならないでしょ!その点、カーフェリーなら、荷物を全部ワンボックスカーに入れておけば良いしね!」

 と、そう答えてきた。

 それはともかく、何で胸を張ってドヤ顔しているんだろう?


「確かに今の方が楽ですけど、お金がかかりません?」

 大丈夫だとは思うんだけど、ついつい気になるよね。

「大丈夫よ!この程度なら問題なく経費で落とせるんだから!」

「そうなんですか?」

「そうよ!」

 吉川さんは自信満々に答えてきたよ。

 ・・・いいんだろうか?

 まぁ、申請は吉川さんに任せているから、いいけどね。




「ねぇ、本間君と広花ちゃんは外を見に行かなくていいの?良かったら見に行かない?」

 僕は、カーフェリーに乗ってから、ずっと大人しく座席に座り続けている2人に話しかけてみた。

「いや、俺は特にいいや」

 本間君がそう答えてきた。

「私も特にはいいですよ」

 広花ちゃんまでそう答えてきたよ。


「ええ~?何で~?2人とも見た事あるの?」

 僕は2人に聞いてしまった。

「ううん!見た事ないですよ」

「なら、どうして?」

「だって~!髪が潮風で乱れるじゃないですか~!」

 広花ちゃんが両手でポニーテールを撫でるようにしながら言ってきた。

 これは、説得は駄目かもしれないね。


「じゃあ、本間君は?まさか、髪を気にするとは言わないよね?」

 だから、今度は本間君の方に顔を向けて、聞いてみた。

「いや、それは特にどうでもいいけど・・・」

「じゃあ、何回か見た事があるの?」

「いや、見た事は無いぞ」

 本間君はそう答えてきたよ。

「じゃあ、何で?」

 僕はつい詰め寄る感じに聞いてしまった。

「そんなの決まっているじゃないか!俺がお前と見に行ったら、面白がって騒ぎ出すのがいるからだよ!」

 本間君はそう言いながら、隣に座っている人に顔を向ける。


 隣の人と言うか、吉川さんは

「そんな事しないわよ~」

 と答えていた。

「・・・・・・」

本間君は無言で吉川さんを見続けている。

そうすると、吉川さんは冷や汗を掻きながら、顔を背けてきた。


 ・・・・・・なるほどね。

 まったく、これから仕事だっていうのに、何をやっているんだか・・・。

 呆れてしまったよ。

 そして、嘆息しながら何気なく首を巡らせると、三井田が視線を避けるように顔を背けてきた。


 ちょっと待て!

 三井田!お前もか!!




 それから暫くは、甲板には行かずに、座席で大人しく海面を眺めていた。

「所で、聞きたかったんですけど、砂土ヶ島に行けって指示が来ていたけど、具体的に何処を調べるんですか?」

 吉川さんからは、山田さんから行くようにと指示されたとしか言われてないので、詳細はまだ聞いていなかったのだ。

 だから、ちょうど時間的に余裕があるし、今のうちに聞いておこうと思ったのだ。


「あれ?言ってなかったかしら?」

 吉川さんが首を傾げながら、そう言ってきた。

「聞いていませんよ!」


「ごめんなさいね。まぁ、言ってなかったとしても、見て回る場所は限られているんだけどね」

 吉川さんは肩をすくめながら、僕に謝ってきた。

「そうなんですか?」

 僕は思わず訪ねてしまった。


「ええ!砂土ヶ島は元々そんなに大きな島じゃないし、御霊や歴史的な場所とかを探る位なんですもの」

「そうなんですか?」

「ええ!」

「それなら、まず何処どこを見て回るんですか?」

 吉川さんは、人差し指を1本立てて、それを振りながら、

「砂土ヶ島と言ったら、それは勿論、金山きんざんでしょ!」




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