第49話

　僕は広花ちゃんと協力して、テーブルに沢山の料理を並べていく。

　広花ちゃんのリクエストに答える形で、途中から内容を変更して作った中華料理である。

「英奈さん。この八宝菜はどうします？」

　広花ちゃんがフライパンを手に持ち、僕に聞いてきた。

「そうね～。大皿に入れて、各自がレンゲで小皿に盛るようにしない？」

　そういう風に答える。

「は～～～い！」

　広花ちゃんは間延びしたような声で返事をしながら、フライパンの中身を大皿に移していく。

　品目としては、オムレツにアンをかけたカニ玉もどきと、スクランブルエッグから、ニラ玉もどきと、八宝菜といった所だね。

　これで、今日の夕飯は揃ったよ。

「料理はこれで全部です。皆、食べましょ！」

　僕は、広花ちゃんと一緒に席に座り、先に座っていた吉川さん達にそう言った。

「それじゃあ、さっそく食べちゃいましょ！いただきます」

　吉川さんが音頭を取って、そう言うと、他の皆もそれに倣って言葉にし、御飯を食べだした。

「なあ、中山」

　御飯茶碗を持ちながら、本間君が僕に訊ねてきた。

「うん？何？」

「今日が中華尽くしなら、チャーハンじゃないのか？」

「ほら、チャーハンって、油と卵でお米をコーティングするんだけどね。カニ玉にニラ玉を作っちゃったから、卵の取り過ぎになるかな～と思って、今回は止めたのよ」

　僕はそう答えた。

「そうだったのか・・・」

「うん。用意しなくてゴメンね」

「いや、いいよ」

「中山～」

　今度は三井田が僕に話しかけてきたよ。

「どうしたの？」

「ああ。チャーハンもそうだけど、ギョーザは何で無いんだ？」

　そう聞いてきたのだ。

「ギョーザね～。挽肉を買ってないし、ギョーザの皮も無いのよね」

「そうなのか」

「うん」

「それなら、もう皮に包んであるヤツを買ってきて、それを焼けば良いじゃないか？」

　そんな事を言ってきたよ。

「嫌よ！」

　僕は三井田の希望を拒否した。

「何でだよ？」

「だって、それをするには、それを買いに行かなきゃいけないじゃない！」

「それがどうしたんだ？」

　三井田が分からないといった表情をしてきたよ。

「吉川さん！」

　僕は吉川さんに顔を向ける。

「何かしら？」

　ニラ玉を食べていた吉川さんが返事をしてきた。

「もし、私がギョーザを買いに行くと言ったら、チャイナドレス（これ）を着替えても良いですか？」

　僕は着ているチャイナドレスを軽く摘まみながら、そう訊ねてみたんだ。

「駄目に決まっているじゃない！」

　吉川さんがニッコリと、そう答えてきたよ。

「ほらね！」

　僕は三井田の方に顔を向けて、そう言った。

「それでも、買いに行っても良いだろ？」

　三井田が尚も食い下がってくるけど、

「嫌よ！こんな足が丸出しになるような服装で外を出歩きたくないわよ！」

　僕はきっぱりと拒否しながら、カニ玉もどきを口に運ぶ。

「どうやら、ループから抜け出せた感じかしら・・・」

「ああ」

　吉川さんと三井田が嘆息していた。

「二人とも、どうかしました？」

　何か言っていたけど、よく聞き取れなかったので、吉川さんに訊ねてみた。

「ううん。何でも無いわ」

「何でも無いぞ」

　2人とも、首を横に振っていたよ。

「そうですか？」

　僕は軽く首を傾げてしまう。

　それからは、何事も無く、食事を進める事が出来た。

　僕は、少しずつ色んな料理を食べながら、周りを見てみると、他の皆も美味しそうにおかずを食べていた。

　良かった！

　途中から、内容を変更したから、上手く出来なかったかもしれないと、内心、冷や汗ものだったんだよね。

　ある程度、皆の食事が進んできた所で、僕は気になっている事を聞いてみる事にした。

「そういえば、柴田城って、アレからどうなったんですか？」

　僕達が柴田城を警護していた時、例の男性とお藤ちゃん。いや、加藤が現れて襲ってきたのだ。

　そして、その時に柴田城の城門にあった銅像が破壊されてしまったのだ。

「アレね～。一言で言っちゃうと確認が取れていないのよ」

　吉川さんが何か困ったような顔をしながら、そう答えてくれた。

「確認が取れていない？」

　僕はオウム返しに言ってしまった。

「そうなのよ。銅像が破壊されて、すぐに撤退の指示が出て、私達はあのお城周辺から離れなければならなかったでしょ」

「はい」

　そうなのだ。

　銅像の破壊音が聞こえて、すぐに現場に向かおうとした矢先に、山田さんから連絡が入ってしまったのだ。

　しかも、その連絡内容が、可及的速やかに柴田城及びその周辺の公園からの撤退というモノだったのだ。

「山田さんに、その後の事を問い質したんだけど、別の部隊に確認に行かせたと言われたのよね～」

　吉川さんが溜息を吐きながら、そう言ってきた。

「なんですかそれ！それなら、現場にいた私達にやらせれば、余計な手間も時間も掛からないで良かったじゃないですか？」

　僕は、吉川さんに食って掛かるかのように言ってしまった。

「中山！それを吉川さんに言っても仕方ないだろ！」

　本間君が僕にそう言ってきた。

「でも・・・」

「いいから、少し落ち着けよ！」

　本間君に窘められてしまった。

　そう言われて、僕は黙るしかなかった。

「でも、中山の言うとおり、余計な手間だし、何か原因が有るんですか？」

　今度は、本間君が吉川さんに、別の事を質問していた。

「他の人に聞いてみたんだけどね、誰も原因とかは聞いていないようだったわよ」

　吉川さんは、軽く首を左右に振った後、答えてくれた。

「ただね・・・」

　しかし、まだ続きがあるようだ。

「確認に行った部隊の人の方に聞いてみたんだけど、お城の周辺の公園あたりから、入るのは危険になったようね」

「危険って？」

　広花ちゃんがそう問いかけてきた。

「どうやら、公園の一定の位置から、お城に近づこうとすると、御霊が現れるらしいわよ」

　吉川さんがそう言ってきた。

「でも、それ位なら、御霊を倒して、進めばいいんじゃないんですか？」

　僕がそう聞くと、本間君も広花ちゃん、あと、三井田も頷いていた。

「それがね～。最初は1体だけど、約1メートル進む毎に倍に増えていくらしいのよ」

　吉川さんが嘆息しながら、答えてくれた。

「倍？」

　思わず、そう言ってしまったよ。

「ええ！最初は1体なんだけど、1メートル進むと2体現れて、さらに1メートル進むと、4体現れてきたらしいわよ」

「それって・・・」

　僕は、次の言葉が出てこなかった。

　なにせ、お城の周りは水堀によって隔てられており、その周囲を囲むようにして、桜並木が有名な公園で覆われているのだ。

「それって、ヤバくないですか？」

　僕の代わりに広花ちゃんが聞いてきた。

「そうだな。そんなペースで出現されてしまったら、たった数人のチームでは対処出来なくなってしまうぞ！」

　本間君も、自分の顎に手を当てるようにして考え込む。

「それがね、今の段階では大丈夫そうなのよね」

　吉川さんはそんな事を言ってきた。

「どういう事だ？」

　吉川さんの言葉に、本間君が反応するように訪ねていた。

「さっきの話の続きなんだけどね、どうやら、出現範囲から離れると御霊が消えるようなのよ」

「消える？」

　本間君がその言葉を聞き返していた。

「ええ！そうよ！」

　吉川さんは頷く。

「どういう事なんですか？」

　僕はそう問いかけると、

「言葉の通りよ。お城に行く為に一定範囲に近づくと御霊が現れて、一定範囲から離れると、御霊は消えるらしいのよ」

　と、答えてくれた。

「と言う事は、柴田城に手を出さなければ、暫くは大丈夫のようだな」

　本間君がそう言っていた。

「ええ！だから山田さんは、柴田城を立ち入り禁止にした上で、監視を続けていくつもりらしいわね」

「そうなんですか・・・」

　僕は吉川さんにそう返事をした。

「それにしても、山田さんって、タイミング良く連絡してきたりしますよね」

　僕はついそんな事を口走ってしまった。

「そうだよな。今回の撤退指示なんて、少し遅かっただけで御霊の大群に囲まれていたかもしれないんだからな・・・」

　本間君も僕と同じ意見のようだった。

「だけど、何でそんなにタイミング良く事態が分かるんだろうな？」

　三井田がそんな事を言っていた。