第45話 side 加藤昌也1
最近、俺は友達と遊びに行っていない。
今までは時間が出来たら、どちらともなく気軽に連絡をしあっていたのだが、その連絡が途絶えがちになってきたのだ。
その友達の名前は中山英樹という。
あいつとは、学生時代からの友達なんだけど、俺がいないと心配なんだよな。
俺達が学生の頃は、教師達から、男は硬派でなければ駄目だ!女に話しかけるような軟派な奴にはなるな!とか言われ続けていたんだ。
俺達が学校を卒業して、かなり経つし、もうそんな時代でも無いんだけど、あいつはいまだに女に声をかける事も出来ないんだよな。
街ではナンパさせようとしても、声1つかける事は出来ないんだよ。
アイツは、あえて『しない』とか言っているけど、絶対に『できない』と俺は思っている。
そして、何だっけ?古流武道?だったか、武術?だったかをやっているんだよ。
昔ながらの考え方をしていて、格闘技とかをしていると、粗暴とか乱暴者ってイメージがあると思うんだけど、アイツはそんな感じじゃないんだよな。
どっちかとヘタレじゃないかと思っている。
それなのに、困っている人を助けているんだよな。
誰かが絡まれていると、それを助けようとしたりしているんだ。
何で争い事が好きでもないのに、そういう事に関わろうとするのかな?
しかも、そういう時に女の子を助ける事もあるんだから、その時に話しかけてお近づきになれば良いのに、そういうのは汚いとか言ってしないんだよな。
だから、今の年齢になっても彼女の1つも出来ないんだよな!
そんな中山なんだが、最近、ちゃんとした連絡が取れないんだよな。
電話しても出てこないし、メールをすれば返事が返ってくるんだが、何処かに遊びに行こうと書いても断られるんだよな。
俺達と会いたくないとは思っていないんだろうけど、こうまで断られると中々連絡のしがいが無いんだよな。
それからは、三井田と2人で遊びに行ったりしていたんだが、その三井田からの遊びの誘いも、ここの所は無いんだよな。
いったい、2人共どうしたんだろうな?
何か困っている事があるんだったら、俺に相談してくれても良いのにな。
俺じゃあ、力になれなかったとしても、愚痴くらいなら聞いてやれるのにな~。
俺はスマホを取り出し、三井田に電話をかける。
数回の呼び出し音の後、繋がった。
「あ!俺だよ!夕飯を居酒屋で一緒にどうだ?」
「加藤か。ゴメン!今日は急用で行けないんだ」
「そうなのか?」
「ああ!悪いな」
「いや。また誘っても良いか?」
「ああ!もちろんだよ」
「そうか。それじゃあ、これで切るな」
「わかった」
そう言って、俺は通話中画面の切のボタンを押す。
それから少し経ったら、メールの着信音が聞こえてきた。
俺はまたスマホを取り出し、メールの受信ファイルを開く。
そこには、中山からの返信メールが返ってきていた。
「こっちも駄目か~」
またか。
これで断られたのは何回目なんだろう?
俺は思わず溜息が出てしまった。
さて、2人にフラれてしまったし、今夜も1人で何処かに飲みにでも行くかな?
そう思って、頭の中で市内にある居酒屋の位置を思い出していた。
そんな時、町中を疎らに歩いていた筈の人達が消えている事に気付いた。
珍しいな。
市内の人口が減少しているとはいえ、過疎っているわけではないのに、こんなに人がいないなんて事は今まで無かった事なんだよな。
珍しいと思いながら、何か薄ら寒いものを感じるな。
まるで、突然ゴーストタウンに放り込まれたような感じだからかな?
そう思いながら、周囲を確認するように、顔を左右に回してみた。
そうこうしていると、遠くから人が歩いてくる姿が見えてきた。
その人は交差点の反対側で歩みを止めていた。
何だろう?
その人は、何か俺の事を見続けているような気がする。
その人は、40代から50代位のオッサンだった。
そう思った瞬間、俺も似たような年齢だという事を思い出して、少し凹んだ。
少し凹んだけど、その人を観察し続けていると思ったのが、特徴が無いだった。
さっきも思ったが、性別は男性で、年齢は40代から50代くらいのだろう。
体型は中肉中背で、服装は白いワイシャツとグレーのスラックス、それとスニーカーを履いていた。
何か目が離せない雰囲気があるんだけど、目を離すと容貌を忘れてしまいそうな矛盾を感じるのは何でなんだろう?
交差点の信号が赤から青に変わった。
そうすると、その男性は道路を渡ってきた。
何故か、その顔は俺を見ている気がする。そして、その歩みは真っ直ぐに俺の方に向かって歩いてきていた。
そして、男性は俺の目の前で立ち止まったのだ。
「やあ。初めまして」
男性は俺にそう語りかけてきた。
「は、初めまして・・・」
俺は少し緊張しながらも、そう返答だけはした。
そうしたら、こちらの考えが伝わったのか、緊張を取ろうとしたのか、フレンドリーな笑顔を浮かべてきた。
「そんなに警戒しないでくれないか。私はそんなに怪しい者では無い」
男性はそう言ってきたが、そんなの信用できる訳ない。
「と言っても、直ぐには無理かね?」
男性が肩を竦めて、そう言ってきた。
「・・・普通はそうなのでは?」
俺は不審に思いながらも、無視は出来ずにそう返事をした。
男性は俺の返答に、また肩を竦めたのだった。
「・・・それで、何の用ですか?」
俺は警戒心も露わにしながら、そう訊ねてみた。
「いやなに、最近は友人たちと遊びに行っているかと聞きたかったのだよ」
この男性、もとい、このオッサンは何を聞いてくるのかね?
「そんな事、貴方に言う必要は無いと思いますが?」
俺は鉄面皮のように無表情を装いながら、そう答えてみせた。
「そうかね?てっきり私は、君は2人に仲間外れにされているんじゃないかと思ったんだがね?」
オッサンの言葉に、俺は一瞬、表情を崩してしまった。
「おや?どうやら間違っている訳では無いようだね?」
オッサンは俺の表情の変化に気付いてしまったらしい。
それにしても、さっきから2人と言ったり、此方の事情を知っている様な事ばかり言ってくる。
「貴方はアイツらの事を、中山や三井田の事を知っているのか?」
だから、思わずそう聞いてしまった。
「そうだね?確かに私は(・・)彼らの事を知っているよ」
「それなら、アイツらの事を知っているなら、アイツらは今どうしているんだ?」
その言葉に、俺はつい聞いてしまったのだ。
そして、言ってしまってから、早まったと思ってしまった。
何で見ず知らずの人に、そんな事を聞いてしまったのだろう。
「もちろん知っているとも!」
オッサンは笑顔を崩す事なく、そう答えてきた。
「それなら、今、アイツらはどうしているんだ?」
俺は聞かずにはいられなかった事を聞いてみた。
「もちろん良いとも!」
オッサンは快諾した。しかし、
「ただし、君がそれを知りたいと思うのなら、これを受け取らなくてはならないのだよ」
そう言って、オッサンはどこからか、変わった形状をした鞘に入っている日本刀を握って、俺の方に突き出してきた。
おかしい!
何で、友達の話を聞こうとしただけで、武器を持たせようとするんだ?
そう思って、俺が躊躇していると、
「別にいいんですよ。これを持たなければ、お話しないだけですので!」
オッサンはそう言ってきた。
「だいたい、何で話を聞こうとしただけで、そんな物を持たなきゃならないんだか?」
俺はそう聞いてみた。
「貴方はご友人の武術の事は御存じないのですか?」
オッサンは何を言っている?
「それと何の関係があると?」
「これを持てば、それも含めてお教えしますよ」
このオッサンの言っている事はあやしい!
でも、この武器を持っただけで、何かが起こるわけではないし、とりあえず、持ってみようかと思ってしまう。
「どうしますか?持たないのでしたら、この話は此れで終わりという事で良いでしょうか?」
「待ってくれ。それを持てば、知っている事を教えてくれるのか?」
日本刀を持っている手を戻そうとしているオッサンに、俺はまた訊ねた。
「ええ!これを持てば、私の知っている事をお教えしますよ」
そう言って、笑顔を向けてくる。
怪しい!
怪しいけど、中山と三井田が、俺に黙って何かをしている気はする。
今を逃したら、それを知るチャンスが無くなってしまうかもしれない。
「ちゃんと、教えてくれよ!」
俺は念を押すように言うと、オッサンは無言で頷いた。
それを見届けると、俺は勢いよく日本刀を掴んだ!
掴んだと同時に、何かが俺の中に流れ込んできた。
俺はそれに抗おうとしたが、その方法が分からなかった。
そして、俺は次第に意識が薄れていった。
_________________
「まったく、やっと動けるようになったと思ったら、なんで男の身体なんですか?」
私は思わず愚痴を言ってしまう。
「仕方あるまい。あれの友人に君の希望する条件は無かったのだからな」
「だからってね~・・・」
そうなのだ。
何で私がこんな中年の男性の身体を使わなきゃならないんだか。
愚痴の1つも言いたくなるわよ。
「ま、これは仕方ない事なんだけどね」
私は溜息を1つしてから、目の前の男に向き直る。
「で?これからどうするの?」
男は鼻で笑い、
「それは、これから説明しますよ」
_________________
柴田城では、予定通りに銅像を破壊する事が出来た。
予定では、順調と言えるだろう。
「ああ~!も~!」
私は、少し苛立っていた。
「あと少しだったのに、も~!」
せっかく、一瞬とはいえ気配があったのに、駄目だった~!
やっぱり思い通りにはいかないわ!
でも、次こそは目的を叶えてみせるんだから!




