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霊器の想起  作者: 甘酒
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第40話 side 山岸広花1

 私は浮かれていたんだと思う。


 私は初任務を果たそうと、チームメイトと一緒に柏先市に来たのだ。

 だって、せっかくの任務なんだもの。

 成果を出したいじゃない!

 だから私はチームメイトの制止も聞かず、別行動を行なったのだ。


 そのおかげで、御霊の発生する場所が分かったの。

 だから、その場所である小学校のグラウンドの隅に待機して、御霊の出現する夕方まで待つ事にしたわ。

 そして、情報通りに日が傾いてきて、辺りが赤くなってきた時、グラウンドのあちこちに黒いもやの様なモノが滲み出るかのように、現れてきた。


 そのモヤが、まだカタチを成す前に、霊器で斬り裂けば事足りると思うんだけど、そういう事はしなかったの。

 だって、それじゃあ、私の手柄だとは分かり辛いんだもの。

 だから私は、そのモヤがちゃんとした形を成して、御霊になった後にソイツを斬れば、それは私の手柄になるわ。

 私の思惑通り、日が暮れて辺りが暗くなってきたあたりで、そのモヤがちゃんとした形を成してきたわ。

 その御霊は全部で3体いたわ。

 その全てが、まるで鎧を全身に纏った、昔ながらの鎧武者を連想するような姿形をしていたわ。


 そろそろ出ていこうかしら?

 私は、足元の地面に置いていた霊器を手に掴み、ゆっくりと立ち上がる。

 私の持っている霊器は、長巻ながまきって言う武器で、柄の長さが刀身と同じ位の日本刀なのよね。


 そして、グラウンドの隅から飛び出し、一番近くにいる御霊に向かって走り出す。

 御霊の近くまで寄った瞬間、長巻を振り上げる。

「やああああ!」

 私は気合の声を上げ、腰を捻る事により、持っている長巻に遠心力を与える。

 そして、その遠心力に上乗せする様にして、力いっぱい長巻を振り下ろす。


 目の前にいる御霊は、一瞬早く反応して、私の振り下ろした長巻を、手にしている刀で受け止めた。

 しかし、その刀は一秒ももつ事は無かった。

 私の長巻の一撃は、御霊の持っていた刀を断ち切り、そのまま御霊を肩口から斜めに斬り裂く事が出来た。

 私の斬り裂いた御霊は、そのまま動かなくなり、まるで煙が風で散るかのように崩れていった。


「やったわ!」

 私は敵を倒した事が嬉しくて、思わず歓声を上げてしまう。

 次の御霊を倒そうと思って、顔を上げると、残りの御霊が此方に走ってきたのか、すぐそこまで来ていた。


『※※※※※』

「この~っ!」

 私は迎撃しようと、長巻を横薙ぎに振るう。

 しかし、2体の御霊は直前に止まり、長巻の攻撃を避けられてしまった。


『※※※※※』

「っ!」

 何か語り掛けられている声が聞こえるような気がするけど、よく聞き取れない。

 それに今はそんな事に構っているような時じゃない!


 私が長巻を振り切って、体勢を崩したと見た御霊はすかさず間合いを詰めようとするが、私はバックステップを行ない、距離を取る。

 御霊は更に私に接近してくると思ったんだけど、そんな事はせず、武器を構え直していた。

 目の前にいる御霊を観察するように見てみると、一体は右足を後ろに引き、刀の剣先を右下に下げた状態で構えている。

 そして、もう一体は薙刀の刃を上に向けるようにして、すぐに振り下ろせるような構えを取っていた。


 私もその間に、長巻の刃を後ろにする感じに構え直して、いつでも横薙ぎで振れるようにして、御霊二体と向き合う事になった。

 そして、お互いが動きを止める事になったわ。


 私は二体相手に無策に真正面から攻撃するのは危険と思ったからなんだけど、何故か、相手の方も動きを止めてきたのだ。


 動きを止めてから、どれくらい時間が経ったのだろう?

 大体、この持っている長巻が重いのよ。

 そろそろ腕が痛くなってきたよ。

 いいかげんに何とかしないとキツイかな?


 私の長巻を持つ手が少し下がって瞬間、二体の御霊が駆け寄ってきた。

 それを迎撃するようにして、長巻を振るったんだけど、御霊が刀を振り上げるようにして、私の長巻を跳ね上げてしまった。

 そして、もう一体の御霊が、薙刀を振り下ろしてきた。それが私の足に叩きつけてきた。


ザシュッ!


「ぐぅぅあぁ!」

 私の足から嫌な音が聞こえてきたと同時に、激痛が襲ってきた。

 痛みに堪え、目に涙が浮かぶのを構わずに、跳ね上げられた長巻を叩き付けるようにして振り下ろす!

 それによって、薙刀を持っていた御霊を真っ二つにする事が出来たわ。


 でも、まだもう一体の御霊が残っているのよ。

 それなのに、動こうとすると、激痛が襲ってきて動くことが出来ない。

 あまりの痛みに、全身に冷や汗が流れる。


 そんな私に、最後の御霊は踏み込んできた。

「くぅぅ!」

 私は激痛に耐えながら長巻を振るったが、御霊はそれを下から跳ね上げるように斬り上げてきた。

 痛みで強く握れなかったのか、跳ね上げられた衝撃で手を離してしまった。


 そして、御霊にお腹を力いっぱい蹴り飛ばされてしまった。

「きゃああああ!」



 蹴り飛ばされた私に、長い棒のような物を持った男性が走り寄って来るのが見えたわ。

 日が暮れたこんな時間に学校なんで人がいるの。

「え?な、何で人がいるの?」

「何でって、近くを通りかかっただけですよ」

 男性は私にそう言ってきたのだ。

 だけど、今の状況に一般人が居るのはマズイ!

「い、いけない!早く逃げてください!」

「何を言っているんです。困っている人を放っておくなんて出来るはずないじゃないで・・・・・」

 そう言おうとして、いきなり後ろの方に顔を振り向けた。

 その視線の先には、今まで戦っていた御霊の姿がある。


「早く逃げてください!あれは、普通の人には戦えるような相手じゃないんです。私がアイツの相手をしま・・・痛っ」

 私は早く逃げるように言おうとしたけど、痛みで言葉が途切れてしまった。


 その間に男性は、立ち上がっていた。

 そして、持っていた棒を御霊に向かって構え出したのだ。その時に、男性の持っている棒が私の長巻だと言う事に気付いたわ。

 男性が御霊に向かって歩を進めた時、私は信じられないものを目撃したの。


 私の目の前で、男性の身長が縮んできたのだ。

 それから、髪の毛が伸びてきて、それが風に靡いていく。

 そして、御霊に近づいて、最初の一撃を振り下ろすが、御霊に届かなかった。

 どうやら、間合いが掴めていないようね。

 その後は何とか御霊と応戦が出来ているようだったけど、何度か斬りつけると、恐怖で顔を強張らせると、逃げ出そうとしだした。

 そうよね。生物ですらない化け物と、こんな異常な戦いなんか普通はしない筈だものね。

 そう思っていたけど、直ぐに御霊の方に顔を向ける。

 その顔には、逃げ出そうとする顔ではなく、何かを決意したような顔付きになっていたの。

 それからは、逃げる事も無く、懸命に戦っていたわ。

 でも、それも長くは続かなかったわ。

 御霊の刀を受けた長巻の柄がへし折れてしまったのだ。

 それと同時に、彼?は意識を失ったようだった。


 ヤバイ!

 こんな状況で意識を失いのは、死の危険があるわ!

 私がそう思って、立ち上がろうとした瞬間、御霊の身体に矢が刺さる。

 その後、さらに御霊の胴体に何本もの矢が突き刺さるのだった。


 私は、矢の飛んできた方に顔を向けると、そこには一緒に活動するはずだったチームメイトの人がいた。

「吉川さん・・・」



__________________




 ベッドに寝ていた私の病室に、お見舞いに来る人がいた。

「やっほ~!広花ちゃん、具合はど~?」

 吉川さんが病室に入るなり、私にそう声をかけてきた。


 私のベッドの横に置いてあった椅子に腰を下ろし、色々と話をしていたの。

 それから、この間のグラウンドで女性になった男性の話題になったのだ。

「それでね、その人、英奈ちゃんて名前に変わったんだけど、ちょっと広花ちゃんにお願いしたい事があるのよ」

 吉川さんが私にそう話しかけてきた。

「あの人がどうかしたんですか?」

「ええ。実はね・・・」


 それから、色々と教えてもらったわ。

「・・・それでね、私の見立てなんだけどね。英奈ちゃんは女性の身体と男性の精神というアンバランスによって、不安定な状態だと思うのよ。だから、御霊を攻撃した時にその齟齬が精神に異常をきたしてしまうんじゃないかと思うの」

「はい!」

「だから広花ちゃんには、その齟齬を無くすようにする手伝いをしてほしいのよ」

「はい!私に出来る事なら幾らでも手伝いますけど、具体的に何をすれば良いんですか?」

 私はもちろん手伝い事に異論は無い。

「まず、自分が女の子だと自覚してもらう為に、女の子の服装を着てもらって、言葉使いや仕草とかも女の子らしくなって貰おうと思っているの」

「でも、それだけで大丈夫なんですか?」

「うん。ほら!男の子って、女の子に『エッチな事をしよう』とするじゃない?だからね、『エッチな事をされれば』、自分が女の子だと認識するんじゃないかと思っているんだけどね」

「そういうものですか?」

「そういうものじゃない?」

「・・・いいですよ。私もそれを手伝いますよ」

 命の恩人が大変なんだから、何とかしてあげたいしね。

「ホント?ありがとう!」



___________________




 英奈さんがお盆を持って、吉川さんの部屋から出てくるのが見えたわ。

 顔を赤面させながら、スカートの乱れを直している。

 ・・・どうやら、また吉川さんに何かされたようね。

 さて、次は私の番かな?


「英奈さん!」

 私の声に、英奈さんがこっちを見てきた。

「広花ちゃん。どうしたの?」

 私に近づいてきた英奈さんが、私にそう聞いてきた。

「あのですね。今からケーキを作ろうと思っているんですけど、英奈さんも一緒にどうですか?」

「ホント?私も作りたい!」

「じゃあ、今から台所に行きましょう」

「ええ!」



 私と英奈さんが台所に着くと、

「ただいま~」

 本間さんが帰ってきたようだ。

「おかえりなさい」

「のど渇いた~!」

「じゃあ、飲み物を持ってくるね。麦茶で良い?」

「ああ!」

 そう言って、英奈さんが冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注いでいる。

 そして、そのコップを本間さんに渡していた。


 英奈さんって、ホントに甲斐甲斐しいよね。

 これだけ見ると、本当に女の子みたいだし、まるで恋人みたいよね?


 !!

 そうよ!

 恋よ!

 恋なのよ!

 恋をすれば女の子として自覚出来る筈よ!

 ちょうど、今は身近に男の人が居るじゃない!

 だから、くっ付けちゃえばいいじゃない!


 私がそう思った時、英奈さんがビクンッ!と身体がはねた。

「な、何?今、物凄い悪寒がしたんだけど・・・」

「中山もか」

「・・・と言う事は、本間君も?」

「ああ。誰か殺気を出していたのかな?」

「こんな所で誰が殺気を出すのよ?」

「そうだよな。なら、まさか2人とも風邪をひいたかな?」

「どうなんだろう?一応、身体を温める為に甘酒か生姜湯でも作ろうか?」

「そうだな。頼めるか?」

「うん!」



 英奈さん達、体調が悪いのかしら?

 大丈夫かしら?


 !!

 待って!これは看護イベントじゃないの?


 もしも、具合の悪くなった英奈さんがベッドに寝こんだら?

 具合が悪くなって、心が弱くなった所に本間さんが優しく看病すれば、恋に落ちるかもしれない!

 いえ!落ちるに決まっているわ!

 そうすれば、精神的にも女の子になる筈よ!


 私が綿密なシミュレーションをしていると、

「うわ~!背中がゾクゾクしてきた~!」

 英奈さんがそんな事を言って、寒がっていた。

 これは、本格的に看護イベントに突入するかしら?



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