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霊器の想起  作者: 甘酒
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第3話

今回の、こんな感じの話を、盛り上げて書ける人が、ホント羨ましいです。

自分では、全然盛り上がるように書けなかったです。

 母さんが、用事があるからと言って、一旦、家に帰ったのを見送ってから、僕はベッドで大人しく寝ていた。

 話をしている最中は、母さんが心配すると思って黙っていたが、何故か少し怠かったのだ。

 僕が眠っていたのは、どうやら1週間らしい。

 随分と眠っていたもんだな。

「はあ・・・」


コンコン


 少し眠ろうかと思っていた時、個室のドアにノックの音がした。

 母さんが忘れ物でもしたかな?それとも、お医者さんかな?

「はい。どうぞ」

 僕の返事で、ドアが開いた。

 そして入ってきたのは、どちらでもなかった。

 パリッとしたダークグレーのスーツを身に纏った男性が入ってきた。

 年の頃は30歳頃。澄ました顔だが眼鏡の奥から光る目付きが鋭かった。細身だが痩せている印象は無かった。

「どちら様ですか?」

 僕は、見覚えの無い男性に問いかけた。

「失礼する。中山英樹君だね。私は宮内庁御霊災害対策課の山田と言います。」

 山田と名乗った男性は、人差し指で眼鏡をクイッと上げる。

「宮内庁?」

 何で宮内庁なんて言葉が出てくる?

 警察が出てくるなら、まだ分かるけど、何でいきなり省庁、しかも皇室の方々のお世話をするのが仕事の宮内庁が出てきたのか、訝しむ。

「今回は、災難でしたね」

「いえ」

 山田と名乗るこの男は何で来たんだろう?

「ところで、山田さんでしたか?どうして、宮内庁と名乗る人がこんな所にわざわざ来たんですか?」

「そうですね。先ずは部下の命を救ってくださったので、そのお礼を言いに来ました」

「部下?」

「はい。あの時、戦闘して怪我をしていた少女は私の部下です」

 暗かったけど、あの時の少女の顔はしっかりと見ている。

「ちょ、ちょっと待ってください。あの時の女の子は10代に見えましたよ。間違っても公務員になれる年齢ではないですよ」

 山田さんは、平然とした顔でとんでもない事を言ってきた。

「それはそうでしょう。正規の公務員ではないんですから」

「・・・は?」

 そんな事をはっきりと言ってしまっていいの?

「そんな事を言って良かったんですか?もし僕が左翼とかだったら、喜び勇んでマスコミに駆け込みますよ」

 苦笑を浮かべながら、山田さんは言った。

「それは大丈夫でしょう。貴方の事は一通り調べさせていただきましたから、貴方がそういう事をする人間ではないと知っています」

 勝手に調べられた事には軽い不快を感じるが、まあ、それ位の事はしないとならないとは思う。

 でも、疑問に思った事があった。

「それで山田さん。何でそんな事を僕に言うんですか?下手に言わない方がリスクを減らせるんじゃないですか?」

「もちろんリスクは減りますが、貴方をスカウトするには、言った方がいいと判断しました」

 スカウト?

「中山さん。あの夜、貴方が戦ったモノですが、何だと思いますか?」

 戦ったモノ。鎧武者を模した煙みたいなモノ。

 何だと言われても、

「分かりません。武者に見えましたが、生物ではないと感じましたけど・・・」

「そうですね。アレの正体なんですが・・・」

 山田さんは指で眼鏡のふちをクイッと上げる。

「よく分かりません」

「・・・は?」

 何言ってんの?この人。

「別に、冗談を言っているわけではありません。科学的に説明出来ないので、分からないと言ったのです。」

 何だろう、この人と話していると少し疲れる。

 でも続きを聞きたくはあるな。

「科学的にって事は、科学的じゃないなら説明できるんですよね」

 山田さんは、面白そうにフッと笑った。

「はい。仮定ならありますよ」

「それなら、その仮定とやらを聞いてもいいですか?」

「わかりました」


 それから山田さんが色々と説明してくれた。


 あの武者は、死んだ魂が無念や恨みによって穢れてしまった為になった、一種の怨霊の類ではないかと推測されている。

 その怨霊になったモノを、御霊と総称していると言う事。

 人が長年、使用し続けた武器や器物の事を霊器と呼称していると言う事。

 そして御霊は、武家等の血筋の者が、霊器を使わないと影響を与える事が出来ないという事。

 そうして、御霊による被害から国民を護る為に組織されたのが、御霊災害対策課だという事。


「・・・と言う訳です」

 山田さんは、これらの事を一通り説明をしてくれた。

「そうですか・・・」

 話を聞き終えた僕は、そうとしか言えなかった。

 ・・・これでどうゆう反応しろと?

 思いっきり、厨二病くさい事を説明されて、納得できるかと言われても困る。

 まあ、アニメとかラノベとかは大好きだから、心に引かれるものがあるのは否定しないけど、現実世界で言われても困る。

「それで、中山さん。是非私達の元に来ていただけないでしょうか?」

「だから、何で僕なんですか?」

 それが一番疑問なんだよな。

「さっきも説明しましたが、武家の出身者が必要なんです。調査によると、貴方は上杉謙信配下の血筋ですね」

 確かに僕の血筋は、上杉謙信に仕えていた武家の出らしい。

 でも今は、武器についてや、武術を習っているけど、ただの一般家庭だけどね。

「でも、元武家の人なんて、今は結構いるんじゃないんですか?例えば警察官なら同じ公務員だし、対外的な印象でも問題ないし、戦闘面でも有利なんじゃないんですか?」

 山田さんは、僕のそんな言葉にも平然としていた。

「中山さん。貴方は御霊に斬りかかった時に、恐怖を感じませんでしたか?」

「・・・」

 恐怖はあった。

 これが殺される恐怖や、殺す恐怖なら分かるけど、そのどちらでもなかった。

 これが何の恐怖なのかが分からなかったのだ。

「恐怖を感じました。あれは何だったんですか?」

 山田さんは僕の質問に答えてくれない。

 と言うか、答える気無いんだろうな。

「警察官を採用しようとはしましたが、殆どの者が、攻撃した時のその恐怖を感じていました。問題なのが、その恐怖を感じた時、大半の者が行動不能に陥ったのです。そして、その隙に大怪我を負わせられたのです。その点、貴方は恐怖を感じても尚、戦闘行動を継続していました。この継続できる人は貴重です」

 僕は山田さんの話を聞いてはいたが、まだ承諾する気にはなっていない。

「山田さん。そう色々と言っていますが、僕がスカウトに応じるような理由にはなりませんよ」


 ゾクッ


 山田さんは、僕のその言葉にニヤリと笑った気がした。

「中山さん。貴方がこの病院で目覚めるまでに1週間が経過しています。その間、貴方の身体及び、意識の回復の為の、様々な検査をしていました。もちろん、最新医療を使って治療もしていました。国民皆保険の利かない最新医療をね」


 一瞬考え、僕は何を言われたのか、理解してしまった。

 山田さんの言っていた、僕の事を調べたってのは、家の経済状態まで含めて調べたのだろう。

 そんな事を思っていた僕に、山田さんは容赦なく駄目だしをしてきた。

「貴方に、入院費その他を払えるのですか?」


 我が家は、お金に余裕が無かった。

 両親共に年金暮らしで、両親はその蓄えを切り崩しながら暮らしていた。

 それに加えて、僕自身が、数年前の世界同時不況の影響で従業員200人以上の大量リストラにあってしまったのである。

 今は非正規社員として働いている。

 はっきり言って、人生詰む寸前であるのに、そんな金額払える訳ない。


「私達の元に来てくれたら、入院費を含む医療費全額を私達が肩代わりしますよ」

 山田さんは、満面の笑みを浮かべて、救いの手?を差し伸べてくれた。

「・・・卑怯ですよ」

 苦々しく思いながらも、僕には拒絶する手段が思いつかなかった。




________________________




 山田さんが帰った後、僕はトイレの前に来ていた。

 ラノベ等のTS物では、お約束なネタだけど、まさか自分が体験するなんて予想もしていなかったよ。

 そう、僕は男子トイレ前と女子トイレ前の間に立っていた。

 今の僕は外見上、一応女の子だから、女子トイレなんだけど、(本来の)僕は男子トイレに入るべきなんだろうなぁ。

 そんな風に悩んでいると、突然両肩を叩かれた。

「ひゃっ」

 振り替えると、20代半ば位の綺麗な女性が僕の両肩に手を置いていた。

「こんな所でどうしたの?お嬢ちゃん」

 綺麗なお姉さんは、そんな事を言いながら、ニッコリと笑いかけてきた。


 近い!

 近い近い!


 年齢イコール彼女いない歴とは言わないが、近いモノがある僕は、こんな近くに女の人がいる事なんて殆ど無く、それだけで、顔が真っ赤に染まってしまう。

「え、あ、あの、な、何ですか?」

 何を言っていいのか、言いたいのか、自分でも分からなくなる。思考が空回りしている自分が恨めしい。

 お姉さんは、そんな僕の様子を面白そうに見つめている。

「トイレに行きたいんでしょ?何も遠慮しなくていいから、入りなさいよ」

 そう言いながら、僕を女子トイレに押していく。

「え?え?ちょっ、ちょっと、待って、待って・・・」

 お姉さんは、僕をトイレに連れ込み、そのまま個室に放り込む。

「さ、これでいいでしょ?」

「あ、有り難うございます」

 個室の前に人がいるので、落ち着けないながらも、何とか用を足す。

 その時、お姉さんがポツリと言った言葉が聞こえてきた。

「それにしても、男から女になるなんて大変だよね~」

「え?」

 僕は慌てて個室のドアを開けたら、そこには誰もいなかった。



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