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霊器の想起  作者: 甘酒
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第38話

 ウミテラス奈立から帰ってから、急いで夕飯を作っていた。

 勿論、ウミテラスで買ってきた食材や調味料をふんだんに使って作ったよ。


 例えば、水産学校が作って販売していた魚醤があったので、それを使って、煮物を作ってみた。これを入れるだけで普通の醤油の味付けとは違う雰囲気になるのだ。

 それだけではなく、焼き鳥を用意し、それに付けるタレとして、かんずりを皿に添えるとか。

 その他にも、地元のB級グルメとして、ブラック、ホワイト、レッドの焼きそば等が有るんだけど、その中のブラック焼きそばを作ったりとかだよ。


 普段は、もう少し慎ましく、且つ、栄養バランスを考えるんだけど、今日は止めておいた。

 だって、こんなに大量の食材を買ったのなんて、久々なんだからね。しかも、大人組の財布からだから遠慮なんかしなかったよ。


「ちょっと、この皿を置きたいから、そこを開けて!」

「あ、ああ!」

 僕は焼きそばの入った皿を持った状態で頼むと、本間君が煮物の入った深皿をずらしてくれた。

「ありがとう」

「ああ」


 作った料理がテーブルに並べられたのを確認した吉川さんが、ビールの入ったグラスを手に持ち、それを掲げる。

「皆、グラスは持った?」

「はい!」

 吉川さんの言葉に、僕が代表して答えながら、椅子に座る。

 因みに長方形のテーブルには、吉川さんが上座に座り、吉川さんの右側に三井田が座って、その横には本間君がいる。

 そして、吉川さんの左側に広花ちゃんが座り、その横には僕が座っているのだ。

 御飯のおかわりを言われた時に、端っこにいた方が御飯を盛ったりするのが楽になるからね。


「それじゃ、皆。結界の破壊阻止を祝って、カンパ~イ!」

「「「「カンパ~イ!」」」」

 吉川さんの音頭に答えて、皆が乾杯をする。

 そして、大人組はビールの入ったグラスを傾ける。

 吉川さんと三井田は、泡だった黄金色の液体を喉を鳴らして飲み込んでいく。

「ぷっは~!」

「この為に生きているよな~!」

 そんな事を言っていた。


 そんな2人を見ながら、僕はオレンジジュースを飲んでいた。

「中山。お前は飲まないのか?」

 僕の視線に気づいた三井田が、そんな事を言ってきた。

「うん。今の私は身体的にも戸籍的にも未成年だからね」

 三井田の問いに、僕はそう答えた。

「そうなのか?」

「うん。だから、私達は飲まないの」

 そう言いながら、本間君と広花ちゃんの方に顔を向ける。


「お前は偶には飲みたいと思わないのか?」

 三井田がそう聞いてくるんだけど、

「ん~。元々そんなに飲む方でも無かったから、特には思わないかな」

 そう言いながら、本間君と広花ちゃんの方に顔を向ける。

 僕の正面に視線を向ければ、その先では本間君はグラスに入ったオレンジジュースを飲んでいた。

「ねぇ、2人はお酒って飲みたいと思う?」

 何となく、本間君達に聞いてみた。すると、

「いや。特に思わないな」

 と、本間君が答えてくれた。


「広花ちゃんは?」

 僕は右隣にいる広花ちゃんに顔を向けて聞いてみた。

「私も飲んだ事無いから、特に飲みたいって気は無いですね」

 と、言ってきたよ。

 吉川さんの隣にいる広花ちゃんは、オレンジジュースを飲み終わったのか、グラスに入った透明な水を飲み始めていた。


「ね?他の2人もいらないって」

 と、僕は言ったんだけど、

「おい!俺はお前に言ったんであって、未成年に飲ませようとしていた訳じゃないぞ!」

 三井田はそんな事を言ってきたけど、

「私も未成年だけど?」

「そうだけど、お前は元々成人しているだろ?」

「うん。けど、今は未成年だから飲まないでおくね」

 僕はそう答えた。

「はぁ。分かったよ」

 三井田は嘆息しながら、そう言ってきた。


 それから、夕飯を食べたり飲んだりしている内に、また三井田から話かけてきた。

「なぁ、ちょっと聞いていいか?」

「うん?なに?」

 焼き鳥にかんずりを少し付けながら、三井田に返事をする。


「この間、結界の補強とか言っていたけど、少し分からなくてな」

「うん」

「ほら!結界と言うと、五芒星とか六芒星とか思い浮かべるんだけど、細長い県だから、大きめの五芒星とか作っても県全域を覆う事は出来ないだろ?」

 三井田はそんな事を言ってきた。

「そう言えば、そうだね」

 僕はつい首を斜めに傾けてしまった。

「もしかして、お前も分かっていないのか?」

「・・・う、うん。地図と比べて確認していなかったよ」

「ふ~ん・・・」

 み、三井田の視線に冷たいモノを感じるよ~。


「ほ、ほら!吉川さんとか、本間君とか、経験豊富な人達がいるから大丈夫なの!」

 僕は慌てて、そう弁明したんだけど、

「つまり、2人に任せっきりにしていたんだな?」

「う・・・」

 僕は答える事が出来なかったよ。


「結界についてなら、答えられる事は私が答えましょうか?」

 僕と三井田の会話を聞いていたらしい吉川さんが、そう話しかけてくれた。

「そうですか?それなら、お願いしますよ」

 三井田が吉川さんの方に顔を向けて、そう言っていた。

「それじゃあ、まずはコレをグイッと飲んでね!」

 吉川さんがそう言いながら、三井田のグラスにビールをなみなみと注いでくる。

「え?」

「ささっ!グイッとイこう!グイッと!」

 怯んだ三井田に、吉川さんはビールの入ったグラスを薦める。

「い、いや!とりあえず、話を聞い・・・」

「飲んでくれないと、話しませんよ!」

 三井田の言葉を遮るように、吉川さんがニッコリと笑っていた。


「わ、分かったから・・・」

 三井田はそう言ってから、グラスを手に持ち、口に付けると共にグラスを傾ける。


ゴクゴクゴク!


 咽を鳴らしながら、グラスに入っているビールが減っていく。

 そうして、一気にグラスの中にあったビールを飲み干すのだった。

「さ、さあ!飲んだよ!」

 白い泡の輪っかを唇に付けた三井田が、グラスをテーブルに置きながら、そう言ってきた。


「ええ!」

 吉川さんが笑みを浮かべる。

「わかったわ。それで何から聞きたいのかしら?」

 そう言いながら、三井田のグラスにまたビールを注ぎ込んでいく。

「そ、それじゃあ、さっき言っていた、結界は五芒星とかなのかなとか?」

 グラスに注がれていくビールを、顔を引き攣らせながら見ながら、そう聞いていた。

「ああ!そうね!五芒星とか六芒星ね。そ~ね~、ぶっちゃけて言うと、そんなのは無いわよ」

 凄く軽い口調で、吉川さんがそんな事を言ってきた。

「「え?」」

 吉川さんの余りに軽い口調に、僕と三井田は思わず聞き返してしまった。

「ちょ、ちょっと!それホントですか?」

 僕は慌てて、吉川さんにそう聞いてしまった。

「ええ!本当よ!」

 吉川さんはグラスに入ったビールを飲みながら、凄くあっさりとそんな事を言っていた。

「あ、あの、それじゃあ、どうやって結界を作っているんですか?」

 僕の言葉に、三井田もコクコクと前後に首を振っていた。

「ん~!私も結界については詳しくないんだけどね。何でも、五芒星とか六芒星とかを使った結界って、基点の1つを壊されただけで、崩壊するらしいのよね」

 吉川さんが余りにも簡単にそんな事を言う。


「じゃ、じゃあ、どうやっているんですか?」

 思わず声を上げてしまったよ。

 その言葉に、三井田が頷いていた。


「五芒星とかは使わずにね。そこそこのサイズの御霊の発生抑止の結界をたくさん張った後に、小型のモノをその結界の隙間になる部分に、設置して隙間を埋める様にしているらしいわよ」

 吉川さんが、人差し指を顎にあて、首を傾げながらそんな事を言ってきた。

「「はあ?」」

 吉川さんの言葉に、僕と三井田は揃って、そんな言葉が出てしまったよ。

「ちょ、ちょっと、そんな感じの物で良いんですか?」

 僕はそんな事を問うてしまった。


「大丈夫じゃない?この方法なら、一ヶ所を破壊されただけで全体が崩壊する事は無いし、一ヶ所が破壊されても、影響は最小限に出来るしね」

「そうゆうものですか?」

「ええ!そうよ!」

 吉川さんのこの自信満々の返事はどこから来るんだろう?

「それにね。もし破壊されても、規模の小さいものだったら、比較的楽に復旧が出来るらしいのよね」

 そう言って、ビールの入ったグラスを口にした。

「そうゆうものですか?」

「ええ!そうよ!」

 また同じやりとりになってしまった。


 とりあえず、この酒の入った席では、これ以上は止めておいた方が良いのかな?



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