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霊器の想起  作者: 甘酒
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第33話

「こんな感じでどうかしら?」

 吉川さんがベッドの上に、男物の着物である灰色の長着ながぎと、長着を締める黄土色の角帯かくおび。そして長着の下に着る白い襦袢じゅばん、そして長着の上に着る長着と同色の羽織はおり

 これを着たら、分かりやすく説明するなら、江戸時代の商人の服装と言う感じになるだろう。


「ええ~?こっちの方が良くないですか?」

 広花ちゃんが別の服をベッドに並べて、そう言ってきた。

 それは、まるで中世ヨーロッパ風の男性服のようだった。

 何と言えばいいのか、鮮やかな青色をした、いわゆる王子様風の服だった。

 あえて言うなら、演劇のロミオとジュリエットのロミオ役の人が着ているような服だった。


「う~ん。こっちの方が良くないですか?」

 そう言って、僕は時代劇の職人が着ているような感じの、紺色の作務衣さむえと黒い角帯をベッドに広げてみた。

「え~!そんなの地味じゃないですか~?」

 広花ちゃんがそんな事を言ってきた。


「でもほら、三井田の持つ霊器は小太刀なんだから、西洋風の服装は合わないと思うわよ」

 だから、僕はそう返した。

「そんな事は無いですよ。武器が和風だからって、服装まで和風にする必要なんか無いんですよ!」

「でもね。広花ちゃん。いくらなんでも、そんな王子様スタイルは目立ち過ぎると思うわよ」

 吉川さんが広花ちゃんの言い分に反論している。

「そんな事ないですよ!こんな格好良い服なんだから目立っても大丈夫ですよ!」

 そんな事を言ってきた。


「でもね、広花ちゃん・・・」

 僕はそう言って、横に向かって人差し指を刺す。

 そこには、顔を引き攣らせている三井田がいた。

「40代おっさんのあの顔で、あの服が似合うと思う?」

 そう言って、次は広花ちゃんの用意した服を刺す。


「う・・・」

 流石の広花ちゃんも言葉に詰まったようだった。


「だから、私が選んだこの着物が良いと思うのよ。それに、これなら三井田さんの外見や年齢でも違和感は無いはずよ!」

 吉川さんが自信満々でそう言ってきた。

「でも吉川さん。そういう事なら、私が選んだこの作務衣でも十分に要件を満たしていますよ」

 僕がそう言って、自分の選んだ服を推薦すると、

「でもね、英奈ちゃんの選んだ作務衣だと、寒い季節だと大変じゃないかしら?」

 そう反論してきた。

「それを言うなら、吉川さんが選んだ長着の方は、足を広げたり大股で動き回ったりするのは大変じゃないですか」

 僕は勿論言い返した。


 実は今、戦闘時に三井田の着る装備や服装についてを検討していたのだ。

「まあまあ、3人とも。そんなに熱くならなくても、何なら三井田さんの意見も聞いてみても良いんじゃないかな?」

 本間君が少し汗を掻き、顔を引き攣らせながら、そう声をかけてきた。


 そう言われたので、僕達3人は三井田の方に顔を向けた。

「ふ~ん。で、三井田はこの中のどれが良いと思う?」

 僕はそう言って、ベッドに置いてある3着の衣服を三井田に指しながら聞いてみた。


「俺か?俺は別にジャージでも良いと思っているんだけど・・・」

 三井田がそんな事を言ってきたので、すかさず、

「「「却下!!」」」

 僕と吉川さん、そして広花ちゃんは声をハモらせて言った。

「え~?」

 三井田は心外だとばかりの顔をしていた。


「ジャージ姿のオッサンなんて、私達のチームとして認められません!」

 吉川さんが、そう言って胸を張っていた。

 それは吉川さんだけでなく、僕や広花ちゃんの意見を代表して宣言してくれたのだ。

「ま、まあまあ。吉川さんもそんなに気合を入れなくてもいいじゃないですか?」

 本間君が吉川さんを宥めるかのように言うと、三井田が本間君の方に振り向いた。

「本間君!先輩である貴方がそんな事を言ってちゃ、駄目じゃない!」

 だが、すかさず本間君に反論する吉川さん。

「で、でもさ。服の上には防具を装着するんだから、服にそこまで拘らなくても良いと思うんだけど・・・」

「そんな事無いと思うよ。軍隊やアニメみたいに統一する必要は無いと思うけど、全くの統一感ゼロも困ると思うのよ」

 その反論には、僕が返答する。


「そうそう!それに、もし他のチームと遭遇した時に、チグハグな見た目だったら恥ずかしいじゃないですか!」

 広花ちゃんも僕の言葉を補強してくれた。


「で、でも、そこまで気にする事も・・・」

「「「あるの!」」」

 また3人の声がハモッてしまった。


「う・・・」

 本間君が呻いていた。

 何だろう?引かれているような気がするよ。

 まあ、その姿を確認したので、ソレは放置して残りの1人の方に向き直る。


「で?三井田さんはどんな姿が良いのかしら?」

 吉川さんが再び問いかける。

「そ、それは・・・」

「やっぱり、こういう服装とか着てみたいですよね?」

 言い淀んでいる三井田に、期待に満ちた瞳の広花ちゃんが語りかける。

「そ、それはその・・・」

 それは流石に三井田の趣味じゃないとは思うけど、僕は黙っている。

 三井田の性格からして、人をからかうのは兎も角、泣かすのは苦手だった筈だから、泣かれない様に、少しは困っているだろうけど、これ位は対応できると思うしね。


ヴヴヴヴヴヴ


 三井田が答えに窮していると、振動したような音が聞こえた。

 そうすると、吉川さんがスカートのポケットからスマートフォンを取り出して、それを耳にあてた。

「はい!吉川です」

 そう言った声はさっきまでの楽しそうだった雰囲気は全く無かった。

 一瞬で切り替えたのだろう。

 ホントに、こういう所はプロだよね。


「はい!・・・え、・・・いえ。はい!」

 吉川さんがそう答えている。

「はい!了解しました!」

 吉川さんはそう答えると同時に通話を切り、スマートフォンをポケットに仕舞う。

 そして、僕達の方に顔を向けると、

「仕事よ。出動するわよ!」

 そう言ってきた。


「皆、今すぐ戦闘に備えての装備を用意して。準備でき次第、出発するわよ」

 吉川さんはすぐさま指示を出すと、自身の準備の為に部屋を出て行こうとした。

「吉川さん。とりあえず三井田さんの服装は、俺の予備を貸すって事で良いかな?」

「ええ。それで良いわ!」

 本間君の言葉に、吉川さんは即決で答えて部屋を出て行く。

 僕や広花ちゃんも、着替えや準備をする為に部屋を出て行った。


 着替えが終わって居間に戻ると、そこには準備を終えた広花ちゃんがいた。

「あれ?皆は?」

 僕がそう聞くと、

「いえ。まだ来ていませんよ」

 広花ちゃんがそう答えたんだけど、

「俺達なら、今出来たぞ」

 話し掛けてきた声がした方を向くと、そこには本間君と三井田が連れ立って歩いて来ていた。


 2人はさっき言っていた様に、本間君の戦闘時の衣装を着ていた。

 つまり、上には紺色のTシャツを着て、下の方には迷彩柄のズボンを穿いていた。

 さらに、その上に防刃ベストを身に着け、特殊樹脂でできた手甲を両手に嵌めていた。

 そして、三井田用の霊器は、小太刀だ。

 今まで僕が予備として装備していた小太刀なのだが、正式に霊器と認められたらしい。


「うわあ、凄く似合ってますね。三井田さん」

「うん。結構似合っているよ。三井田」

 広花ちゃんの言葉に僕は頷きながら、そう答えた。


「じゃ、じゃあ!俺の服はこれでいいよな?」

 三井田がそんな事を言っていたんだけど、

「ううん!帰って来てから再開ね!」

 僕がそう言うと、

「そうそう!またやりますよ!」

 広花ちゃんが同調してきた。

 その言葉に、何故か三井田は肩を落としていた。


「はいはい!その話は後にしなさいよね!」

 そう声の方に顔を向けると、そこには、いつもの巫女さん姿に、弓を片手に吉川さんがいた。

「おお~!巫女さんだ!吉川さんの巫女さん姿なんて、予想していなかったけど、かなりイイな!」

 三井田がテンション高めにそんな事を言い出した。

「あ?ちょ、中山!邪魔すんな!」

 僕は三井田の視界を遮る様に移動しながら、吉川さんに話をする。

「吉川さん!早く移動しましょう!」

「ええ!そうしましょう!」

 吉川さんが同意しながら、そう言った。

「じゃあ!早く車に乗りましょう!」

「はい!吉川さん、英奈さん早く行きましょう!」

 広花ちゃんが、僕と吉川さんの腕を絡ませながら歩き出した。


「ああ~!もっと巫女さん姿を堪能させてくれ~!」

 三井田が何か言っていたけど、無視する。


 全員で乗ったワンボックスカーは、永岡の駅前通りを走り過ぎ、その先にある橋を渡り、県を縦断するように伸びている国道に来ると、かなり通行量が増えるが、渋滞する程ではなかった。


 その国道を進んでいくと、高速道路を表す標識が見えてきた。

 そこに向かって走り続けていると、料金所が見えてきた。

 少し減速しながら走り、ETCレーンを通り過ぎる。

 そして、高速道路に乗ると、吉川さんはアクセルを踏み、スピートメーターが反応すると、ワンボックスカーは加速しだした。


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