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霊器の想起  作者: 甘酒
33/74

第32話

 今、僕は台所にいる。

 インスタントコーヒーと砂糖をスプーンで掬い、コーヒーカップに入れ、ポットからお湯を注ぐ。

 それをトレイに載せ、台所を出る。


 それから僕は、吉川さんの部屋へと向かい、ドアをノックする。

「吉川さん。いいですか?」

 僕はそう言うと部屋の中から声が聞こえた。

「は~い。入っていいわよ」

 その返事を聞いてから、ドアを開け、部屋に入る。

 部屋の中では、白いブラウスに紺色のタイトスカートという、いかにもキャリアウーマンという服装をしている吉川さんがいた。

 普段の言動からは想像も出来ないが、こういう恰好も、巫女さんの恰好も凄く似合うんだよな~。


 そこでは、デスクの上のノートパソコンの前で何やら打ち込んでいた。

 だから、吉川さんのノートパソコンの横に、コーヒーのカップを置く。

「はい。少し休憩したらどうですか?」

 僕がそう言うと、

「ええ。英奈ちゃん。ありがとう」

 そう答えて、僕の置いたコーヒーカップを持ち、それを一口啜る。


「それで、吉川さんは何をしているんですか?」

 僕はトレイを胸に抱える様にしながら、吉川さんに聞いてみた。

「私達が手掛けた仕事をまとめたものを見ていたのよ」

 吉川さんがそう答えてくれた。

「ふ~ん。そうなんですか。でも、何でそんなのを見ているんですか?」

 そんな疑問が浮かんできたので、それをそのまま、言葉にする。

 僕の言葉を聞きながら、吉川さんはもう1杯コーヒーを口にする。


「ん~とね、何と言うのかね・・・」

 カップを口から離した吉川さんは、一息ついている。

「ここ最近の私達の出動がね、今までの感じと何処か違う様な気がするのよね~」

 そう言って、軽く首を傾げている。

「そうなんですか?」

 そう言って、僕はノートパソコンを覗き込む。

「そうなのよね~。でも、どこがどうと言われてもそれが答えられないんだけどね~」

 吉川さんはそう答えると、腕を組んで、デスクチェアの背もたれに体重をかけた。

「う~ん。私はこの仕事を始めたばかりだから、その違いが分からないですけど・・・」

 僕も首を傾げて考えるけど、これと言って思いつかなかった。


「やっぱり私の勘違いなのかしらね~」

 吉川さんが溜息をつきながら、そんな事を言う。

「そうですね~。何だったら本間君に聞いてみませんか?」

 僕は根拠はないけど、何となく、思いついた事を口に出したんだけど、

「そうね~。確かに本間君なら、それなりに経験が長いし、分かるのかしら?」

 そんな事を言いながら、軽く目を閉じ、少し考え込む態度を取った。

 吉川さんの思考を邪魔しないように、僕は大人しく黙り込む。


「英奈ちゃん。悪いんだけど、本間君を呼んできてもらえないかしら?」

 目を開けた吉川さんが、僕に顔を向けて、そう言ってきた。

「あ、はい!本間君をこの部屋に呼んで来ればいいんですね」

「ええ!お願いね!」

 吉川さんが僕の言葉にそう答えてくれる。

「はい!」




___________________




 居間に戻ると、本間君の他に広花ちゃんも三井田もいた。

 どうやら3人とも、携帯ゲーム機で遊んでいるようだ。

「そこ!横に回り込んでくれ!」

「ちょっ、少し回復させて!」

「よし!そこだ!」


 とりあえず、きりの良い場面まで待つ事にした。

 すると、程なくして終わったようだ。

「よし!」

「きゃあ~~!」

「狩ったど~~~!」

 それぞれが声を上げていたのだ。


 そろそろ声をかけようかな。

「少しいいかな?」

 僕はそう言うと、

「ああ、待ってもらって悪いな」

 そう、本間君が答えてくれた。

「ううん、いいの。それより本間君。ちょっといいかな?」

 そう言う僕に、

「うん?ああ、良いけど・・・」

 本間君は答えながら、立ってこっちに来てくれた。


「どうしたんだ?」

 三井田がそんな事を言ってきたが、

「うん。ちょっとね」

 三井田じゃ分からないだろうし、そう答えておいた。

「ふ~ん・・・」

 そんな感じに答えた三井田が、ふいに訊ねてきた。

「な~、中山。お前って本間君の事をどう思っているんだ?」

「どうって?」

 そう問われたんだけど、分からないと首を傾げてみた。

「いや、だから、どう思っているんだ?」

「どうって言われても・・・」

 三井田は何を聞きたいんだろう?

「いや、お前と本間君が妙に息が合っている様に思えてな」


 三井田は何を言っているのだろうか?

「そりゃあ、相棒なんだから息が合ってないわけないと思うけど」

 僕の発言に本間君が頷いていた。


「いや~。何と言うか、本間君って、お前の理想に近いだろ?それなら憧れていないのかなって?」

 三井田は僕にそんな事を訪ねてきた。


 そう言われれば、本間君ってイケメンって程じゃないけど、かなり整った顔立ちしているし、槍を持たせればチート並みに強いし、ゲームもかなり上手だし、勉強の成績もそんなに悪くないようだし、男女問わずに気兼ね無く話しかけられて、臆する事なく接する事が出来るし、男時代の僕にとっては、かなり理想に近いよな?

 そう言う意味なら確かに、

「うん。確かに憧れている、かなぁ?」


 そう言った瞬間、

「きゃあ~~~!」

 広花ちゃんが黄色い声を出してきた。

「え?うそ?ホントに?」

 何か凄いテンション上っていた。


「私とした事が知らなかったわ!英奈さんがそうだったなんて!でも・・・、でも・・・、きゃあ~~~!」

 広花ちゃんが顔を赤らめて、左右の手を組み合わせながら、僕と本間君に熱い視線を送っていた。


「あ!」

 やられた!

 三井田はこうなる事を見越して、僕に聞いてきたんだ!

 ちょっと考えれば気付けたのに、何で気付けなかったかな!

 くそっ!

 

「ひ、広花ちゃん!べ、別に広花ちゃんの思っている様な事じゃないからね!」

 僕は急いで広花ちゃんにそう言ったんだけど、

「英奈さん!もう、誤魔化さなくてもいいですよ~!」

「そうじゃなくって~!」

「もう大丈夫です!今まで気づかなくて御免なさい!」

 全然大丈夫じゃな~い!

「それ、勘違いだからね!別に本間君の事なんて好きじゃないからね!」

「そんな、今更恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか~!」


 駄目だ!

 全く言葉が通じない!

 恨めし気に三井田を睨むと、親指を立ててウインクしてきた。

「・・・・・・・・・・」

 ・・・こいつ!ぶちのめす!!


 とりあえず、広花ちゃんの誤解を解かないと!

「広花ちゃん。私は本間君の事は何とも思っていないからね!」

 僕はちゃんと説明しようとしたんだけど、

「でも、今しがた英奈さんは、本間さんの事を、理想の男の人だって言っていたじゃないですか!」

「だから、それは・・・」

「それに憧れているって、ちゃんと言っていたじゃないですか~!」

 広花ちゃんが、瞳をキラキラと輝かせながら、そんな事を言ってくる。

「意味が違~う!」


 僕が広花ちゃんの説得に四苦八苦していると、三井田が割り込んできた。

「そうそう。この間のハイブ永岡の時なんだけど、中山が御霊に追い詰められていた時に、中山!って叫び声が聞こえてきたんだよ。そうしたら、本間君が颯爽と現れて、中山を抱き抱えながら御霊に槍を向けていたんだよな~」

 ニヤニヤとしながら、そんな事を言ってきた。


「きゃあ~~~!」

 それを聞いた広花ちゃんが、顔を真っ赤にしながら自分の頬を押さえていた。

「そ、それで、どうなったんですか?」

 広花ちゃんが鼻息も荒く、三井田に続きを促していた。

 三井田は広花ちゃんの態度に気分が良くなったようだ。

「本間君が、抱き抱えた中山を安全な所で下ろし、庇うかのように、1人で御霊に立ち向かっていったんだよ」

「うわ~~~!」

 広花ちゃんはまるで茹でダコのように顔を赤くしていた。

「三井田!」

 いくらなんでも、話を盛り過ぎだ!


 話を聞いている広花ちゃんは、頭まで血が登って、まるで今にも倒れそうだよ。

「ちょ、ちょっと、広花ちゃん大丈夫?」

 流石に心配になって、そう訊ねると、

「だ、だから、英奈さんは本間さんの事を、白馬の王子様のように想って、慕っているんですね!」

 ちょっと待って!

「ちょっと!何時の間にか憧れているから、慕っているに変わっているよ!」

 僕はそう指摘したんだけど、

「いいな~!私にも王子様が現れないかな~!」

 そんな事を言っていた。

 駄目だ!どうしたら分かってくれるんだろう・・・。



 僕が溜息をついていると、

「英奈さん!それで、どこまで行ったんですか?」

 広花ちゃんがそんな事を言ってきた。

「うん?何の事?」

 何を言っているのか分からなかったから、そう聞いたんだけど、


「え~、何言っているんですか?」

 広花ちゃんはそう言うと、少し黙ったかと思うと、

「・・・Aですか?それともB?・・・、ま、まさかCだとか?」

 待て待て待て!

「ちょっと待って!何でABCなんて知っているの?それって、もう死語でしょ?」

 そう言うと、

「いや~。中山は奥手だし、本間君はその辺は慎重っぽいから、Cは無いだろ?」

 また三井田が言ってきた。


 ・・・またお前か?


「あのな~。俺達はそんな関係じゃないんだから、そんな事はしていないぞ」

 本間君が口を挟んできた。

 見ると、こめかみを押さえながら、溜息をついていた。

「そうそう!」

 僕は本間君の言葉に頷きながら同調した。


「じゃ、じゃあ、今までの事は嘘なんですか?」

 広花ちゃんがそんな事を訪ねてきた。

「いや、嘘ってわけじゃないけどさ・・・」

 本間君がそう答えると、

「じゃあ、今までの事は本当の事なんですね?」

 広花ちゃんは本間君の答えに、満面の笑みを浮かべていた。

「いや、でも本当って事でもないんだけど・・・」

 僕がそう言うと、


「またまたまた~!」

 広花ちゃんは左手を赤くなった頬に当て、右手で僕の肩を叩いてきた。

「もう、2人とも、隠さなくてもいいのに~」

 駄目だ!

 話が通じない!

 これは、この場は諦めて、時間を開けた方がいいのかもしれないな。

 そう思ったので、


「本間君。こんな2人は放っていこう!」

「お、おい!」

 本間君の腕を取って居間を出ようとした。

 そうしたら、


「いや~ん!2人が手を繋いでいるわ!」

 広花ちゃんが両手で頬を押さえながら、嫌々をするように顔を振っていた。

「これは2人きりで告白しようとしているのかな?」

 そんな事を、三井田が広花ちゃんに吹き込むと、

「きゃあ~~~!」

 恋愛脳女子が悶えていた。

 ・・・三井田!今度の戦闘訓練で潰す!




 後に三井田を全身打撲にしようとした所を皆に止められたよ。ちっ!



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