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霊器の想起  作者: 甘酒
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第31話

「ま、待った!」

 三井田は尻餅をついた状態で、左手を僕に向けて、そう言ってきた。

「ふう・・・」

 僕は息をつくと構えていた竹刀を下ろした。


 今、僕達は市内の市営体育館で、戦闘を想定した訓練をしてきた。

 僕は一応、武術を習っていたが、三井田は今まで武術も格闘技もやった事ないから、まず身体の基本的な動かし方を覚えてもらおうとしているのだ。


 と言う事で、戦闘訓練を行なう事によって、戦闘経験を重ねると同時に身体を鍛えさせようと言う話になったので、いきなりこうなったのだ。


「つ、疲れた・・・」

 三井田は尻餅をついたまま、そんな事を言い出した。

「三井田。だらしないよ。ほら、立って立って!」

 そんな三井田に、僕は訓練の続きを促す。

「そうは言うがな~。俺は学校を卒業してから、殆ど運動をしていなかったんだよ」

 そう言って、立ち上がろうとしない。

「もう、仕方ないな~。じゃあ、少し休憩にする?」

 僕は嘆息しながら、そう言った。

「やったね!」

 そんな事を言って、黒地に緑のラインの入ったジャージ姿のまま、大の字になったよ。


 ふと周りを見てみると、他の皆もこっちに近づいてくるのが見えた。

 どうやら、皆も休憩をするつもりらしい。

「もう、しょうがないな~」

 そう言って、持ってきたバッグからタッパーを出して、蓋を開ける。


 タッパーの中には、レモンのハチミツ漬けが入っているのだ。

 訓練中には出来るだけ持ってくるようにしているのだ。

「はい!これでも食べてね」

 そう言って、ハチミツ漬けを三井田の前に出す。

「お~!サンキュー!」

 三井田は喜びながらハチミツ漬けを食べだした。


「英奈ちゃん。私のは~?」

「私には~?」

 吉川さんと広花ちゃんも顔を覗かせながら、言ってきた。

「もちろん有りますよ~」

 僕はそう言いながら、2人の分も取り出す。


「中山、俺の分は?」

 本間君がそんな様子を見ながら、僕に聞いてきた。

「もちろん、用意してあるわよ」

 そう言って、バッグの中から別のタッパーを出して、それを本間君に手渡す。


「わよ?」

 不思議そうな感じに、三井田がそう言ってきた。

 その途端、僕は顔が熱くなる。

 三井田の言葉で、やっぱり恥ずかしくなる。

 やっぱり、男時代から一緒に遊んでいた友達に女言葉を聞かれるのは恥ずかしいよ。


「し、仕方ないじゃない!」

 思わず、三井田にそう叫んでいた。

「ないじゃない?」

 三井田は、またそう言ってきた。

 その言葉に、更に顔が熱くなっていく。

「うぅぅぅ・・・・・・」

 あまりに熱くなってしまった頬を、両掌で押さえてしまう。

 横目で三井田を見ると、ニヤニヤしながら僕を見ている姿が見える。


 こいつ!


 僕が恥ずかしがっているのを分かってて面白がっているな!

「三井田!ワザとでしょ!」

 僕は睨んでそう言うのだが、

「何の事だ?俺は何も言ってないぞ」

 ニヤニヤした顔でそう言う。

 まったく、憎たらしい!


「中山」

 そんな事を思っていたら、三井田が話しかけてきた。

「・・・何?」

 僕は警戒しながらそう言うと、

「何を言葉少なくなっているんだよ」

 何をいけしゃあしゃあと言っているんだか!

「お前が人を面白がっているからだろ!」

 僕は思わず感情のままに、そう言っていた。


「英奈ちゃん!」

 後ろから、僕を呼ぶ声が聞こえた。


ビクッ!


 僕は一瞬、膠着してしまった。

 そして、恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る。

 そこには、笑顔を浮かべた吉川さんがいた。

「よ、吉川さん・・・」

 吉川さんの笑顔が怖いよ。

 め、目が笑っていないよ。


「な、何ですか?」

「英奈ちゃん。今、男言葉を使っていたでしょ」

 僕は、赤くなった顔から血の気が引き、一気に青くなってしまった。

「あ、あの、それは・・・」

「それは?」

 な、何とか繕わなくちゃ!

 ま、まだ挽回できるはずだ!


「ほ、ほら、最近の女の子は、こういう言い方だってするじゃないですか?」

 こ、これでどうかな?

「ふ~ん。そう・・・」

 ひ、ひぃぃぃ!

 し、視線に冷たいものを感じるよ~!


 思わず、後ずさりそうになる。

 よ、よし!ここは可愛く振る舞っておこう!

 そう思って、首を軽く斜めに傾ける。

 上手くすれば、躱せないかな?


「英奈ちゃん!」

「は、はい!」

 僕は姿勢を正してしまう。

「私は英奈ちゃんに、そんな女の子になって欲しくないのよ」

「は、はい!」

「だから、私としては悲しいんだけど、お仕置きをしなくちゃならないわね」


 背中を冷や汗が流れ落ちていくのを感じてしまった。

 僕は両手を組み合わせながら、顔をフルフルと横に振る。

「や、いや!わ、私は大丈夫ですから、そんなのは必要ないですよ」

 三井田が腹を抱えて、苦しそうに笑っているけど、放っておく。

 もはや、なけなしの男としての自尊心を守る為なら、そんなのには構っている余裕は無い!!

「そうそう!中山はスカートとかスパッツとか、服装からして女の子らしいんだからな!」

 三井田は、そんな僕を凄く面白そうに僕の服装の事を言ってくる。

「うぅぅぅ・・・」

 今の僕の服装は、戦闘時を想定して訓練では必ず着ている、紺色のTシャツと迷彩柄のスカートにスパッツ姿である。

 ・・・こんな時までからかわなくてもいいのに。


「ねぇ、英奈ちゃん。これから私とお話しましょ!」

 そう言って、吉川さんがにじり寄ってくる。

「あ、あの・・・」

 僕は座ったまま、後ずさる。


 ど、どうする?

 な、何とか回避するには?

 そう思っている時、腹を抱えて笑っている三井田が視界に入った。


 そ、そうだ!!


「三井田!訓練を再開しよう!!」

 そう言って、立ち上がる。

「え?」

 三井田はそう言って呆気にとられていた。

「ほら、立って!」

「い、いや。ほら、まだ休んだばかりだし・・・」

「そんだけ笑い転げられるんだから、十分に回復したでしょ!」


 今度は三井田が僕から後ずさりだした。

 でも、僕自身を守る為にも、逃がすか!

「で、でも、まだ皆が休んでいるんだし・・・」

「三井田は、皆より弱いんだから、皆より頑張らないといけないのよ!」

 三井田は顔を引き攣らせているけど、構わない!

「だ、だけどな・・・」

「そんなに言うなら、竹刀から木刀にする?」

「え?」


 呆気にとられている三井田にかまわず、

「三井田が皆と同じ位の腕前なら、木刀を持った私の攻撃位は防げるわよ」

「ちょ、ちょっと!」

 慌てているけど、僕は知らない!

「さあ!大丈夫と言うなら、今すぐそれを証明してみてよ!」

 そう言って、バッグの横に置いておいた木刀を手に取り、1本を三井田に渡す。

「だ、だけどな・・・」

「三井田なら大丈夫だから!さ!やりましょ!」

 嫌がる素振りを見せている三井田の腕を取って、立たせる。


「お、おい!無理にやらせる事は無いんじゃないのか?」

 流石に見かねたのか、本間君が声をかけてきた。

「大丈夫よ!私達が学生の頃は、これ位で休憩を取っていなかったんだから!」

 満面の笑みを浮かべて本間君に返す。

「そ、それって、スパルタなんじゃないか?」

 恐る恐るといった感じで本間君が聞いてきたけど、

「そうだけど?」

 僕は、極当たり前に答える。


「だ、大丈夫なのか?」

 そんな事を聞いてきたけど、

「大丈夫よ!私達が学生の頃はこれが当たり前だったんだから!ね?三井田」

 そう言って、三井田に話を振る。

「あ、ああ!」

 三井田が頷いた。

 よし、言質を取ったぞ!


「ほら、ね!」

 そう言って、本間君に笑いかける。

「さあ!三井田!訓練の再開だよ!」

 顔が引き攣っている三井田を連れて、訓練を始める事が出来た。

 よし!吉川さんから逃れる事が出来たぞ!

「じゃあ、いくね!」

「ま、待て待て待て~!」




 訓練によって、吉川さんから逃れられた僕は、一生懸命に木刀を振るい続けた。

 相手をしていた三井田は、打撲&筋肉痛になっていたけど、僕のせいじゃないよね?



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