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霊器の想起  作者: 甘酒
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第2話

今回は、第2話と第3話を纏めて書こうか、分割して書こうか悩んだのですが、取りあえず分割で投稿してみました。その為、かなり短くなりました。

 周りからは、苦悶と苦痛の声が聞こえてくる。

 私は今、お屋敷の中を進んでいる。

 お屋敷にある物見から見える景色は、沢山の人や馬の死体が平野一面を埋め尽くさんばかりに拡がっている。

 それが視界に入ると、思わず泣いてしまいそうになる。泣かないように頑張っても、眼に涙が溢れそうになる。


 どうして、こんな事になったのだろう?

 私達が何かしたのだろうか?


 今の世の中、大きな藩はお互いに覇を争い、私達みたいな小さな藩は、大きな藩に付き従うか、他の藩と同盟を結び協力しながら生き永らえるしかない。

 そうしなければ、大きな藩に飲み込まれて滅びるしかない。


 それでも、物事は上手くいかない事もよくある。

 例えば、今現在の状況がそう。

 私達の藩は、周囲の藩と同盟を結んで、他藩に対する牽制にしていた。しかし、同盟を結んでいた藩が、突然、攻めてきた。

 甘いと言われるだろうけど、同盟を結んだ藩から、攻められるとは思っていなかった為に対応が遅れた。

 しかも、現在は色んな物が足りない。

 初撃に対応しきれなかった為に、多数の人が失われた。

 その上、失われた人以上の怪我人が発生したのに、治療に必要な薬や包帯が足りない。

 次の襲撃を押し返す兵の人数も足りないし、兵の使う武器も沢山失われて、足りていない。

 私の持っている武器も、薙刀が無かったものだから、刀身の折れた長巻と、柄の割れた刀を利用して、間に合わせの物を用意するしか無かった。

 他の藩からの救援が来ない今、おそらく私達の藩は滅びるだろう。

 けれども、それでも絶望して、ただ死を待つだけというわけにはいかない。

 その為に私は頑張っているのだから。


 私は呼び出しを受けて、奥方様のいるお部屋にいる。

 この戦で、私達が負けるだろう事は、おそらく皆、気付いているとは思う。

 それでも、何もしないなんて事は私達には出来ないし、しなければならない事はいくらでもある。

 今、私達が言いつかった事も、その一つである。

 お館様が出陣して、敵勢に攻め込んでいく隙に、奥方様と和子様を、お屋敷から脱出させて、奥方様の御実家にお届けし、お二人の安全を図るというものだ。

 奥方様達は私達が守らなきゃ。

 守らなきゃ。




_______________________________________________________________________




 微睡んでいた意識が浮き上がってきて、僕は目が覚めた。

 僕が最初に目にしたのは、見覚えのない部屋の天井だった。

 ここはどこだろう?

「目が覚めたの?」

 声をかけてきた方に視線を向けると、そこには、ベッドの横に置いた椅子に座って、不安そうな顔をして、こちらを見ている母親がいた。

「母さん」

 そう呼んだ僕の声は、妙に高かった。何か調子が悪いのかな?

 母さんは、困った様な顔を浮かべて、僕を見ていた。

「母さん、ここは?」

 何か複雑そうな顔をして、何か喋り辛そうにしていたが、母さんは、意を決したように話しかけてきた。

「・・・あなたは、本当に英樹なの?」

「・・・は?」

 僕は、母さんの言っている言葉に上手く反応できなかった。

「母さん。何を言っているの?」

 そう言って、上掛け布団から手を出した時、思わず動きを止めてしまった。

 パジャマの袖が捲れて、自分の腕が見えたのだが、見慣れた自分の腕では無かったからだ。

 実は、僕の腕や脚は、少し毛深かったのだ。

 だけど、そこに見えたのは、体毛の殆どない、しかも、今までの自分の腕よりも一回り以上も細い腕だった。

「え?」

 母さんは、驚いている僕の横にある机から鏡を持ち、僕に手渡す。

 思わず受け取った鏡で、何気なく顔を見た。

 僕は、息を飲んだ。

 そこに映っていたのは、僕の顔では無かったからだ。

 鏡に映っていた顔は、男には思えない小さな丸顔。整った顔立ちにぱっちりした二重の瞼に、長めなまつ毛、艶のある小さな唇。

 どう見ても40代の男の顔ではなく、まるで10代半ば位の女の子の顔に見える。

 変わったのは、顔だけではない。

 短かった髪の毛が、肩の位置より長くなっていた。

 白髪が少し混じってきた髪の毛ではなく、若い時にあった艶のある黒々とした髪の毛である。

「・・・何これ?何で女の子みたいな顔になっているの?」

 母さんは、そんな僕を見て溜息をついた。

「顔だけじゃないわよ。自分の身体も見てみなさい」

 僕は言われたように、パジャマの首元を引っ張って、胸元を見た。


・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。


 僕の胸には、男にはない膨らみがあった。

 触ってみると、凄く柔らかい。

 何でこんな膨らみが、男の僕にあるんだ!?

 現実的じゃないけど、漫画等でたまにあるアレが頭に浮かんでしまった。

 まさかと思い、自分の股間に手を触れてみる。


・・・無かった。


 今まで有った物が無くなったのを認識すると、股間が何か妙に心許なかった。

「・・・・・・」

 えっと、つまり、今の僕は男ではなくて・・・

 何を言っていいのか分からないまま、母さんの顔を見る。

「分かったと思うけど、今のアンタの姿はどう見ても私の息子に見えないのよ」

 母さんは、また溜息をついた。

「・・・だよね」

 苦笑しながら、それ以外の言葉が出てこなかった。

 僕が思春期とかの年齢だったら、パニクって色々と騒ぎ出す所なんだろうけど、良くも悪くも経験を積んだ40代なんだよなぁ。

 確かに、分からない事が多くて、多少は混乱してはいるのだけど、騒ぎ出さずに、少しは落ち着いていられる。

「アンタは息子には見えないけれど、お医者様が言うには、私の子供なのは確かだと言っていたわ。でも、どうしても信じられないのよ」

「だよなぁ」

 そうだよね。僕が母さんの立場だったとしても、簡単には信じられないよな。


 それから僕は、自分の事について、色々と母さんと話しあった。

 最初は、自分のプロフィールや家族構成等、それから、家族や自分しか知らない事を話していった。

 そうする内に、母さんも一応、僕の事を信じてくれてきていた。

 もちろん、武者と戦った事とかは黙っていた。

 あんな現実離れした事を信じてもらえるとは思わなかったし、何より、傷だらけになったとはいえ、自分自身がよく分かっていなかったからだ。


 母さんと以前あった食事作りでは、この時の料理は美味しかっただの、あの時の料理は失敗した物をムリヤリ手直しして夕飯に出しただのと、笑いあっていた。

 そしたら、不意に母さんの目から涙が落ち、泣き出した。

「何でアンタがこんな目にあうんだろう。アンタは不器用だけど、人様に迷惑をかけたわけでも無いのに、結婚は出来ないし、彼女も出来ないばかりか、こんな姿になっちゃって、可哀相だよ」

「う・・・」

 母さん自身の言葉が、心臓に突き刺さってダメージを受けたのだが、反論できないし、心配してくれているのは分かるから、少し顔を引き攣らせながら、文句は我慢する。

 子供の頃は、あんなに逞しく感じていた母さんだが、最近は小さく感じてきて、それが少し悲しくなった。

 僕は母さんの頭に手を乗せて、ナデナデする。

「でも母さん、モノは考えようだよ。ほら、子供の頃に、叔父さんからよく言われていたよね。僕は性格的に、性別を間違えて生まれてきたんだって」

 当時は女っぽいって事は、冷やかされる対象だったから、男っぽくする事に一生懸命になっていたっけ。

「そういえば、そんな事もあったわね」

「だから、本来の性別に戻ったって事にすれば、丁度いいんじゃないかな?」

 僕は少し悪戯っぽく笑った。

 母さんは僕の言葉に目を丸くして、驚いていた。



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