第28話
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皆さん。読んでくれてホントに有り難うございます。
「どうぞごゆっくり見て行ってください」
僕は目の前から歩いていく人を、頭を下げながら見送り、そう言った。
「はぁ・・・」
三井田が2階に行くのを見送った後、警備を続行しようとしたんだけど、思う様にそれは出来なかった。
あれからも、色んな人が目的地を聞いてくるのだ。
・・・僕は言いたい!!
人に聞く前に、ちゃんとパンフレットの案内図を確認してから聞いてくれ!!
お陰でちゃんと警備が出来ないんだよ~~~!
なんで安直に人に聞こうとするんだ~~~!
表面上は優しい笑顔を浮かべながら、内心では絶叫していた。
ちなみに、さっき見かけた時は、本間君は小さな男の子や、若い女の子に人気だったようだ。
やっぱり鎧兜姿だったから、かっこいいと思われたのかな?
あ~あ、鼻の下伸ばして警備が疎かになっているみたいだよ。
「連絡連絡!アレが出たよ!」
耳に嵌めていたイヤホンから、広花ちゃんの声が聞こえてきた。
「広花ちゃん。場所は何処?」
イヤホンからは吉川さんの質問の声は聞こえた。
「1階です。と言うか、会場裏ですね。多分、来場者の人はまだ気付いていないと思いますよ」
「そう、何体いるの?・・・」
「3体ですね。何か居るだけで、特に動きを見せてはいないですよ」
広花ちゃんの言葉を聞いていた吉川さんは、少し考えた後、
「広花ちゃん。悪いんだけど、1人で対応出来るかしら?」
ちょっ・・・
「吉川さん!それは危険なんじゃ?」
僕は思わず声を挟んでしまった。
「中山、少し落ち着け」
本間君が、僕を諭すような声が聞こえた。
「本間君。でも・・・」
「落ち着け!何か不自然なんだよ。多分、吉川さんも同じ事を考えていたんだと思うんだが・・・」
そんな事を言ってきた。
「ええ!私もそう思ったわ」
そうなの?
「そうなんですか?」
僕はつい、そう聞いてしまったよ。
「ええ!御霊が発生するにしては、場所が気になるわ。もし発生するにしても、位置が中途半端な気がするのよ」
「・・・・・・・・・」
僕は何も言えなかった。
それを納得したと思ったのか、話を続けている。
「それで、広花ちゃん。お願いしてもいい?」
吉川さんの言葉に、
「はい!楽勝です!」
「本間君と英奈ちゃんは、館内の警備を強化していて。きっと何かあるかもしれないと思うし・・・」
「了解!」
本間君は吉川さんの指示に返答する。
「わかりました!」
僕も同じく返事をする。
広花ちゃんが会場裏に向かって、走って行った。
「ねぇ、広花ちゃん。大丈夫かな?」
僕は、隣にいる本間君にそんな事を言ってしまった。
「心配か?」
「うん」
御霊が3体いるのに1人で戦わせるなんて、
「大丈夫だよ。あいつは強いからな」
本間君はそう言った。
「うん。そうだね・・・」
そうなんだよね。広花ちゃんは僕と違って強いから、僕が気に掛けるなんて、おこがましいよね。
「お前な。変な事を考えていないか?」
本間君がそんな事を言ってきた。
「え?変な事って?」
「お前が何か落ち込んだ様な顔をしていたからな」
え?顔に出ていた?
「そう?そんな顔をしていた?」
「ああ!どうせ見当違いな事でも考えていたんだろ?」
見当違いとは失礼な!
「そんな事ないよ。広花ちゃんは強いから、皆に信頼されているなって思っていただけなんだから」
僕は正直に答えた。
「やっぱりか!」
本間君が額に手を当てて、溜息をついていた。
「やっぱりって?」
そんな風に訊ねてしまう。
「どうせ、自分は弱いからって、言葉が入っているんだろ?」
本間君が僕の顔を睨むように見てきた。
「う、うん」
だから、素直に肯いたよ。
バチン!
「いたぁ!」
僕は額を押さえて、叫んでしまった。
そして、僕の額にダメージを与えた主を睨んでしまう。
「それが見当違いだって言っているんだよ」
デコピンをした指を突き出したまま、本間君がそう言ってきた。
「それがって?」
痛みに涙目になりながら、僕は本間君を睨み続けた。
「お前は自分が弱いとか考えているようだが、そんな事は無いぞ」
本間君は、呆れたような顔をして、僕の顔を見ていた。
「でも、私が弱い事は変わりないじゃない・・・」
呆れた顔で見られる事に納得いかないけど、そう返した。
「はぁぁぁ・・・・・・」
盛大に溜息をつかれてしまった。
それ、ちょっと傷ついたんだけど。
「それに、私は皆の役に立ってないし・・・」
・・・何で本間君は額に手を押さえているの?
「思っていたより重症みたいだな・・・」
何か失礼な事を言われた気がする・・・。
「重症って・・・」
「だってそうだろ?」
「そんな事ないよ」
思わず力いっぱい反論してしまった。
「駄目だこりゃ!」
「駄目だって何よ!」
つい、ムキになって、突っかかってしまう。
本間君は、そんな僕の頭を掌で押さえる。
「へっ?」
呆気にとられた僕は、そんな変な声を出してしまった。
そうしたら、本間君はそのまま、手をワシャワシャと動かしてきた。
「わっ?わっ?ちょ、ちょっと!髪が、髪が乱れる!」
そんな風に慌てていると、やっと手を離してくれた。
「ひ、酷いよ!いきなり何するの?」
僕は慌てて髪の毛を手櫛で直しながら、文句を言ってしまった。
そうしたら、本間君は満足したような顔をしだした。
「よし!直ったな!」
何を言っているの?
「何を訳のわからない事を言っているの?」
と、僕が聞くと、
「いや、お前が少し落ち込んでいるようだったからな」
「それで、私の髪の毛をこんなにしたの?」
そう言いながら、髪の毛を本間君に見せる。
「だけど、これで少しは心が楽になっただろ?」
「・・・・・・・・・」
反論できなかった。
確かにいつの間にか落ち込んでいたのかもしれない・・・。
さっきとは違って、気分が上向いているのが実感できていた。
それでも、この扱いに何か納得したくないような気がする。
でも、僕の為にしてくれたんだし・・・、
「本間君。その、・・・アリガト」
なんとなく素直に感謝したくないような気がしたので、こんな言い方になってしまった。
「ま。これで警備に集中できるだろ?」
そう言って、僕の頭をポンポンと軽く叩いた。
「むぅ・・・」
・・・何だこの扱い。
まるで年下に対する扱いじゃないか?
「むっ、それじゃあ、警備に戻るね!」
少し強い口調でそう言って、歩き出そうとした時だった。
「きゃ~~~!」
「うわ~~~!」
奥の方から悲鳴が聞こえた。
僕と本間君は同時に悲鳴が聞こえた方向に向き直る。
「行くぞ!」
「うん!」
そう言って、直ぐに走り出した。
そこでは、異様な光景が見えていた。
壁際に台が設置してあり、そこには色々な展示物が置かれてあった。
その展示物の中に、刀があったのだが、その一振りが展示台のガラスを割り破り、宙に浮いていたのだ。
「なにあれ?」
思わずそんな事を、僕は呟いていた。
僕がそんな一言呟いている間も、変化はまだ続いていた。
その刀は、柄も鍔も無い抜き身の状態だったのだが、刀から黒い煙が立ち昇りだした。
そして、その煙は持ち手の部分を覆う様に動いたかと思ったら、そのまま固定されたかの様に留まり、柄と鍔の様になったのだ。
さらに、その柄から一条の煙が伸び出していた。
煙は徐々にその量を増し、まるで人の形を模してきたのだった。
そう、煙は御霊になっていったのだ。
「中山!俺が対応する。お前は誘導を頼む!」
「うん。分かった!」
本間君の言葉に返事をしている間にも、異常は進行していた。
刀のあった所とは違う展示台からも、展示物が浮遊していたのだ。
右手の方にあった台からは、刃が十字状になっている十文字槍が浮かび上がり、そこからも黒い煙が立ち昇っていた。
そして、その煙も人型を形作っていった。
さらに、左手の展示台の上には、通常より刀身が長い大太刀が浮かび上がっていた。
その大太刀からも煙が立ち昇っていた。
それも人の形になるのだが、それだけではなく、身体の各部には鎧のような部分が形作られていった。
その光景を目撃した、何人かの入場者が悲鳴を上げていた。
「ちっ!」
本間君は、舌打ち1つ打ちながら、正面の刀を構え出した御霊に向かって、駆け出していった。
「吉川さん!中山です。3階にも御霊が3体発生しました。本間君が対応します」
僕は、服に取り付けてあるマイクに喋ると、吉川さんの返事も待たずに、展示室内に声を上げる。
「皆さん。早くこちらに来てください!」
僕は階段の手前に来て、殺到しようとしている人に声をかけていた。
「慌てないで下さい。まだ安全なので、慌てないで落ち着いて階段を下りてください!」
この展示室にいた人達は、僕の声など聞こえてないのだろう。
皆が慌てて、まるで階段を走るかの様に降りていっている。
「わっ!?」
中には、急いでいるあまり、僕にぶつかってくる人までいるよ。
ぶつかけられたけど、何とか転倒する事は免れたよ。
そんな中、その場で立ち尽くしている人や、腰を抜かしている人が見えたので、そちらに向かって行く事にした。
そして、その場で動こうとしていなかった女の人の目の前に辿り着いた。
「大丈夫ですか?階段はあっちになります。避難をお願いします」
僕は、悲鳴を上げている女の人の近くまで寄ると、階段の方向を指差しながら、そう言って歩いていくように促す。
「え、ええ・・・」
女の人がフラフラとしながらも、歩いて行ったのを確認したので、今度は腰を抜かして尻餅をついていた男性の方に走り出した。
「大丈夫ですか?」
見ると、その男性は髪に薄らと白いものが出て来始めたような中年の人だった。
「あ、ああ・・・」
中年男性はノロノロとゆっくりではあるが、自力で立ち上がろうとしていた。
「立てますか?できるのなら、階段が向こうになるのですが、歩けますか?」
僕の言葉に男性は頷いてきた。
「大丈夫だ。君も早く非難しなさい」
そんな事を言ってくれたが、
「いえ、私はまだ他の人を誘導しますので、残ります」
「そうか、なら私は行くから・・・」
僕の言葉に、男性はそう答えると階段に向かって歩いて行った。
それから、避難誘導しながら、本間君の方を見ると、まだ何体かの御霊と戦っていた。
よく見ると床のあちこちには、刀やら槍やら、色んな道具が散乱していた。
どうやら、御霊は次々と現れているようだった。
だが、本間君の様子は焦っているようにも、疲労が溜まっているようには見えないから、多分、大丈夫なのだろう。
考えてみたら、本間君って普段と違って甲冑を身に着けているんだよね。
あれって、20キロ位の重さがあるって話だったけど、あれで問題無く動けているのが凄いよ。
さらに、槍捌きが凄いよ!
打ち合ったり、弾いたりしないで、殆ど躱したり、槍の回転を利用して逸らしたりしているのだ。
いくら御霊が手に持って振るっているとはいえ、展示物を出来る限り傷を付けないようにしているように見えるよ。
まさかとは思うけど、そんな事を考えているのかな?
「きゃ~~~!」
本間君の様子を確認していると、女の人の悲鳴が聞こえてきた。
僕は声の聞こえてきた方向に、顔を向けると、階段からその悲鳴が聞こえてきたようだった。
だから、急いで階段に向かって走り、見てみると、階下の2階でも人々が混乱している状況が見て取れた。
その混乱して逃げ惑う人々の中で、逃げる事も無く、他の人を出口に向かって誘導している人物が、視界に入ってきた。
そして、グルリと周りを見回していた黒い影が、逃げ惑う人々を見つけたように、そちらに歩み寄っていくのが見えたのだ。
その黒い影、つまり御霊が誘導している人に近づいているのが見えた。




