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霊器の想起  作者: 甘酒
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第24話

 僕達は今、ワンボックスカーの中にいる。

 山田さんから、緊急で黒焚城くろたきじょうの天守郭に急行する様に指示があったのだ。

 何でも、他のチームが行なっていた仕事だったのだが、そのチームからSOSがあったのだ。

 黒滝城とは、県の中央より北側にある野彦山やひこやまを城にした山城だ。


「なぁ、そろそろ、これを取ってもいいか?」

 そんな声が自動車の隅から聞こえた。

 そこには、目隠しをされた本間君が転がされていた。


 連絡があった時、広花ちゃんがいなくて、服や防具などを自動車に入れて発進したのだ。

 それから、広花ちゃんを拾ったのだ。

 その時に、少し悶着があったのだ。

 つまり・・・、


「男の人のいる所で着替えられるわけないじゃないですか!」

 と、広花ちゃんが主張したのだ。

 確かにそんな事はしたくはないだろうし、けど、緊急時に着替えの為に寄り道をするわけにはいかない。

 それならと、本間君を助手席に座らせて、前を向いていてもらおうとしたのだが、

「後ろを向いたり、ミラーで見るかもしれないじゃない!」

 と言ってきた。

「俺がそんな事をするわけないだろ!」

 と反論していたのだが、

「そんなの分からないわよ!」

 広花ちゃんに言われてしまったのだ。


 と言うわけで、本間君には申し訳ないんだけど、目隠しをして、自動車の隅にいてもらっているのだ。

 ・・・夕飯の時のおかずは、本間君の好物でも作ってあげよう。

 僕には、それ位の事でしか本間君を慰める事は出来ないしね。


「なぁ、もう取ってもいいか?」

「まだ駄目!」

 本間君の言葉を、広花ちゃんが遮った。

 見てみると、広花ちゃんはスカートを穿いている最中だった。

 それを身に着けたら、あとは防具を装備する位かな?


 ちなみに、広花ちゃんの恰好は、上は黒いパーカーを被り、下には赤地に茶色のチェック柄のミニスカート、そして、彼女はスパッツを穿いていた。

 やっぱり、ミニスカートの時に動きまくるのなら、スパッツは欠かせないよね。

 それを着た後は、やっぱり防刃チョッキを着ていた。


「もう良いですよ」

 広花ちゃんのお許しが出たので、本間君はやっと目隠しを外していた。

 そして転がされて、あちこち痛いのか、肩や腕を揉んでいた。


「本間君、お疲れ様」

 僕は、そんな本間君にお茶の入ったペットボトルを渡した。

「ああ、大変な目にあったよ・・・」

 その言葉に、僕は苦笑してしまった。

 だって、僕が男のままだったら、同じ目にあっていたんだろうなと思ったら、同情してしまったんだよね。


「英奈さん。私には~?」

 広花ちゃんもペットボトルを要求してきたので、

「はい!ここにあるわよ!」

 そう言って、広花ちゃんにもお茶の入っているペットボトルを手渡す。

「ありがと~!」

 そう言って、すぐに蓋を開けてお茶を飲みだした。

「ちょ、ちょっと!そんなに一気に飲んで大丈夫なの?」

 これから戦闘、つまり、激しい運動があると思うのに、大丈夫なのかな?

「大丈夫ですよ!この程度なら、全部、汗になって無くなりますよ」

 そんな感じに、あっけらかんと答えた。


「皆、そろそろ着くわよ」

 ワンボックスカーを運転していた吉川さんが、そう教えてくれた。

 外を見ると、確かに先程と景色が変わっていた。


 自動車の通行量は、見るからに減ってきていた。

 そして、道路は狭くなり、いかにもな田舎道といった感じになっている。

 さらには、道路に面した所の家は、ぽつりぽつりと間隔が開いてきていた。

 その代わりと言わんばかりに、畑や木々が視界に入ってきていた。

 そして、『黒焚城』という案内杭が道路脇に打ち付けてあるのが見えてきた。

 その案内杭を過ぎて、暫くすると林道に入ってきた。

 その狭い林道を通り、道なりに進んで行くと、駐車場が見えてきた。

「あそこに停めるわね」

「はい!」

「了解!」

「了解です!」

 僕達はそれぞれ返事をして、自分の霊器を用意しだした。


 僕は刀を手に取り、刃が鞘から抜けるかを確認し、それから、手甲や防刃ベストの具合を確認する。

 本間君は、防刃ベストを確認した後、槍を持つ。

 広花ちゃんはギターケースを手に取り、その蓋を開けた。

 その中には、広花ちゃんの霊器である斧が入っていた。

 そう、斧が入っているのだ。

 80センチ位の長さの棒状に、10センチ位の片刃の刃が付いている斧だ。

 戦斧バトルアックスみたいな武器ではない。

 そう、農家とかで薪を割る時に使う、普通の斧なのだ。


「広花ちゃん。え~と、ちょっと疑問なんだけど、何でギターケースに入れているの?」

 僕はついに、初めてそれを見た時から思っていた疑問を口に出していた。

「え~!だって、刀や槍と違って、斧なんて恰好悪いじゃないですか」

「そ、そう?」

「そう!だから、必要がない時は、こうして、ケースに閉まっているの!」

「そ、そうなんだ」

 広花ちゃんの、あまりの勢いに、少し引いてしまったよ。


 僕と広花ちゃんが会話している間に、ワンボックスカーは駐車場に入っていく。

 そして、スムーズに駐車スペースに入り込む。

 停まると同時に、本間君がドアを開け、武器の取り回しの良い僕が、すぐさま外に飛び出し、そのまま、周囲を警戒する。

 それに続いて広花ちゃんがワンボックスカーから出てきて、反対側に回り込み、警戒をはじめる。

 その後、長物を持っている本間君が出てくる。

 僕達3人が警戒している中、吉川さんが運転席から出てきて、その後、弓の状態を確認している。


「うん。私は大丈夫よ。皆はどう?」

 吉川さんが僕達に聞いてきた。

「俺は問題ない」

「私も大丈夫です」

「私もです」

 本間君と、僕、広花ちゃんはそう答えた。


「全員、問題ないなら、このまま進むぞ!」

 本間君がそう言った言葉に、僕達は頷く。

 全員が頷くのを確認すると、本間君が先導して、駐車場脇からの登山口を通っていく。



 登山口からの山道は、かなり狭くなっている。

 2人が並んで歩くのにも苦労しそうな程、幅が狭くなっているのだ。

 元々が山城だったから、人が一度に大量に入れないようにしていたのだろう。


 今、僕達は進んでいるこの此処は、黒焚城と呼ばれていた。

 城として使用しだしたのが、何時だったかは分からないけど、軍神と呼ばれた武将が、その名を轟かせるキッカケになった場所なのだ。

 つまり、武将が名前を轟かせる程の戦場になったのだから、かなりの人が戦死したのだろう。

 そんな場所だからこそ、御霊が発生するのは至極当たり前と思う。


 先頭を本間君が先導し、その横を広花ちゃんが続くようについていく。

 その後ろを吉川さんが進み、その横と言うか、殿しんがりを僕が受け持っている。


 この山道は階段状になっているのだが、家の中の階段と違っていて、非常に歩き辛い。

 さらに、今は急いでいるから、走っているのだ。

 気を付けていないと、足を踏み外しそうになる。

 だからと言って、慎重に走っていると皆に置いて行かれそうになるのだ。

「ちょ、ちょっと、走り辛いですね・・・」

「英奈ちゃん、大丈夫?少しペースを落とす?」

 吉川さんが気にかけてくれたが、そうもいかない。

「いえ、大丈夫です。SOSなんだから、現場に急いで行かないと!」

「そうだけど・・・」

「吉川さん、大丈夫ですよ」

「ええ」

 そう言って、吉川さんとの会話を一旦、終わらす。


 それから暫く進むと、突然、道が途切れる。

 そこまで走り、途切れた所を見てみると、途切れた距離は15メートル位、深さは10メートル位はあった。


 これは多分、堀切だ。

 戦国時代、侵入者が簡単に進む事が出来ないように、色々な仕掛けがしてあるのだ。

 堀切とは、そういう仕掛けの一つで、道を掘って侵入者を通さない様にする為のものなのだ。


「面倒だが、下りて行くしかないな」

 そう言って、本間君は下に下りて行った。

「ちょ、ちょっと待って!」

 広花ちゃんは、慌ててついて行った。

「しょうがない。吉川さん、行きましょう」

「そうね」

 僕と吉川さんは、2人に続いて下に降り、堀切の向こう側にまで行く。


 まず先に本間君が向こう側に上り、それに続くように広花ちゃんが上る。

 それから、吉川さんが本間君の手を借りて、上に上る。

「中山も、ほら!」

 そう言って、本間君が僕に手を差し出してくる。

「ありがとう!」

 僕はそう言いながら、本間君の手を掴んで、上に上る。

「よし、全員上がれたな」

 本間君がそう言って、僕達を見回す。

「・・・私には手を貸してくれなかった」

 広花ちゃんが、半眼でそう言ってきた。

「は?」

「私が上る時、本間さんは手を貸してくれなかった・・・」

 広花ちゃんが、そう言って、本間君を睨んでいた。

「山岸は1人でも登れる力があるだろ!」

 本間君がそう答えた。

「そうだけど、私だって女の子として扱ってほしいの!」

 拗ねたように、広花ちゃんは頬を膨らませた。

「おい!こんな時に何を言っているんだよ」

 本間君が呆れたような顔をしている。

「英奈さんは女の子扱いされて、いいですよね」

 広花ちゃんが、今度は僕の方に上目使いで見てきた。

「ま、まぁまぁ。今は急いでいるんだし、その話はその話はまた後でしましょ。ね?」

 その言葉に、広花ちゃんは頬を膨らませた。

「う~。・・・わかりました」

 広花ちゃんがそう言ってくれた。

 その言葉に僕は、ほっと息をついた。


 これで、また僕達はまた先を進む為に山道を登り始めた。

 それから暫くすると、進行方向の方に10人程の人影が見えてきた。

「ねぇ、あれ!」

「ああ!」

 僕が前方の事を言うと、本間君が返事を返してきた。

 人影に見えるが、その姿は漆黒に包まれていた。

 そう、予想通り、御霊だった。


 よく見ると、その人影は何人かは胴当てをしているように見える。

 そして2人程、ちゃんと甲冑一式を纏っているようにモノも見えた。


「中山は吉川さんの護衛を頼む!」

「ええ!」

 本間君が支持してくる。

「山岸!行くぞ!」

「はい!」

 そして、広花ちゃんにも声をかけた。

 広花ちゃんの返事で、本間君が飛び出す。

 それに合わせるように、広花ちゃんも飛び出す。


 2人の動きに反応するように、胴当てを付けている4人が駆けてきた。

「はっ!」

 本間君が気合と共に槍を一閃させる。

 その一撃が御霊の胸を貫く。

「たぁ!」

 その横で、広花ちゃんが斧を振り上げ、そのまま振り下ろす!

 斧は構えていた刀だけでなく、胴当てごと御霊を一刀両断し、その勢いのまま、地面を抉っていた。


「ひぇぇ・・・」

 その斧の威力を目にした僕は、思わず声を出してしまった。

 あまりの威力にビックリしたんだけど、それを繰り出した広花ちゃんの怪力にも驚いてしまった。


ヒュン!


 僕が驚いた瞬間を狙ったかのような瞬間、後方にいた御霊から、矢を射られる。

「ちょっ!・・・」

 僕は矢を刀で叩き落とす!


 あ、危なかった。

 身体が反射的に動いたから助かったけど、そうでなかったら、矢が刺さっていたよ。


 本間君と広花ちゃんは、振り下ろしたタイミングを狙ったように、もう2体の御霊に攻撃されていた。

 そして、その2体の相手をしている隙に、また矢が飛来する。

《守らなきゃ》

「くっ!」

 今度は吉川さんを狙っていた。

 僕の実力で、矢を防ぎ続ける事は難しいんだ。


「本間君!」

「分かっている!」

 僕の呼びかけに、本間君はすぐに意図を分かってくれたみたいだ!

 それでも、まずは目の前の御霊を片付けなければならない。

 本間君は、御霊の攻撃を捌きながら、反撃の隙を窺っている。

 広花ちゃんは、斧で攻撃を捌くのが大変だから、回避に専念しているようだった。


 僕の横にいた吉川さんが、弓に矢を番える。

 そして、弓を構えている御霊に矢を射る。

 その動きの隙をつくように、また矢が飛んできた。

《守らなきゃ》

「またっ!」

 僕はまた、吉川さんを狙っていた矢を弾く。


「英奈ちゃん!」

 弾く為に刀を振るった瞬間、横の茂みから御霊2体が飛び出してきた。

「ちっ!」

 その御霊の動きに対応する為に、振り下ろした刀を無理矢理に止め、身体だけでも相対する為に、腰を無理矢理に捻った。

 御霊の1体が刀を振り上げ、それを僕に振り下ろす。

 無理に止めた自分の刀を、力任せに引き戻して、御霊の攻撃を防ぐ。

 何とか鍔迫り合いの形に持っていったけど、体勢が悪い。

 体勢の為に、上手く力が出せない。


「くぅ・・・」

 御霊は鍔迫り合っている刀に体重をかけるように圧力が増してきた。

 このままだと、押し切られそうだ。

 そして、もう1体の御霊が、そんな僕に向かって槍を振るってきた。


「やっ!」

 やばっ!

 僕は槍の狙っている先、つまり、左の足首を跳ね上げて、それを躱す。

 でも、もともと無理な体勢をしていたのに、片足を上げてしまえば、姿勢を維持するのは至難である。

「あっ!?」

 僕は姿勢を崩してしまい、倒れそうになる。

「英奈ちゃん?」

 吉川さんの声を聞きながら、僕は勢いに逆らわずにその場に倒れる。

 その倒れる勢いを利用して後転するようにし、姿勢を直す。

 その時、姿勢を直す勢いのまま、御霊を牽制する為に刀を振るった。


 だが、牽制する為だった剣閃は、御霊の喉元を斬り裂いていた。

「あ!」

 喉元を斬られた御霊は、そのまま霧散していった。

 僕は御霊を斬った時に、また恐怖に襲われてしまった。

 この恐怖には、まだ慣れないし、克服も出来ていなかった。

 僕は余りの怖さに、身体を強張らせてしまった。

 この姿勢も、バランスも悪い時にだ。


「あああ!」

 体勢を直しきれなかった僕は、道の脇の斜面に足を滑らせてしまう。

「英奈ちゃん!」

「中山!?」

「英奈さん!?」

 3人の声を聞きながら、僕はそのまま斜面を転がるように、落ちていってしまった。



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