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霊器の想起  作者: 甘酒
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第22話

『それでは、次のニュースです。昨日の夕方、土地尾市にある土地尾山の入口にある神社の鳥居が崩れました。その時、参拝の為に来ていた3人の方が下敷きになり、犠牲になりました。』

『痛ましい事故ですね』

『はい。本当にそうですね』




 お風呂から上がって、タオルで頭を拭いながら居間に戻ると、テレビからは、アナウンサーのそんな声が聞こえたのだ。

 ニュースでは、昨日の夕方にあった事を報道していた。

 それを見ていた僕は、居間のソファーに座りながら、テレビを見ていた吉川さんに顔を向ける。

「吉川さん。これって、昨日のアレの事ですよね?」

「ええ、そうね。今回はこんな内容で発表したのね」

 吉川さんがそう言って、答えてくれた。


 僕達は、昨日まで三状市に行って、泊まり込みで石碑を警護していたのだ。

 そして、昨日の夜になった時、警護終了と帰投の指令があったのだ。

 もちろん、帰ると共に、お風呂に入ったよ。

 汗と土埃で汚れていたので、何度か身体を洗ったけど、身体を洗う事がこんなに気持ちいいなんて、あらためて思い知らされたよ。

 だから今も、暇だったし、お風呂に入って身体を洗ってきたのだ。



 ニュースでは、事故と言っていたけど、僕達はそうではない事を知っていた。

 昨日、帰投の指令と同時に知らされたのだけど、土地尾山の神社にも、他のチームが警護に就いていたらしい。

 そして、そのチームが全員死亡したと知らされたのだ。

 このタイミングで、不慮の事故で全員死亡だなんて信じられないし、僕達の所に御霊が現れたように、彼らの所にも現れたと考えた方が自然だと思う。

 でも、山田さんからは、現地に行かずに帰投するように言われてしまったのだ。


 一応、確認してくると言ったのだが、行かずに帰投するように命令されてしまった。

 それで仕方なく、帰ってきたというわけだ。


「ああ、中山。風呂から上がったのか」

 本間君が両手にそれぞれコップを持って、台所から来た所だった。

「うん」

「そっか、風呂上がりに何か飲むか?」

 持っていたコップの1つを吉川さんの前に置きながら、そういう風に言ってくれた。

「そうだね。何か冷たい物でも飲みたいな」

「わかった。持って来てやるよ」

 本間君がそんな事を言ってくれた。

「有り難う。お願いね」

 僕が感謝を言うと、本間君は台所に戻って行った。


 僕は髪の毛を拭っていたタオルを首に掛けて、吉川さんの隣に腰掛けた。

そうすると、すぐに本間君が戻ってきて、持ってきたコップを僕の前に置いてくれた。

「有り難う!」

その言葉を聞きながら、本間君は僕の前のソファーに腰掛ける。


「それで、2人は何を話していたんだ?」

 本間君がそう言ってきたから、

「テレビに昨日の事がニュースになっていたから、それについて、話をしていたの」

「ああ、アレかぁ~」

 本間君が得心がいったように言う。


「そういえば、テレビでは参拝者って事になっていたけど、やっぱりコレって、情報操作ってヤツなの?」

 僕は気になっていた事を2人に聞いてみた。

「ああ、そうだよ」

 本間君がそう答えてくれた。

「ふーん。やっぱりそうなんだ。でも、どうしてそんな事をするの?」

 一応、予測は出来るけど、聞いてみる。

「それはね、下手な事を一般人に知られたら、パニックになっちゃうしね」

 今度は、吉川さんがそう答えてくれた。

「でも、少しずつ国民に教えていく事で、それを防げないのかな?」

 僕の疑問に、吉川さんが首を傾げる。

「どうなのかしら?」

 頭を傾げる吉川さんの代わりに、本間君が言ってきた。

「無理じゃないかな」

「そう?」

 僕がそう言うと、本間君が答えた。

「だって、そうじゃないか?御霊なんてものがいるなんて、普通は信じないよ。それに、もしも信じたら、どうなるかを考えれば分かるさ」

「たとえば?」

「そうだな・・・。死んだ人が恨みを晴らす為に現れるだけでも騒ぎになると思うが、それが銃でも刃物でも、撃退する事も傷付ける事も出来ないなんて事を知ったら、人によっては恐怖によってパニックになると思うんだよ」


「そう言われればそうね」

 僕は本間君の言葉に納得してしまった。

「あ、でも、霊器の事を知れば、少しはマシになるんじゃないのかな?」

 これには、吉川さんが首を横に振った。

「霊器は数が少ないから、突発的な事態には対応できないし、下手に霊器の事を知ったら、歴史のある物、つまり、国宝や重要文化財とかを霊器と思って、それを盗んでも手に入れようとする人まで出てくるかもしれないでしょ」

 と、理由を教えてくれた。

「あ、そうか!」


ピンポーン


 2人と話をしていたら、玄関の呼び鈴が鳴った。

「あ、は~い」

 僕は声を出して返事をしながら、立ち上がった。

 そして、玄関に向かって歩きだした。


「どちら様ですか?」

 そう言いながら、玄関を開ける。

 そこには、10代半ば位の女の子が立っていた。


 活発そうな雰囲気を纏った顔立ちに、腰にまで届きそうな、少し明るい茶色をしたポニーテールを揺らしていた。

 着ているのは、オレンジ色のフード付きパーカーと、黒いミニのタイトスカートを穿いていて、動きやすそうなスニーカーを履いていた。


 この娘は誰なんだろう?何で、この家に何の用なんだろう?

 そうしたら、女の子は驚いたような声を出していた。

「あ、ああ!」

「?」

 玄関前にいる女の子は、驚いたように僕の顔を見ていた。

「やっと、やっと会えた!会えたわ!!」

 そう言って、いきなり僕に抱きついてきた。


「え?え~~~!?」

 いきなりの事で、僕は反応出来ずに膠着してしまった。

 そして膠着している僕に構わず、女の子は力いっぱい抱きついていた。

 ただし女の子だから、力いっぱい抱きついていても、その感触は柔らかかった。

女の子の象徴的な2つのお山が、しっかりと押しつけられている。


当たっている!当たっている!当たっているって~!


「あ、あの、何なんですか?貴女は?」

 思考が空回りしている僕は、やっとそれだけを言えた。

 そうしたら、その女の子は、やっと離れてくれたよ。


「英奈ちゃん。どうしたの?」

 そう言いながら、吉川さんが家の奥から出てきた。

「あ、あの、この人がいきなり抱きついてきたんですよ」

「なんですって?」

 吉川さんが緊張したような表情になって、こっちに走ってきた。

「誰よ?女の子に抱きつくような不届き者は~!?」

 玄関の扉に手を触れると同時にそんな事を言い出した。

 顔がちょっと怖いよ・・・。


「こんにちは。私は此方に来るように言われた山岸広花やまぎしひろかと言います。これからよろしくお願いします」

 女の子、いや、山岸さんは、そう言いながら深々と頭を下げていた。

 そして、山岸さんが頭を上げた時、胸がプルン!と揺れたのだった。


 ・・・大きかったな。


 僕は、さっきの感触を思い出しながら、そんな事を思ってしまった。


「あ~、そう言えば、誰か来るって言われていたわね」

 吉川さんが、そんな事を言い出した。

「何ですかそれ?私、そんな事聞いてないですよ」

 僕は吉川さんに聞いてみたんだけど、

「御免なさい。貴女達に言うのを忘れていたわ」

 ・・・忘れていたって。

 頭痛がしたような気がして、頭を押さえてしまったよ。


「じゃあ、とりあえず家に入れても良いんですか?」

「ええ、大丈夫よ」

「わかりました」

 僕はそう言って、左手を家の方に向けて、

「え~と、まぁ、ようこそ。さぁ、家に入ってね」




 山岸さんを居間まで案内した後、全員分のお茶を用意して、皆の前に出し、僕もその場に座った。

 それまで待っていたのか、やっと話が始まった。

「え~と、まずは初めまして、かな?今日から此処に配属する事になった。山岸と言います。これからお願いします」

 そういって、頭を下げてきた。

「ええ、私は吉川保美よ。一応、上との連絡役は私がやっているわ」

 吉川さんが微笑を浮かべて、優雅に挨拶をしていた。

 いつも、こんな感じにしていてくれたら、素敵なお姉様なんだけどなぁ~。

「俺は本間和也と言うんだ。困った事があったら、いくらでも、相談してくれよな」

 そう言って、スポーツマンらしい爽やかな笑顔をしていた。

「初めまして。私は中山英奈と言います。炊事とかをしているから、何か食べたい物があったら、教えてね」

 僕はそう自己紹介したんだ。

「炊事?料理できるんですか?」

「う、うん。そうだけど」

 そうしたら、山岸さんは瞳を輝かして言った。

「凄~い!男の人が料理するのって、私、初めて見るんですよ~!」

「・・・え?」

 今、何て言った?

 吉川さんが、少し緊張した表情をしながら訪ねていた。

「あの、山岸ちゃん。どうしてそのことを知っているの?」

 その言葉を受けて、山岸さんは合点がいったような顔をしていた。

「それはですね。中山さんが男から女になった時に、そこに居合わせたからなんですよ」

 え?それって、つまり・・・。


「え~?あの時の女の子なの?」

 僕は、つい声を上げてしまった。

「はい!あの時は助けて下さり、有り難う御座いました。お陰で生き延びられました!」

 山岸さんは笑顔で、僕に向かって、また頭を下げてきた。

「そうなんだ~。気が付かなくてゴメンね」

「いえいえ、あの時には暗かったんだから仕方ないですよ」

 そう言って、笑ってくれたけど、僕は何だか申し訳無くなってしまった。


「それならさ、山岸としては、男から女になった事はどういう風に感じているんだ?」

 それを聞いていた本間君が、そんな事を聞いてきた。

 そうだよな。もし気持ち悪いだなんて言われたらどうしよう。

「も、もしかして、気持ち悪いとか、変態だ!とか思うかな?」

 僕は、恐々としながら、その事を聞いてしまった。

 そうしたら、山岸さんは、笑顔を向けながら、

「そんな事は思っていませんよ~」

「・・・ホントに?」

 僕は、思わず上目使いになって、見てしまった。

「本当ですって、そもそも命の恩人をそんな風に思う程、ヒドイ人間じゃないつもりなんだから!」

 山岸さんは、そう断言してくれた。

 僕は、ひとまず安堵の息を吐いてしまった。


「そ、それなら、今の私はどう見えるのかな?」

 やっぱり、そこの所は気になるよね。

 ほら、元・男が女装していたり、女言葉を使っていたり、嫌な人は嫌に思うだろうしね。

 内心では怯えながら、表面上では、平静を装っていると、

「それはもちろん、可愛いと思いますよ!」

「そ、そう?」

「はい!」

 そう言って、山岸さんは微笑んでいた。


 僕は、ようやく緊張が解けたようだった。

 しかし、今度は吉川さんの方が前のめりになって、訪ねていた。

「そうよね!英奈ちゃんは可愛いわよね!」

 そう言って、吉川さんは山岸さんの手を握っていた。

「そ、そうですね」

 山岸さんは少し引いているようだった。


「ねぇ、英奈ちゃんはあまり着飾ろうとしないんだけど、山岸さんも着飾るのを、手伝ってくれないかしら?」

 それを聞いた山岸さんは、さっきとは一転して、吉川さんの手を握り返していた。

「はい!一緒に頑張りましょう!」

「ええ!一緒に頑張りましょう!」


「・・・え?」

 何で2人は、そんな事で意気投合しているの?

 僕は、背中に嫌な汗が伝うのを感じてしまった。



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