第21話
PVが10000アクセスの大台を超えました。
本当に有り難う御座います。
「暇ねぇ~」
「暇だなぁ~」
「暇だねぇ~」
やる事が無くて、そう言ってしまった。
アウトドアに使うような、折り畳み式チェアに、僕達は座っている。
僕達は現在、永岡市から自動車で30分位の所で、県のほぼ中央にある、この三状市に来ていた。
この三状市には、閉鎖した三状競馬場がある。
この旧競馬場は取り壊されているのだが、そのだだっ広い敷地の片隅には、三状城跡の石碑がある。
この三状城とは、かつて、軍神といわれた戦国武将が、元服後、すぐに入った城で有名なのだ。
三状インターチェンジから新幹線駅である三状駅、さらに三状大橋にかけてが城郭だったという、広大な城だったらしい。
それで、この石碑のある場所は、本丸跡らしい。
この説明を聞くと、ロマンに駆られるのだが、現実に見ると、だだっ広い土ばかりのグラウンドの隅に、ポツンっと石碑があるのである。
山田さんの指示で、ここの石碑の警備でいるのだが、流石に10日もいるとキツイ!
朝から晩までじゃなくて、10日間、この場に寝泊まりしているのだ。
最初は、気合もあったし、用意した食事で気分転換も出来ていたのだが、それも尽き、今の食事は買い出しで行なっている。
自動車の運転が出来る吉川さんが、弁当屋の弁当を買ってきたり、コンビニの弁当を買ったり、牛丼屋で牛丼を買ってきたりしている。
こんな食事を続けていたら、栄養が偏ると思うのだが、家に帰って料理をするわけにもいかないし、困っている。
それに、もっと切実な問題も発生しているのだ。
「いいかげん、お風呂に入りた~い!」
「私も入りた~い!」
そう!!
警備を始めてから、僕達はお風呂に入っていないのだ!
戦闘をしていないから、土まみれという事はないけど、10日間もいると、風によってホコリが付着するのだ。
それを抜きに考えても、体臭がついているんじゃないかと、気になって仕方ない。
「そうか?確かに着替えたいけど、シャワー位でいいんじゃないか?」
本間君がそんな事を言う。
「「シャワーじゃ足りないの!!」」
僕と吉川さんの声がハモッてしまった。
本間君は、僕達2人の視線に全力で引いていた。
「そ、そうなのか?」
「「そうなの!!」」
またハモッてしまった。
「こんなにお風呂に入っていないと、結構、気になるんだからね」
そう言って、僕は自分の紺色のTシャツに、鼻を近づけて、その臭いを嗅ぐ。
やっぱり、気になる・・・。
それから、迷彩柄のスカートに付いてしまった土埃を手で払い落した。
うう・・・、早くお風呂に入りたいよ・・・。
「そんなに気にする程かなぁ~?」
そう言いながら、本間君は僕のTシャツに顔を近づけて、スンスンと臭いを嗅いできた。
「え?・・・わ、わぁ!?」
僕は反射的に、両手を使って、全力で本間君を突き飛ばしてしまった。
「ぶっ・・・」
本間君は、チェアごと、地面に転がってしまった。
「ちょ、ちょっと、いきなり何をするの?」
いきなりで、慌てて突き飛ばしてしまった・・・。
「おい!いきなり何をするんだよ!」
本間君は文句の声を上げてくるけど、
「いきなりは、こっちが言いたいよ!」
僕は半眼で本間君を睨んでしまった。
「そうよね。今のは本間君の方が悪いわ!」
吉川さんも僕の味方になってくれたよ。
「え~、そんな事ないだろ!」
どうやら、何が悪いのか分かっていないようだね。
「女の子の臭いを嗅ごうだなんて、サイッテー!」
吉川さんは、物凄い気配を発散させながら、まるで汚物を見るような冷たい視線で、そこまで言う。
僕はそこまでは思わないけど、吉川さんに同調して、ウンウンと頷く。
吉川さんの気配に、さしもの本間君も、後ずさっている。
そして、助けを求めるかのように、こっちを見てくるが、僕は顔を横に向けて無視をする。
もちろん、助ける気は無いよ。
このまま放っておくと、吉川さんからの、オシオキがあるのが分かっているからか、本間君から、冷や汗が浮かんできていた。
「そ、その、悪かった!俺が悪かったから許してくれ!!」
そう言って、頭を下げていた。
早々に降参してしまったよ。
ちっ、残念!
その後は、また何事もなく時間だけが進んだのだった。
暇だぁ~!!
日が傾き、影が伸びて、周りが赤くなってきた。
長い長い、何事もない時間が過ぎ、やっと日が沈む時間になってくれた。
少し遠くを見ると、国道の自動車の通行量が増えたように見える。
どうやら、企業の退社時間になったようだね。
「そろそろ、夕方ね」
「ああ、そうだな」
「お腹が空きましたね」
吉川さんが、チェアから立ち上がる。
そして、懐から自動車のキーを出しながら、僕達の方に顔を向けてくる。
「ねぇ、夕飯でも買ってくるけど、何か希望がある?」
そう言って、リクエストを聞いてくるんだけど、もうお弁当には飽きたんだよね。
「・・・う~ん。そうですねぇ~」
僕は答えに窮してしまった。
他の意見があるかもしれないと、本間君の方を見ると、
「私は特に無いんだけど、本間君は何か希望ある?」
「もう飽きた!俺も何でもいいよ」
「それが一番困るのよねぇ~」
吉川さんも、掌を頬に当てて、悩んでしまっていた。
もちろん、僕も何でもいいし、これって思う物も無いしなぁ~。
3人で悩んでいると、それを感じた。
グラウンドの反対側から、何というか、いやな何かが現れたような気がした。
この嫌な感じは、やっぱりアレだよね・・・。
「来ましたね」
「そうね」
僕と吉川さんは、その気配の方向に顔を向けた。
ただし、本間君だけは、もう槍を構えていた。
気配を感じたのは、殆ど同じ筈なのに、本間君の反応が早い!
顔を向けた先には、無数の黒い影が見えていた。
やっぱり、御霊だった。
その数は10体だった。
ただ、随分と距離があるな。
この石碑は広場の端にあり、それを警護する関係上、僕達のいる場所も、この石碑のすぐ近くにワンボックスカーを停めて、其処と石碑の周辺に陣取っていたのだ。
対して、現れた御霊は、反対側の端っこの方にいたのだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
あれ?動かない?
現れた御霊は、現れた後は反応を示さなかった。
てっきり、こっちに向かって歩いて来ると思っていたのに、そんな素振りを見せない。
「・・・2人とも、動かない様ですけど、どうします?」
僕は、予想外の状態で、対処が分からなかったので、経験豊富な2人に訊ねる。
「そ、そうねぇ。どうしましょ・・・」
と、吉川さん。
「とりあえず、吉川さんは鳴弦之儀を行なったらどうかな?」
「え、ええ」
本間君の言葉に、吉川さんが返事をする。
「それで、中山は吉川さんの護衛を頼めるか?」
「う、うん。了解!それで、本間君はどうするの?」
そう言った僕の言葉に、本間君は答えた。
「俺は、このまま接近して、御霊を攻撃してこようと思っている」
「ちょ、ちょっと待って。1人で行って、大丈夫?」
「ああ!」
そう言いながら、本間君は頷く。
「でも、何かあった時に、離れていると助けが間に合わなくなるわ」
「大丈夫だ。俺の事より、無防備になる吉川さんの事を頼むぞ」
そう言われると、吉川さんの所から離れるわけにはいかなくなる。
「わかったわ。今から、鳴弦を始まるわ」
「ああ!」
吉川さんが、本間君の言葉に従って、弓を構える。
そして、意識を集中しながら、弦を引き絞る。
そのまま、指から弦が離れる。
ビ~ン
吉川さんの弓から、弦の音が鳴り渡る。
その音が、広場の隅々まで響き渡る。
弦の音が鳴ると同時に、本間君が走り出す。
急ぐわけでも無いし、一応、警戒しているのだろう、早く走らずに、摺り足のまま走っていた。
御霊の方に視線を向けると、吉川さんの鳴弦の影響を受けて、その姿が揺らめいていた。
鳴弦の影響を受けて、まるで初めて、此方の存在に気付いたかのように顔を向け、此方に近づいてきた。
走っている本間君と、此方に向かっている御霊、互いに近づいていたので、双方が接敵するのは早かった。
動きが早く、槍という、間合いの長い武器を持っている本間君が、先に攻撃を行なった。
「んっ!」
本間君の槍は、鋭い突きによって、一撃で御霊を貫いていた。
その一閃で貫かれた御霊は、その姿を崩し、風に流される様に散っていった。
それを確認すると同時に、槍を引き、近くにいた御霊に其れを突き出す!
貫かれた御霊が霧散するのを見届けると、また足を動かしながら、周囲を見回した。
「・・・何か、おかしい?」
僕は、何か違和感を感じていた。
最初は、御霊の服装がチグハグな事だったが、それだけでは無いような気がする。
気になる事だが、本間君は戦闘の真っ最中だし、吉川さんは集中して弦を鳴らしている。
そんな時に、質問をするわけにはいかないよね。
そういう事を考えていると、本間君は、もう御霊の一団を一掃してしまっていた。
本間君は、一息つくと、僕達に向かって歩いてきていた。
「・・・やっぱり、そう思います?」
僕が先程の違和感を感じていた事を話したのだが、本間君達は同様の事を感じていたらしい。
「ああ、何というか、構成がチグハグだったな」
「構成?」
僕の疑問に答えてくれた。
「ああ、御霊の姿が、武士もいたが、農民や町民風のヤツまでいたな」
なるほど。
「それに、御霊の態度もおかしかったわね」
吉川さんがそれに補足してくれた。
「封印が解けたわけでもないのに、いきなり現れた事ですよね」
僕がそう言うが、それだけではないようだ。
「ええ、それに石碑に用があったのなら、近づいてくる筈なのに、そうでもないようだったわよね」
「そうですよね・・・」
「そうだよな・・・」
僕達は、理由が解らず、唸ってしまった。




