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霊器の想起  作者: 甘酒
22/74

第21話

PVが10000アクセスの大台を超えました。

本当に有り難う御座います。

「暇ねぇ~」

「暇だなぁ~」

「暇だねぇ~」


 やる事が無くて、そう言ってしまった。

 アウトドアに使うような、折り畳み式チェアに、僕達は座っている。

 僕達は現在、永岡市から自動車で30分位の所で、県のほぼ中央にある、この三状さんじょう市に来ていた。


 この三状市には、閉鎖した三状競馬場がある。

 この旧競馬場は取り壊されているのだが、そのだだっ広い敷地の片隅には、三状城跡の石碑がある。

 この三状城とは、かつて、軍神といわれた戦国武将が、元服後、すぐに入った城で有名なのだ。

 三状インターチェンジから新幹線駅である三状駅、さらに三状大橋にかけてが城郭だったという、広大な城だったらしい。

 それで、この石碑のある場所は、本丸跡らしい。

 この説明を聞くと、ロマンに駆られるのだが、現実に見ると、だだっ広い土ばかりのグラウンドの隅に、ポツンっと石碑があるのである。


 山田さんの指示で、ここの石碑の警備でいるのだが、流石に10日もいるとキツイ!

 朝から晩までじゃなくて、10日間、この場に寝泊まりしているのだ。


 最初は、気合もあったし、用意した食事で気分転換も出来ていたのだが、それも尽き、今の食事は買い出しで行なっている。

 自動車の運転が出来る吉川さんが、弁当屋の弁当を買ってきたり、コンビニの弁当を買ったり、牛丼屋で牛丼を買ってきたりしている。

 こんな食事を続けていたら、栄養が偏ると思うのだが、家に帰って料理をするわけにもいかないし、困っている。

 それに、もっと切実な問題も発生しているのだ。


「いいかげん、お風呂に入りた~い!」

「私も入りた~い!」


 そう!!

 警備を始めてから、僕達はお風呂に入っていないのだ!

 戦闘をしていないから、土まみれという事はないけど、10日間もいると、風によってホコリが付着するのだ。

 それを抜きに考えても、体臭がついているんじゃないかと、気になって仕方ない。


「そうか?確かに着替えたいけど、シャワー位でいいんじゃないか?」

 本間君がそんな事を言う。


「「シャワーじゃ足りないの!!」」


 僕と吉川さんの声がハモッてしまった。

 本間君は、僕達2人の視線に全力で引いていた。

「そ、そうなのか?」


「「そうなの!!」」


 またハモッてしまった。

「こんなにお風呂に入っていないと、結構、気になるんだからね」

 そう言って、僕は自分の紺色のTシャツに、鼻を近づけて、その臭いを嗅ぐ。


 やっぱり、気になる・・・。


 それから、迷彩柄のスカートに付いてしまった土埃を手で払い落した。

 うう・・・、早くお風呂に入りたいよ・・・。


「そんなに気にする程かなぁ~?」

 そう言いながら、本間君は僕のTシャツに顔を近づけて、スンスンと臭いを嗅いできた。

「え?・・・わ、わぁ!?」

 僕は反射的に、両手を使って、全力で本間君を突き飛ばしてしまった。


「ぶっ・・・」

 本間君は、チェアごと、地面に転がってしまった。

「ちょ、ちょっと、いきなり何をするの?」

 いきなりで、慌てて突き飛ばしてしまった・・・。


「おい!いきなり何をするんだよ!」

 本間君は文句の声を上げてくるけど、

「いきなりは、こっちが言いたいよ!」

 僕は半眼で本間君を睨んでしまった。

「そうよね。今のは本間君の方が悪いわ!」

 吉川さんも僕の味方になってくれたよ。


「え~、そんな事ないだろ!」

 どうやら、何が悪いのか分かっていないようだね。

「女の子の臭いを嗅ごうだなんて、サイッテー!」

 吉川さんは、物凄い気配を発散させながら、まるで汚物を見るような冷たい視線で、そこまで言う。

 僕はそこまでは思わないけど、吉川さんに同調して、ウンウンと頷く。


 吉川さんの気配に、さしもの本間君も、後ずさっている。

 そして、助けを求めるかのように、こっちを見てくるが、僕は顔を横に向けて無視をする。

 もちろん、助ける気は無いよ。


 このまま放っておくと、吉川さんからの、オシオキがあるのが分かっているからか、本間君から、冷や汗が浮かんできていた。

「そ、その、悪かった!俺が悪かったから許してくれ!!」

 そう言って、頭を下げていた。


 早々に降参してしまったよ。

 ちっ、残念!




 その後は、また何事もなく時間だけが進んだのだった。

 暇だぁ~!!


 日が傾き、影が伸びて、周りが赤くなってきた。

 長い長い、何事もない時間が過ぎ、やっと日が沈む時間になってくれた。

 少し遠くを見ると、国道の自動車の通行量が増えたように見える。

 どうやら、企業の退社時間になったようだね。


「そろそろ、夕方ね」

「ああ、そうだな」

「お腹が空きましたね」


 吉川さんが、チェアから立ち上がる。

 そして、懐から自動車のキーを出しながら、僕達の方に顔を向けてくる。

「ねぇ、夕飯でも買ってくるけど、何か希望がある?」

 そう言って、リクエストを聞いてくるんだけど、もうお弁当には飽きたんだよね。

「・・・う~ん。そうですねぇ~」

 僕は答えに窮してしまった。

 他の意見があるかもしれないと、本間君の方を見ると、

「私は特に無いんだけど、本間君は何か希望ある?」

「もう飽きた!俺も何でもいいよ」

「それが一番困るのよねぇ~」

 吉川さんも、掌を頬に当てて、悩んでしまっていた。

 もちろん、僕も何でもいいし、これって思う物も無いしなぁ~。



 3人で悩んでいると、それを感じた。

 グラウンドの反対側から、何というか、いやな何かが現れたような気がした。

 この嫌な感じは、やっぱりアレだよね・・・。


「来ましたね」

「そうね」

 僕と吉川さんは、その気配の方向に顔を向けた。

 ただし、本間君だけは、もう槍を構えていた。

 気配を感じたのは、殆ど同じ筈なのに、本間君の反応が早い!


 顔を向けた先には、無数の黒い影が見えていた。

 やっぱり、御霊だった。

 その数は10体だった。


 ただ、随分と距離があるな。

 この石碑は広場の端にあり、それを警護する関係上、僕達のいる場所も、この石碑のすぐ近くにワンボックスカーを停めて、其処と石碑の周辺に陣取っていたのだ。


 対して、現れた御霊は、反対側の端っこの方にいたのだ。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


 あれ?動かない?

 現れた御霊は、現れた後は反応を示さなかった。

 てっきり、こっちに向かって歩いて来ると思っていたのに、そんな素振りを見せない。


「・・・2人とも、動かない様ですけど、どうします?」

 僕は、予想外の状態で、対処が分からなかったので、経験豊富な2人に訊ねる。

「そ、そうねぇ。どうしましょ・・・」

 と、吉川さん。


「とりあえず、吉川さんは鳴弦之儀を行なったらどうかな?」

「え、ええ」

 本間君の言葉に、吉川さんが返事をする。


「それで、中山は吉川さんの護衛を頼めるか?」

「う、うん。了解!それで、本間君はどうするの?」

 そう言った僕の言葉に、本間君は答えた。

「俺は、このまま接近して、御霊を攻撃してこようと思っている」

「ちょ、ちょっと待って。1人で行って、大丈夫?」

「ああ!」

 そう言いながら、本間君は頷く。

「でも、何かあった時に、離れていると助けが間に合わなくなるわ」

「大丈夫だ。俺の事より、無防備になる吉川さんの事を頼むぞ」

 そう言われると、吉川さんの所から離れるわけにはいかなくなる。


「わかったわ。今から、鳴弦を始まるわ」

「ああ!」

 吉川さんが、本間君の言葉に従って、弓を構える。

 そして、意識を集中しながら、弦を引き絞る。

 そのまま、指から弦が離れる。


ビ~ン


 吉川さんの弓から、弦の音が鳴り渡る。

 その音が、広場の隅々まで響き渡る。


 弦の音が鳴ると同時に、本間君が走り出す。

 急ぐわけでも無いし、一応、警戒しているのだろう、早く走らずに、摺り足のまま走っていた。


 御霊の方に視線を向けると、吉川さんの鳴弦の影響を受けて、その姿が揺らめいていた。

 鳴弦の影響を受けて、まるで初めて、此方の存在に気付いたかのように顔を向け、此方に近づいてきた。

 走っている本間君と、此方に向かっている御霊、互いに近づいていたので、双方が接敵するのは早かった。


 動きが早く、槍という、間合いの長い武器を持っている本間君が、先に攻撃を行なった。

「んっ!」

 本間君の槍は、鋭い突きによって、一撃で御霊を貫いていた。

 その一閃で貫かれた御霊は、その姿を崩し、風に流される様に散っていった。

 それを確認すると同時に、槍を引き、近くにいた御霊に其れを突き出す!

 貫かれた御霊が霧散するのを見届けると、また足を動かしながら、周囲を見回した。



「・・・何か、おかしい?」

 僕は、何か違和感を感じていた。

 最初は、御霊の服装がチグハグな事だったが、それだけでは無いような気がする。

 気になる事だが、本間君は戦闘の真っ最中だし、吉川さんは集中して弦を鳴らしている。

 そんな時に、質問をするわけにはいかないよね。


 そういう事を考えていると、本間君は、もう御霊の一団を一掃してしまっていた。

 本間君は、一息つくと、僕達に向かって歩いてきていた。




「・・・やっぱり、そう思います?」

 僕が先程の違和感を感じていた事を話したのだが、本間君達は同様の事を感じていたらしい。

「ああ、何というか、構成がチグハグだったな」

「構成?」

 僕の疑問に答えてくれた。

「ああ、御霊の姿が、武士もいたが、農民や町民風のヤツまでいたな」

 なるほど。


「それに、御霊の態度もおかしかったわね」

 吉川さんがそれに補足してくれた。


「封印が解けたわけでもないのに、いきなり現れた事ですよね」

 僕がそう言うが、それだけではないようだ。

「ええ、それに石碑に用があったのなら、近づいてくる筈なのに、そうでもないようだったわよね」


「そうですよね・・・」

「そうだよな・・・」

 僕達は、理由が解らず、唸ってしまった。


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