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霊器の想起  作者: 甘酒
20/74

第19話

トントントントントントン


 まな板にのっている食材を包丁で切っている音が響く。

 実は、実家にいる母さんに、冷凍保存してもらっていた筍を送って貰っていたのだ。

 この筍は、千切りした状態で冷凍しておいたので、このまま料理する為に、肉とピーマンを筍と同じようなサイズに切っていく。

 分かる人にはもう分かるけど、これから作るのは青椒肉絲だ。


 青椒肉絲と言っても、本格的な物ではなく、家にある調味料で味付けして作ったナンチャッテ料理だ。

 まあ、本格的な物ではないけど、家庭料理だし、美味しければ許してもらえるだろう。


 そう言えば、今日はエプロンを着けないで料理している。

 なんたって、今着ている服が、水色のエプロンドレスなのだ。

 不思議の国のアリ●みたいだと思ったけど、言わないでおく。

 だって、あんなに可愛くなるわけでもないし、僕にそんな雰囲気が似合うわけが無いんだから。

 それに、この格好で家の外に出かける度胸は無いんだけどね。

 そもそも僕は、コレを着るつもりは無かったんだけど、吉川さんに懇願されてしまったのだ。


 いつもの吉川さんだったら、有無を言わせず、僕を半裸にしてでも、好みの服を着させようとするんだけど、何か変だ。


 変と言えば、吉川さんだけではなく、本間君もオカシイのだ。

 どんな風に変かと言うと・・・。


バタバタバタバタ


 足音が近づいてきた。

 僕は振り返ると、台所の入口に本間君が顔を覗かせていた。

「あ、あのさ、・・・中山・・・」

「うん?何?」

 本間君は、何か戸惑っているみたいだな。

「あ、あのさ、・・・」

 ここまで言いにくい事って、何なんだろうね?

「どうしたの?何かあったの?」

「い、いや。特に何かあったわけじゃないんだけどな・・・」

 ・・・あやしい!

 ここまで、言い淀むって、何かある!


 そんな風に思っていたら、本間君から、予想外のセリフが飛び出してきた。

「その服、似合っているな!」

「・・・は?」


 僕は一瞬、思考が停止してしまった。

 だって、そんなセリフが出るなんて、誰が予想できる?

「うん。可愛いと思うぞ!」


 ちょ、ちょっと待って!

 本間君は熱でも有るんじゃないか?

 もしくは、何か悪い物でも食べたの?


「あ、あの、本間君。いきなり何を言っているの?」

 僕は、そう訊ねたんだけど、

「あ、そ、そうだ!俺、用事があるんだった!」

 そう言って、僕の言葉には答えずに自室に戻って行ってしまった。



「なんだったの、アレ?」

 態度の怪しい本間君を見送りながら、茫然としてしまった。

 ホントに何があったの?



 僕は、気を取り直して、再び料理に取り掛かった。

 青椒肉絲の下拵えが終わったから、次のおかずの下拵えを始めた。


コネコネコネコネ

パンパンパンパン


 ボールに入っている牛と豚の合挽き肉に、炒めたタマネギのみじん切りを入れ、捏ね合わせた後、形を整えていく。

 これは、もう1つのおかずのハンバーグである。



 そうすると、今度はパタパタパタパタと、別の足音が近づいてきた。

 その足音は、台所の入口の所で止まった。

 そのまま動く気配が無いので、僕は、ふとそっちの方に顔を向けた。

 そこには、身体を隠し、顔の半分だけを、此方に出し、僕の様子を窺う様にしている吉川さんがいた。


「吉川さん、どうかしました?」

 何気なく、吉川さんにそう言ったら、慌てて隠れられてしまった。

 だから何なの?


 吉川さんが、恐る恐るといった風に、また顔を出してきた。

「あ、あのね・・・・・・怒ってない?」

「・・・はい?」


 また何か言っているよ。

「やっぱり、怒っている?」

「怒っていませんよ」

 そもそも何を怒れと言うのだろう?

 原因も分からずに怒る事なんか出来ないじゃないか。

 それでも、不安そうな顔をしたまま、

「ホントに?」

 と、聞いてくるのである。

「ホントですよ。それとも、吉川さんは何か怒られる様な事をしたんですか?」

 僕は、嘆息しながら聞いたのだが、

「う、ううん!何でも無いの!何でも無いからね!」

 吉川さんは、慌てたように、そう言っていた。


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 あ、あやしい!

 これで何でもないと思う人って、まず居ないと思うんだけど・・・。

「ホントに?」

 僕がそう訊ねたんだけど、吉川さんは急に汗を掻き出していた。

「わ、私、ちょっと用事を思い出したから・・・」

 そんな事を言い出して、顔を引っ込めてしまった。

「あ、ちょっと!」

 僕がそう言ったけど、聞こえていない様に、部屋に戻って行ってしまった。

 台所から逃げていく吉川さんの後ろ姿を、追いかけるべきか思っている内に、その姿が見えなくなってしまった。

 ・・・え~と、何だったの?アレ?



 僕が病院で目覚めてから、2人の態度がおかしい!

 一体、何があったんだろう?

 僕にも相談してくれればいいのに、いつも、途中で言葉を濁すんだよな。


 そんなに大変な事で、僕に変な冗談を言って、気分転換したくなる程の事情なら、ちゃんと僕にも相談してほしいよ。

 僕では、力には成れないかもしれないけど、それでも言ってほしいと思うのは、僕の我が儘なのかな?

 2人の力になれない自分が情けなくて、そんな無力感を自分の内に仕舞いながら、キッチンの前に戻って、料理の続きをするのだった。



 そして、夕飯の時。

 僕と、本間君と、吉川さんの3人がテーブルを囲んで、夕飯を食べていた。


「うん!やっぱり英奈ちゃんの料理は美味しいわね!」

「ああ、普段から、こんな美味い料理が作れるなんて、大したものだよ!」

「本当にねぇ。そこらの女の子なんか、太刀打ち出来ないくらいに女の子らしいわよね」

「ホントだよ!」


 何なの?このベタ褒めは?

 一体、何があったの?

 2人は一体、何を企んでいるの?


「あ、有り難う」

 僕は2人の異常な態度に辟易しながらも返事をし、何を考えているのだろうかと考えてしまう。

 僕は、2人の態度に警戒しながら、御飯を食べてしまい、味わう事が出来ずにいる。

 僕の警戒そっちのけで、2人はまだ賛美合戦を続けていた。


「これだけ可愛くて、料理も美味しいとなると、男の子達は英奈ちゃんの事を放っておかなくなるわよね」

 と、吉川さん。

「そうだよな。中山と付き合う事になる男は、羨ましいよな!」

 それに答えるように本間君が言う。

「そうそう!本間君だって、英奈ちゃんに告白した方が良いんじゃないの?」

 その吉川さんの言葉に、

「え?」

 本間君は、一瞬に固まっていた。


 固まった本間君を見て、やっぱりね。と思ってしまった。

「・・・ふ~ん。本間君は私に気が合ったの?」

 僕が、そう訊ねたら、

「え?あ、えっと、違っ、てっ、その、あのな・・・」

 本間君は顔色を青くしたり赤くしたりして、しどろもどろになっていた。

 そんな姿を、僕は半眼で見てしまう。

「じゃあ、やっぱり私なんか可愛くないんだ」

「いや!そうじゃない!お前は十分可愛い!だから・・・」

 やたらと必死になって喋っていた本間君が、そこで言葉に詰まっていた。

「だから、何?」

 僕が半眼のまま、そう言うと、本間君がまた言葉に困っていた。

「うっ・・・」

 言葉に詰まったまま、本間君は吉川さんに視線を送っている。

「・・・・・・」

 その視線を受けて、吉川さんも本間君に視線を送っていた。


 やっぱり、何か企んでいる!!


「ねえ、2人とも。私に何か隠している事ってない?」

 僕がそう言うと、2人揃って、『ビタッ!』と擬音が聞こえそうな程に、動きが止まってしまった。

「やっぱり、そうなんですね」

 僕が溜息まじりにそう言うと、

「や、や~ね~!私達が英奈ちゃんに隠し事なんてするわけないじゃない!」

 吉川さんが、冷や汗を流しながら、そんな風に言ってきた。

「そ、そうだぞ!俺達がお前に隠し事なんてするわけないじゃないか!」

 本間君も、顔を強張らせながら、そんな事を言っていた。


「・・・ふ~ん」

 僕は、信じられないものを見る目で、2人を見てしまったのは、仕方ないよね。


 僕の視線に晒された2人は、またアイコンタクトをしていた。

(言うか?)

(駄目!)

 僕には読心術は使えないけど、そう言いあっている様に感じられた。



 それからも、2人は色々と言っていたけど、

 結局、吉川さんも、本間君も、どうしても口を割らなかった。

 ホントに何を隠しているんだか・・・。


 それからも、2人は歯に衣を着せぬ様な事を言い続けた。

 それはもう、聞いているコッチが恥ずかしくなる様な事を並べ立てられるのは、勘弁してほしい。

 しかも、何を考えているのかは、絶対に言ってくれない。




「もう!それだったら、もう聞きませんから、変な事を企まないで、今まで通りの普通の態度にして下さい!」

 僕は、そう言って、お願いする位しか出来なかったよ。

 2人は、残念な態度だったけど、こんな不自然な事を言われ続けられるのは、結構、大変なんだよ。



女性化作戦失敗!

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