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霊器の想起  作者: 甘酒
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第18話 side 山田吉彦1

今回は、かなり短いです。

「吉川、本間、中山の3名は、軽傷はありますが、それ以外には、全く異常無しだったそうです」

 私の部下である吉田が、病院からの報告を届けると共に、そう言ってきた。

「そうですか。それは良かった」

 私の言葉を聞いた吉田は、驚いたような顔をしたが、直ぐに元の顔に戻った。

 そして、そのまま一礼すると、部屋を出て行った。


 出て行った後になって、吉田が驚いた顔をした訳に思い至った。

「ふっ、良かったなどと言うとは、私もまだ甘いな」

 私は自重気味に笑ってしまった。

 そうだ。私には甘い事を言っている余裕等は無いのだ。


 ここ数十年の間、御霊の封印が解けてきていた。

 封印が解ける事自体は分からなくはないが、それがこの数十年の間に集中し過ぎていた。

 今はまだ、小物ばかりだから良いのだが、これがもしも大物だったら、大事おおごとなのだ。


 例えば、

 当時の朱雀天皇に対抗して、新皇を名乗り、朝敵になった為に討伐された豪族だったり、


 第75代天皇だったのに、乱の為に讃岐に配流された上皇といった、大物の封印が解けていたのだったら、国の存亡に関わるかもしれない。


 大物の御霊を相手にするには、術者や霊器の使い手が必要なのだ。

 しかし、何と言っても、術者の数が足りない!

 それこそ、保護動植物や絶滅危惧種なみに数が少ないのだ。

 それでは、もしも将来、先に考えていたような大物の封印が解けた場合、まともな対応などできない。

 だから、その代案として、霊器とその使い手の増加だ。


 使い手も少ないが、それ以上に霊器そのものの数が少ない!

 幸い、霊器の出来方は分かってきた。

 だから、霊器を増やす様にしなければならないのだ。



 それと、中山の長巻直し。

 あれは使用者が1~2度使用しただけで、精神に異常をきたす事が殆どという報告がきていた。

 関係者の中には、呪われているだのと言う者もいたが、馬鹿らしい。


 霊器とは、道具を使い続けている事によって、その者の想念が蓄積されて霊器になるのだ。

 霊器の成り立ちを考えれば、全ての霊器が呪われていると言っていい。

 ただ、中山の長巻は、元々の使用者の想念が他の物より、強く残っているだけなのだろう。

 それゆえに、霊器に宿っている想念や記憶と、相反する思想を持っていたりすると、反発しあい、耐えられないと精神に影響が出てくるのだろう。

 だから、反発しない程度の思想の使い手が、手にすれば良いだけだ。


 それに、霊器を作るには、道具に想念を込めなければならない。

 ならば、想念の強い霊器を装備させた状態で、別の道具を持ち続ければ、より強く想念を込めやすくなるだろう。

 そう考えれば、あの長巻を使わない選択肢などない。



 さっきも言ったが、霊器の数が少ないのだ。

 使い手は、現在の人間で見つかっていないだけかもしれないし、今後、生まれてくる人間にも現れてくるだろう。

 ならば、出来るだけ霊器の数を増やす事が、今後の日本の安全につながるのだ。


 中途半端な使い手を使い潰しながら、その経験によって、新たな霊器を増産してしまえば、将来的な戦力を確保出来るのだ。

 このやり方は、人道的に問題があるだろうが、1億人以上の人間の生命を守る為には、仕方ない。

 多くの人々を守る為ならば、私は外道に堕ちようがかまわない。


 だが、今回の中山は、中々に長持ちするかもしれない。

 もしも使い潰されず、成長して、まともな使い手になるのなら、それに越した事は無いのだから。


 とりあえずは、毘沙門天を信仰し、内乱を平定し、想念を鎮めて、御霊の発生を抑えていた武将の結界が消えない内に進めなければならないのだ。


 私は、冷めきってしまったコーヒーを口に含み、手にしていた書類を机に置いた。

 そして、窓に顔を向けて、外の景色を眺め、気分を変える事にした。



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