第17話
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皆さん、ホントに有り難うございます。
僕は、ふと目が覚めた。
何か長いこと寝ていたような気がする。
目を開けていると、少し眩しい。
どうやら、照明が付いているようだ。
「眩し!」
僕は、光を遮ろうと手を動かしたら、何かを握っている様だった。
どうやら、握っているのは棒状の物だった。
それを見てみると、僕の握っていたのは刀だった。
これは、僕の霊器だ!
なんで、これを握っていたんだろう?
色々と確認しようと、起き上がろうとした時、
「どうやら、目覚めたようですね?」
僕は、声のした方向に顔を向けると、そこにはスーツ姿の男性がいた。
「山田さん?」
そこに立っていたのは、山田さんだった。
山田さんの姿を確認した時、ついでに室内を見てみた。
その室内は、白かった。
ここは、どうやら病室のような気がする。
「山田さん。ここは?」
「ここは、永岡市内にある貴方が通院していた病院です」
山田さんは、眼鏡の中心部を、指1本でクイッと押している。
「そうですか。所で、私は何日位寝ていたんですか?」
「5日ですよ」
僕は、目を見張ってしまった。
「そんなに寝ていたんですか?」
「はい」
何だろう?
山田さんの様子が変だな?
「そういえば、吉川さんと本間君は大丈夫でしたか?」
僕はそういう風に聞いたんだけど、山田さんはそれには答えてくれずに、こう聞いてきた。
「中山さん」
「はい?」
僕は首を傾げて返事をした。
「目覚めたばかりで悪いのですが、立ち上がれますか?」
「あ、はい?ちょっと待ってください」
僕はそう答えて、ベッドの布団を捲って、足元にあるスリッパを履いて、立ち上がってみせる。
「はい。この通り、立てますよ」
そう言いながら、山田さんに立っている姿を見せる。
山田さんは、探る様な目で僕を見続けている。
「中山さん。ならば、今から動き回れそうですか?」
僕は、身体を捻ったり、屈伸したりして、状態を確認してみる。
特にこれといって、痛みがあったり、身体が攣ったりはしなかった。
「うん。特に異常は無いようですよ?」
僕はそう答えると、
「そうですか」
そう言って、ベッドの脇に置いてあったバッグを持ち、僕に突き出してきた。
「吉川達2人は出動しています。ここに着替えがあるので、着替えたら現地に向かってもらいます」
僕は一瞬驚いたが、僕が寝ていても事態は推移するんだから、出動していてもおかしくないよな。
そう思い直したら、僕はバッグを受け取った。
「はい。了解しました!」
山田さんは頷くと、僕に背を向けて話しかけてきた。
「私は諸々の手続きを済ましたら自動車を用意して待っています。貴女は準備が終わったら、駐車場に来てください」
「はい!」
僕の返事を聞いたかどうか分からないが、そのまま病室を出て行った。
その姿を見送った後、僕は渡されたバッグの中を確認した。
その中には、僕が戦闘時に着ている、紺色のTシャツと迷彩柄のスカート、黒のスパッツ、防刃ベストと手甲、それに下着類だった。
・・・ん?
これって、用意したの、吉川さんだよね?
まさか、山田さんが用意したわけじゃないよね?
スカートとか、スパッツとか、下着とか・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
あまり深く考えないでおこう!うん!
僕は、病院支給のパジャマを脱いで、ベッドに放り、バッグの中のブラを着け始めた。
その後、次々と服を着ていき、防刃ベストを羽織る。
そして、バッグの底にあった竹刀袋で刀を包み、バッグを手にし、病室を出た。
その後、僕は廊下を急ぎながら進み、病院を出た。
刀を竹刀袋に入れていたお陰で、病院内では、変に注目される事は無かった。
僕は病院を出て、駐車場まで行くと、クラクションが鳴っているのが聞こえた。
クラクションの鳴った方を見ると、山田さんの運転している自動車がこちらに近づいてくる。
もう退院の手続きを終わらせたの?
相変わらず、早いよな。
山田さんの自動車が、目の前で停まったので、そのまま助手席に乗り込む。
ドアを閉めると同時に、山田さんは自動車を発車させる。
走り始めたので、とりあえず初めにシートベルトをしてから、バッグの中に入れっぱなしにしていた手甲を出し、装着していく。
それから、すぐに使える様に、竹刀袋から刀を出しておく。
自動車は、国道をひたすら進み、永岡市を抜ける。
今走っている国道を左に曲がると県央地域に向かうのだが、そこを右に曲がり、走り続ける。
このまま進むと、上沼郡に向かう事になる。
この上沼は県外にも有名な、お米の特産地だ。
お米が特産と言う事は、日本酒も美味しいのだ。
つまり、日本酒も特産品という事だ。もう飲めないけど。せめて、20歳なら飲めたのにな~。
それだけではなく、この上沼は、地域の特色を出す為に、とある通りを宿場町だった歴史を生かして、江戸時代の町並みを模した感じにしている。
時間に余裕があるなら、ゆっくり散策してみたいけど、そんな時間は無いな。
僕達の乗った自動車は、町中を通り過ぎ、寂れた場所を進んだ。
此処を進むと、少子化の影響で児童が居なくなり、ある学校の分校が、結果的に閉校してしまった跡地がある。
その閉校した跡地の前には、見覚えのあるワンボックスカーが停めてあった。
山田さんは、そのワンボックスカーの横を横切り、そのまま校庭に侵入していった。
その校庭の奥、校舎の近くでは、複数人の人影が見えた。
1人は、左手に弓を握っている巫女さんだった。
もちろん、その姿は吉川さんだろう。
その周りには、刀を持っている黒い姿が3人いた。
巫女姿の吉川さんの周りにいる黒い影。
いや、御霊は吉川さんに3体がかりで襲い掛かっていた。
流石の吉川さんでも、3人がかりの攻撃は、避けるので精一杯のようだ。
吉川さんは、振り下ろされる刀を避け続ける為に、弓に矢を番える事すら出来ていなかった。
《守らなきゃ》
吉川さんを守らなきゃね。
「山田さん!車を吉川さんの近くにお願いします!」
「分かった!」
そう答えた山田さんは、ハンドルを操作して、車を吉川さんに向けると、加速しだした。
僕は、すぐに動きだせるようにシートベルトを外し、ウインドーを下ろす。
そして、上半身を外に乗り上げ、そのままドアに足を掛ける。
車が吉川さんの横に来ると同時に、僕は飛び出す。
飛び出した勢いを利用し、御霊に刀を突き出す。
僕のバランスが悪かったのか、御霊の反応が良かったのか、躱されてしまったが、それによって、吉川さんから離す事が出来た。
地面につくと同時に、前転するようにゴロゴロと回転し、受け身を取る。
そして、回転の勢いが弱くなってきたので、回転を利用して立ち上がる。
近くにいる御霊に対して、至近まで一気に踏み込み、間合いに入った瞬間、その勢いのままに袈裟斬りにする。
今の一閃で、御霊が霧散した。
それと同時に、恐怖が心を襲ってきた。
怖い!
刀を握る手が震える。
《守らなきゃ》
守るんだ!
誰かを守る為には、こんな事位で怖がってられない!
僕は顔を上げると、吉川さんの目の前にいる御霊に向かって、刀を突きだす。
その切っ先は御霊の喉元を貫いた。
御霊が霧散する。
また恐怖が襲ってきたが、
「怖くない!」
僕はそう叫んで、気迫で恐怖を抑え込む!
後ろから気配を感じたので、直感を信じて、左足を右足の右前方向に踏み出して、自分自身の軸をずらす。
それと同時に、一瞬前までいた場所に刀が振り下ろされる。
僕は、右前に踏み出した時の勢いと合わせて、腰を捻り、その勢いで刀を横薙ぎに振るう。
その一閃は、胴を斬り裂き、御霊は黒い霧となった。
歯がガチガチと鳴る。
それを、歯を噛み締めて、無理矢理に抑え込む。
そして、吉川さんの方に顔を向ける。
吉川さんは、何か呆けたような顔をしていた。
「え、英奈ちゃん?」
そのまま、言葉が出ないようだった。
「吉川さん!鳴弦を!」
「え?」
吉川さんは反応出来ないようだった。
「吉川さん!早く鳴弦之儀をお願いします!」
「え?・・・ええ!」
そう答えると、漸く弓を構え出した。
流石にやる事が決まると早い!あっという間に意識を集中し、弦を引く。
ビ~ン!
弦の鳴る音が校庭だけでなく、校舎の中まで届いたようだ。
見渡す限り、本間君の姿が見えない。
つまり、吉川さんと引き離されたのだろう。
本間君の事だから、簡単に遅れを取ったりはしていないと思う。
それでも、援護が無い状況は厳しいだろう。
本間君の居場所が分からない状況で、走り回るわけにはいかないし、それならば、場所が関係なく、範囲内全てに効果を発揮する鳴弦が効果的だろう。
弦の音が鳴り響く中、本間君の行方を何とか探す事が出来ないかと思い、刀を青眼に構え、目を閉じ、耳を澄ます。
そうする事によって、空気の流れを感じ、小さな音も聞き逃さない様にしてみる。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
遠くで金属のぶつかりあう音が聞こえる様な気がする。
遠くで何か床を踏み締める音が聞こえる様な気がする。
何処だ?
何処から聞こえる?
おそらく、そこで本間君が戦っているはずだ!
さらに意識を集中しようとした時、ガチャン!というガラスが割れる音が聞こえた。
僕は、咄嗟に音のした方に目を向けると、校舎の1階の窓が割れた所だった。
その窓から棒が、いや、槍が窓ガラスにぶつかったのだろう。
あそこだ!
窓から槍が引っ込む。
それから数秒が経った時、また窓ガラスを割れた。
それは、黒い影が外に飛び出した時に、ガラスが割れた音だった。
槍が外に飛び出した影を貫こうとしたが、それよりも早く、影が地面に着地して距離をとった。
影を追うように、窓から人影が姿を現す。
やはり、本間君だった。
本間君は御霊を追いかけ、槍を鋭く突き出すが、何と、御霊はその突きを避けた!
その本間君の後を追うように、別の黒い影が窓から飛び出してきた。
そして、先に出てきた御霊と2人がかりで、前後を挟んで襲い掛かっていた。
この2体の御霊は、鳴弦の影響で全体が揺らめいているのに、かなり鋭い動きをしていた。
流石の本間君も、キツイのだろう。
1本の槍を巧みに操り、前から繰り出されている斬撃は、刃を使って弾いたり、逸らしたり、絡め取ろうとしたりして、後ろからの斬撃は石突の方を用いて、これまた弾いたり、逸らしたりしていたが、なかなか反撃に移れていなかった。
だが、本間君の、素早い槍捌きは、残像を残す程だった。
こんな時に少し不謹慎だが、その槍の残像は、本間君を支点に動いており、その残像の軌跡は、まるで横向きにした砂時計を思わせる程だ。
僕は一瞬、本間君に加勢しようと思ったのだが、意識を集中して鳴弦を行なっている吉川さんを無防備にするのは、憚られた。
「英奈ちゃん、行って!」
「え?」
意識を集中させている吉川さんが喋った?
「早く行きなさい!」
意識を乱したら、鳴弦が途切れるかもしれない中、話すなんて・・・。
その心に答えるには・・・。
「はい!分かりました!」
僕は、そう答えると同時に、本間君に向かって走り出していた。
本間君を守りに行き、尚且つ吉川さんの安全を図るには、出来る限り短時間で御霊を倒すしかない。
《守らなきゃ》
「2人とも守ってみせなきゃね!」
僕は、そう言いながら刀を御霊に向ける。
本間君は、走り寄っていく僕の姿に気付いたのだろう。
驚いたように、目を見開いた様になった。
だが、変化はそれだけで、体捌きも槍捌きも乱れた様子は見られなかった。
僕は声を出さずに気合を込めて、本間君の前にいた御霊の背中に、勢いをそのままに突き刺した。
僕は、襲い掛かってきた恐怖に身体を強張らせて、その場に固まってしまった。
僕の刺した御霊は、その姿を保てずに散っていった。
それと同時に、本間君は槍の石突で御霊の刀を弾き、その勢いのまま、グルンと回転させて、そのまま後ろに引く様に突き刺した。
その一撃は、御霊の胸を貫いていた。
そして、黒い霧となって、霧散していった。
僕は恐怖による膠着が解けるとともに、吉川さんの方に振り向いた。
見ると、吉川さんがこちらに走り寄って来ていた。
そして、僕の前で立ち止まった。
何か喋ろうとしようとしているが、上手く言葉に出来ないようだった。
そんな吉川さんに向かって、僕は頭を下げた。
「吉川さん、御免なさい!勝手な事をした上に、迷惑をかけてしまって。本当に御免なさい!」
吉川さんは、頭を下げている僕に近づき、そのまま、僕を覆うように抱きついてきた。
「英奈ちゃん!良かった!ホントに良かった!私の方こそ御免なさい!」
そう言って、泣いていた。
な、何で吉川さんが泣いているの?
僕の方が迷惑をかけたっていうのに。
少し驚いている僕に、本間君が近づいてきた。
「よく帰ってきたな。本当に良かったよ」
そう言って、僕の頭を撫でてきた。
・・・む、何か年下に対する態度みたいに感じるのは気のせいかな?
・・・まぁ、いいか。
「うん。ただいま」
僕は笑顔で、そう答えた。




