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霊器の想起  作者: 甘酒
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第15話 side 吉川保美1

 あの戦いから、数日が経った。

 あの戦闘の時、英奈ちゃんは悲鳴を上げた後、意識を失った。

 英奈ちゃんは、未だに目を覚まさない。

 病院の検査でも、身体に異常は見つかっていない。

 だから、原因は身体では無く、心か魂の方にあるのだろう。


 病院の一室の中、ここは個室で、室内には英奈ちゃんの眠っているベッドが1つだけであった。

 私は、英奈ちゃんの眠っているベッドの脇に椅子を置いて、そこに座っていた。

「私のせいだ!」

 椅子に座ったまま、両手で顔を覆い、涙を流している私の肩に、本間君は手を乗せ、気遣わしげに、

「そんな事は無いですよ」

 本間君はそんな事を言ってくれたけど、そんな事はない。


「ううん。そんな事ない。私はこうなる可能性を知っていながら、防げなかったんだから、私のせいなの!」


 本間君は驚いたような顔をしていた。

 そして、私の両肩を手で掴みながら、私に問いかけてきた。

「どういう事だ!」

 本間君は、懸命に私の肩を揺する。

「知っていたって、どういう事なんだ!」


 だから、私は私の知っている事を話す事に決めた。

「本間君は、御霊を攻撃したり、攻撃を受けたりしたら、恐怖心が襲ってくる事を知っているでしょ?」

「あ、ああ!」

 本間君は戸惑いながらも頷く。


「あれは、御霊に接触されると、魂を侵蝕されるからで、その侵蝕に対しての、恐怖心なのよ」

 その説明に、本間君は頷く。

「知っている。だけど、その侵蝕は精神を強固にすれば、防げる程度のモノだろ?」

「ええ」

 私も頷く。

 私の頷きに、本間君は続きを話す。

「中山は恐怖を感じてはいたが、精神を侵蝕される程の精神ダメージを受けていた訳ではないだろ!」

「ええ」

「なら、問題は無い筈だろ?」

 私はまた頷く。

「ええ!普通では問題無いわ。修行して、精神を強固にすれば、その内、恐怖心も薄れていく筈だったわ」


「だったら・・・」

 本間君が言おうとしたけど、私はそれを遮るように、

「でもね、それは精神を強固に出来るだけの自我がある場合なのよ」

 本間君は訝しむような顔になった。

「どういう事だ?」


 私は、深呼吸する。

「御霊の侵蝕による恐怖を防ぐには、精神を強固にする事よ。そして、それを行なうには、自我を強くする事が必要なのよ」

 本間君は頷く。

「ああ、さっきも言ったが、それは知っている」

「なら、もしも、その自我に齟齬が発生したら、どうなるの?」

 分からないと言う顔付きをしている。

「だから、それはどういう事だ?」

「男の精神に、女の身体だった場合、自我はどうなるの?もしも、精神と身体に齟齬が発生した場合は、自我はその相違によって脆くなるんじゃないの?そして、その状態の時に、御霊の侵蝕を受けたらどうなるの?」

 そこまで聞いた本間君は驚いた顔をしていた。


「それって、つまり・・・」

 私は頷く。

「ええ。英奈ちゃんは、自意識まで女性化しなければ、いつ精神が崩壊するか分からないのよ」


 しばらく無言の沈黙が続いた。

「そんなのって、・・・そんなのって無いだろ?」

 本間君は、血が出そうになる程に、拳を握りしめ、苦しそうな顔をしている。


「だから、・・・だから私は、英奈ちゃんが自分は女だと認識するように、着飾るようにしたり、自分自身の下着姿を見えるようにして、恥じらいとかを知ってもらおうとしていたのよ」


「そうだったのか・・・」

 本間君は、そう言いながら、私の肩から手を離す。

「俺はそこまで考えていなかった。知らなくてすまなかった」

 そこまで言って、私に頭を下げてきた。

「ううん。私こそ御免なさい」

「謝らなくていいよ。それに、吉川さんは中山を守ろうとしていたんだからな」

 そんな事を言ってくれるんだから、本間君は優しいよね。

「それでも、結局私は、英奈ちゃんを守る事が出来なかったんだから・・・」


 本間君は首を横に振った。

「そんな事は無いよ。俺なんか、その事に全然気付かなかったんだから」

 そう言いながら、本間君は私に優しい顔を向けてくれる。


「でも、私は英奈ちゃんに、何て言って謝ればいいのか分からないのよ」

 私のそんな言葉に、本間君は答えてくれた。


「謝らなくて良いと思うよ」

「でも・・・」

 本間君は手を前に出して、私の言葉を遮ってきた。


「中山の性格を考えてみろよ。そんな事を言ったって、怒らないと思うぞ」

 ・・・そうかもしれない。しかし、

「でも、そういう危険があるかもしれないって事を黙っていたのよ。私はこれから、どんな顔で英奈ちゃんの前に出ればいいのか分からないのよ」


「それこそ気にしないで、今まで通りに接した方が、中山も嬉しいと思うぞ」

 でも、私は少し不安なの。

「そうかしら?」


 そう答えたら、本間君が自分の髪の毛をガシガシと掻きだした。

 本間君は、何か考え事をしているみたいな顔をしている。

 そうしたら、何かを思いついたような顔をしだした。

 それから、何かを思いついたようだった。

「それならさ。中山の目が覚めたら、最初に謝ればいいよ。それで中山が文句を言ってきたら、いつものように、セクハラして黙らせればいいさ!」


 その言葉に私は絶句してしまった。

 きっと、私は目を丸くしているのだろう。


「そ、それは、それでいいの?」

「いいと思うよ。と言うか、それで普段の状況にしてしまえば、問題無い筈だよ」

 私は戸惑ってしまった。

「な、何か、私がいつも英奈ちゃんをセクハラしている様に聞こえるわよ」

 その反論に対して、呆れたかのような顔をされたのが、不本意だわ。

「いつも、しているだろ?」

「そんな事ないわよ。ちゃんと、いつもは楽しくお喋りとかしているわよ!」


 本間君がヤレヤレという風に肩を竦めているのが、何かムカつくわ。

「そう。その顔の方がいい!」

「え?」

 本間君は、何を言っているの?

「やっぱり、吉川さんは落ち込んでいる顔より、そうやって、表情豊かな顔でいた方がいいよ」

「え?」

 ホントに何を言っているの?

「どういう事?本間君がそんな事言うなんて、どうしたの?」

 本間君は、照れ臭そうに、指で頬を掻いている。

「どうしたのって言われても、きっと中山も俺と同じ事を思う筈だから、そう言っているんだよ」

「そうかしら?」

「ああ、間違いないよ」

 ホントに、英奈ちゃんは私を許してくれるのだろうか?

 そうであってほしいと、私は思うのだった。


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