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霊器の想起  作者: 甘酒
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第11話

 永岡駅の駅前通りを進み、川を横切る為に橋を渡った後に、右に曲がる。

 そこを数百メートル進むと、引っ越し当初に、よく通院していた病院がある。

 その病院の向かい側には、複数のテナントが入っている複合ショッピングモールが建っている。

 今日は、そこに3人で買い物に来ていた。

 まぁ、正確には、この間、僕が血で汚してしまった、布団やパジャマの替わりを買いに来たんだけどね。


「ねぇねぇ、次はあそこのお店に入りましょ!」

 吉川さんが女物の服を扱っているお店を指差した。

「え?でも、必要な物はもう買いましたよ」

 クローゼットの中には、僕がまだ着ていないような服があるのに、こういう服の店に寄って、また新しい服を買うのは、勿体無いと思ったので、そう言った。


 また、吉川さんと、こういう店に来たら危険だと、嫌な予感が告げているのだ。

 こういう時の予感と言うのは、まず間違いなく当たるから、僕は予感と馬鹿にせずに、直感に従うようにしているのだ。


「いいじゃない!さぁ、行きましょ!」

 そう言いながら、吉川さんは僕の腕に、自分の腕を絡ませながら、お店に入っていこうとする。

「ちょ、ちょっと待って」

「何?」

 吉川さんは訝しむように、僕の顔を覗き込んでくる。

「ほ、ほら、あんまり買い物していると、本間君が大変じゃないですか」

 僕は、そう言いながら顔を本間君の方に向けた。

 僕の視線の先には、布団やパジャマの入った買い物袋と一緒に、通路上に備え付けられている長椅子に座っている本間君がいた。

 今回の買い物の為に、本間君は吉川さんによって、荷物持ちに任命されてしまったのだ。


 男にとって女の買い物は苦痛だと、よく言われているから、僕は余り時間をかけないようにしていたし、買い物の量も増やさない様にと思っていた。

 だから、こういう女物の服の買物は嫌がると思って、助けを求める様に顔を向けたんだけど、本間君は顔も上げずに右手だけを上げて、見送るように振ってくる。

「ほらほら、本間君も行っていいと言っているわよ」

「は、薄情者~!!」

 僕は本間君に叫びながら、吉川さんに引きずられて、お店に入っていった。


 そして、お店に入った瞬間に、僕は試着室に入れられてしまった。

「さぁ、ちょっとココで待っててね」

 吉川さんは、そう言いながら僕の服のボタンを外してくる。

「ちょ、ちょっと、何するんですか?」

 僕は吉川さんから逃れようと後ろに下がるけど、こんな狭い場所では、直ぐに壁にぶつかってしまった。

 こんなに狭くちゃ、思うように身体を動かせられない。

 つまり、腕の動きだけで、吉川さんの攻撃?を捌かなきゃならないけど、吉川さんはそんなに甘くない!

 案の定、そんな状態で対抗できる訳もなく、着ている服を剥かれてしまった。

 いつもの事とはいえ、こんな場所では止めて欲しかったよ・・・。


「ちょっと、ここで待っててね」

 そして、僕から強奪した服は、紙袋に詰め込んで、自分だけ試着室から出て行った。

「あぁ~!待って~!返して~!!」

 慌てて僕も試着室を出ようとしたけど、店内の他のお客さん達と目が合った瞬間、自分の姿を思い出し、

「わぁ~~~!!」

 急いでカーテンを閉める。

 こんな下着姿じゃ、ここから逃げ出す事なんか出来ないよ。

 その間に、吉川さんは僕の服の入った袋を本間君に預けていた。


「さぁさぁ!英奈ちゃん!次はコレを着てみてね!」

 そして僕は、吉川さんによって、試着室に監禁?されていた。

 吉川さんが僕に渡してきたのは、薄いピンク色のノースリーブのワンピースだった。

 因みに、吉川さんの左腕には、セーラー服みたいなデザインの服がスタンバイしている。

「よ、吉川さん。も、もうこれ位で休みませんか?」

「もう少し、色々試してみてから休みましょ」

 僕は、精神的に困憊しながら、そう提案したのだが、聞き入れてはもらえなかった。


 もう、時間の経過を認識しなくなるまで、着せ替え人形にされた後、やっと解放された。

 結局、着ていた服は返してもらえず、試着した服を買い、そのまま着てお店を出る事になった。


 今、僕が着ているのは、胸元にフリルをあしらった薄いピンク色のワンピースで、スカートの前部分がミニで、後ろ部分がロングになっている、いわゆるフィッシュテールスカートになっている。そして手首には、ピンク地に水色のラインが入っているシュシュを付けている。


 お店を出て、荷物に埋もれながら待っている本間君の所に2人で向かう。

「おまたせ~!」

 吉川さんは僕の背中を押して、本間君の前に押し出す。

「どう?似合うでしょう!」

 僕は少し恥ずかしかったが、一応、気になったので聞いてみた。

 隣では、吉川さんが何やらドヤ顔になっている。

「どうかな?似合うかな?」

 僕の言葉に、本間君は、

「・・・・・・、ん~、まぁ、似合うんじゃないかな?」


 そんな事を言ってくれた。

 でも、その顔は、少し汗を掻きながら、困ったような、困惑したような顔をしていた。

 やっぱり、ホントは似合ってないと思っているのかな?


 さっきの試着室で、ほんのちょっとだけ、似合うかな?可愛いかな?と思って、軽くポーズをとっていたのを思い出して、恥ずかしくなった。




 買い物が一通り終わったので、僕は2人の方に顔を向けた。

 家に帰る前に、ちょっと寄って欲しい所があったからだ。

「ねえ、帰る前に行きたい所があるんだけど、ちょっと寄っても良いかな?」

 吉川さんと本間君の2人は、不思議そうな顔をして、僕の顔を見てきた。

「ええ、いいわよ。何を買いたいの?」

「中山は何処に行きたいんだ?」

 2人はそんな事を聞いてきたので、僕は素直に答える事にしたんだ。

「え~とね、ホビーショップ」

「「・・・・・・え?」」

 僕の発言に、2人は豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔になっていた。

 何で、そんな不思議そうな顔をするんだろうね?


「な、何でそんな所に行くの?」

 吉川さんの言葉に、本間君までが、頷いている。

「何でって、私は子供の頃からプラモデルを作っていたの。で、ここ暫くは作っていなかったから、久々に作ってみたくなったんだよね」

 僕はそう言ったんだけど、2人は不思議な物を見るような顔をしていた。

 僕がプラモデルを作っていたのが、そんなに不思議な事なのかな?




 ショッピングモールから、数百メートルばかり離れた場所に、大型電気店の中に、オモチャ等を扱っている店がある。チェーン展開しているこの店は、ゲームやオモチャ、プラモデル等が売っているのだ。

 特にプラモデル等は、常に価格が2~3割引きだったので、給料の安かった当時には、とても重宝していたんだ。

「それじゃあ、ちょっと見てきますね」

 僕は2人に向き直って、そう言ってから、お店に入ろうとしたんだけど、2人の顔つきが変だった。

 吉川さんは、何やら不機嫌そうな顔になっていた。

 それに対して、本間君は何やら安堵したような顔になっていた。

 何で、2人はこんなに対照的な表情になっているんだろうね?

 まぁ、気にしてない方がいいのかな?


 このお店に来たのは、久々だけど、やっぱりこの雰囲気はいいよな。

「さ~て、何を買おうかな?」

 僕はプラモデルの中でも、特にガ●プラを買っていたんだ。

 今日はガ●プラを買ったら、どうやって作ろうかな。

 ニッパーやカッター、ヤスリに紙ヤスリの工具類。

 それに、接着剤に各種塗料、うすめ液などの塗料・薬品系。

 それらを、実家から持って来ようかな。それとも、新しく買おうかな?


 店に入って、直ぐにプラモデルのコーナーに行こうと思い、棚の商品を見ながら通路を進んでいたら、あるものが目に入った。

 それは、一言で言ったら、クマのヌイグルミだった。

 40センチ位の大きさだけど、薄茶色の胴体と、全体的にディフォルメされた容姿は丸っこくなっている。

 頭は丸く、その目の所にあるプラスチックパーツは光沢があり、その様はまるで、つぶらな瞳のようだった。

 足は短く、立てる様にはなっていないが、座る姿勢には似合っている。

 手も短くて、肘らしいものは無く、直ぐに手の平があった。

 その手の平にある肉球が丸くて、触ってみるとプニプニとしていた。

 今まで、あまり気にしていなかったけど、あらためて見てみると、その姿が凄く・・・・・・、


「可愛い!!」


 見ていて何か気に入ってしまった。

 プラモデルと一緒に買おうかと思って、値札を見てみる。


 ・・・・・・・?

 ・・・・・・・?

 4980円?


「たかっ!」

 こんなに高いの!?

 コレって、安めのガ●プラのマスタ●グレードだったら、2つは買えてしまうよ。

 どうしようか?

 ちょっと欲しいけど、ガ●プラも欲しいし・・・・・・。

 でも、ガ●プラはいつでも買えるしなぁ。


 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 よし!決めた!!



 その後、レジを済ませ、店を出て、2人の前に戻っていった。

 そうしたら、2人は僕の姿を見た瞬間に、また表情を変えてしまった。

 本間君は、不機嫌そうな顔になっていた。

 そして、吉川さんは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 僕の手には、買い物袋が握られていた。

 その中には、さっきのヌイグルミが入っていたのだ。



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