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霊器の想起  作者: 甘酒
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第10話

「ん~?36度8分?。微熱よね~。風邪とは違うのかしら?」

 吉川さんは僕から受け取った体温計を見ながらそう言った。

 この間の御霊との戦いから、3日が経っていた。

 僕は、朝から体中が怠かったのだけど、眩暈がして、少しよろめいたら、吉川さんによって、ベッドに放り込まれた。


「とりあえず今日は、私は家に居るから、英奈ちゃんは大人しく寝ている事」

 僕は余り役に立っていないのに、それは申し訳ないよ。

「吉川さん。そんなに気にしないでください。私なら起きれますから・・・」

「駄目よ!大人しく寝ていなさい」

 吉川さんは凄く優しげな表情で、僕の頭を撫でてくる。

 こんな様子の時の吉川さんは、物凄く人を安心させる。

 これがきっと、母性本能によって為せる行動の結果なのかな?

 僕には、絶対こんな事出来ないよな。


 こういう態度を取る時の吉川さんは、絶対に譲らないだろうから、ここは厚意に甘えておこうかな。

「はい。迷惑かけてすみません」

「うん。素直でよろしい!」

 そう言った吉川さんは立ち上がり、部屋から出ていこうとしていた。

「たまに見に来るから、ちゃんと寝ていなさいね」

 そう言いながら、部屋のドアを閉めて行った。



 大人しく寝ていろと言われたけど、怠いだけで眠気がある訳でもないから、こういうのは、好きじゃないんだよな。

 こういう時って、ベッドで寝ているだけと言うのも、やる事が無いし、思考が回転していないのに、色んな事が頭に浮かんでくるんだよね~。

 例えば、この間の御霊との戦いの事とかだ。


 僕が無謀な行動を行なったから、戦いの後に、吉川さんからのお仕置きを受けたんだけど、ソレは『ある意味』において、苛烈を極めた。

 お仕置きによって、僕は心が折れるんじゃないかと思った事が、数知れない位あったけれど・・・・・、

 僕は耐えた!

 耐えたんだよ!

 僕は男の矜持を守り切ったんだ!


 それから、


 戦いの最中にあった出来事を思い出すとか。

 私に振り下ろされる鎌は、槍によって阻まれた。そして、私を護る為に槍を突き出していた姿。

「恰好良かったなぁ、本間君」


 そして、


 私の前で、真似できない位に、とても凄く集中し、御霊を鎮める為に、弓を引き鳴らしていた姿。

「素敵だったなぁ、お姉様」


 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・


 ちょっと待て!

 僕は何を口走った!?

 鳴弦ノ儀を行なっていたのを、凄いとは思ったけど、素敵なんて言い方は女の子みたいじゃないか!

 いやいやいや、あり得ないって!

 お姉様って言い方だって、女の子が慕っている女性に言っているみたいじゃないか?

 僕は『百合』に目覚めたわけじゃないんだぁ~!

 僕はまだ心は男なんだから、それは有り得ないよ!

 そ、それに、忘れていたけど、本来は僕の方が年上なんだから、お姉様って言うのは変だよ!



 そ、それに、



 本間君を恰好良いと思ったのだって、憧れていたからであって、変な事は考えてないよ。

 ぼ、僕は『薔薇』にも目覚めていないんだぁ~!

 あ、憧れていたって言うのは、シチュエーションに対してであって、それだって、立場が逆だよ、逆!

 僕は女の子を助けるヒーローの役どころがいいのであって、助けられるヒロイン役じゃないんだぁ~!



 頭を抱えて悶えていたら、ベッドで寝ていた筈なのに、疲れてしまった。

 そして、お腹に何か重い痛みを感じる。

「はぁ、馬鹿な事を考えていたら、お腹まで痛くなってきたよ。大人しく寝よ」

 布団を直そうとしたら、股間が濡れた感触があった。


 ・・・まさか、オネショ?

 この年齢としになってオネショ?

 オネショ、おもらし、粗相、失禁、どの言葉で表現しても御免こうむる。

 マジで勘弁して!


 僕は、恐る恐る布団を捲ったら、赤かった!

 パジャマの股間の部分と、布団が赤く染まっていた。

「わあぁぁぁ~!」


 バタバタバタバタバタ!

 バン!


「英奈ちゃん!どうしたの?大丈夫?」

 吉川さんが僕の部屋のドアを開けると同時に、そう言ってきた。


「お、お姉様、お姉様。血、血が、血が~!」

 私の言葉に、お姉様が訝しげに私を見、そして、布団に付いた血を見た。

 そしたら、合点がいった様な顔をしたと同時に、笑顔で私を抱きしめながら、言ってきた。

「英奈ちゃん、おめでとう!!」

「え?」

 何を言っているの?

「女の子の日よ」

 吉川さんの言っている事が理解できない。

「女の子の日?」

「ええ。これで、英奈ちゃんは名実共に立派な女の子になったのよ」

 吉川さんの言葉が、徐々に、徐々に、ゆっくりと、僕の中に浸透するように理解していった。

 そして、それと共に僕の顔が赤くなっていった。

 つまり、女の子だけにある、一か月に1回ある日。

 人によっては憂鬱になる日。

 男性には絶対に分からない日。

 そう、

 男性には絶対に分からない日。


 それを、僕は体験してしまった日。

 そう思うと、僕の顔が青くなっていった。


 僕の中にある、とても小さくなってしまった何かが、また少し欠けてしまった様な気がした。



 それから直ぐに、替えの下着とパジャマを用意し、着替えると同時に、吉川さんから色々と、必要な事を教えてもらった。

 その後は、学校の保健体育で男子学生は絶対に受けないが、女子生徒は必ず受ける講義を聞かされる事になるとは思わなかったけど。




 その日の夕食は、吉川さんが作ってくれた。

 鯛のお刺身、牛肉のステーキ、カキフライといった、栄養バランスと彩りは、トコトン無視するが、妙に豪華なオカズの数々。

 そして、それらに負けずに、妙な存在感を放っているアレ。

 本間君も気になっているのだろう。

「なぁ、なんで赤飯があるんだよ?」

 その言葉に、僕は赤面すると同時に、顔を俯かせてしまう。

 代わりに、吉川さんが笑顔のまま、それに答えている。

「それはねぇ、英奈ちゃんが初ち・・・」

「なんでもないから!!」

 僕は吉川さんの言葉を遮るように叫んだ!

 全く、何てことを暴露しようとするんだか。

 やっぱり、お姉様と言うのは止めよう!

 何と言おうと、「吉川さん」と言い続けてやる!


「なぁ、ホントに何が・・・」

 事態を飲み込めていなさそうな本間君が、何か言いそうだったので、ジト目で黙らせる。

「ホントに何でもないから、何も聞かないでね」

 一応、ご馳走の前で喧嘩もしたくないから、僕は微笑みながら言う事にしたんだけど、何故か本間君は汗をかきながら、全力で顔を上下に振っていた。



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