第9話 side 本間和也1
俺の家は、先祖代々、退魔を生業としている家柄だ。
今回、御霊に対するチームが出来るという話が上がり、俺がそのチームに参加する事になり、この家に来た。
そこで聞いたメンバーなんだが、1人は吉川さんだ。
こっちは以前から面識があるし、実力も知っているから良いのだが、問題はもう1人だ。
どうやら、元々は一般人だったらしい。
しかも、元は男だったが今は女になったらしい?
なんだそれ?オカマなのか?
しかも吉川さんが言うには、可愛いらしい。
そんなの信じられるか?
それなのに、吉川さんはしつこく言ってくる。
「だから、可愛いんだって!」
だから、俺はこう反論する。
「そんなの信じられないって。男が女になったって、可愛くなるなんて思えないって。しかも、40代のオッサンなんだろ。気持ち悪いに決まっているよ!」
その後、吉川さんが帰ってきたその女?を紹介すると言って襖を開けたら、そこには年下のような少女が立っていた。
ちょっと待て!
なんだ、その女みたいな丸顔は何だ?
髭の剃った跡はどこいった?
男らしい肩幅はどうした?
男特有の喉仏はどこいった?
俺はあまりにも想像と違う外見に反応できずにいた。
そして、その少女?は、赤くさせた顔を下に俯き、ワンピースのスカートを握り締めながら恥ずかしがっていた。
何だ。その恥じらう様な姿は?
俺の知っているクラスの女子とは、よく言えば遠慮のない関係だ。悪く言えば馴れ馴れしい。
だから、遠慮したり、恥じらう女とかは、創作物の中にしか居ないと思っていたのに、目の前の少女?は俺の今までに会った女とは全然違っていた。
しかも、後で分かった事だが、料理も出来るらしい。
いきなり、冷蔵庫の材料でソースなんか作ったりしているし、かなりの腕前なのだろう?
なんせ、俺の周りにいるクラスの女たちは、お湯でレトルトを温める位しか出来ないとか言っていたし、この差は何なんだ?
今も昼飯と言って、残り物の冷や飯からチキンライスを作り、それを卵で包んで、オムライスを作ったりしている。
そんな時、帰ってきた吉川さんが叫んでいた。
「あ~!英奈ちゃん!何そんなエプロンをしているのよ!」
・・・また始まった。
どうやら、吉川さんは中山を完璧な女にするつもりらしい。
今でも十分だと思うんだけどな。
「吉川さん!私はこのシンプルなエプロンでいいですよ。と言うか、そんなヒラヒラ全開なエプロンなんて嫌です!!」
「何言っているのよ。そんなシンプルなエプロンは英奈ちゃんには似合わないわよ」
「そんな事は無いですよ!」
・・・吉川さんの空気が変わった。
「そう・・・、なら実力行使するしかないわけね?」
あ、中山の顔が引きつっている。
一歩、後ずさっているな。
「いいから、着替えなさい!」
吉川さんが中山に襲い掛かった。
中山が吉川さんの手を弾く。
吉川さんは、その弾く手を逆に掴み、捩じってくる。
中山は、それを腕を「の」の字を描くように回転させて、掴んでいた手を外すとともに、吉川さんの腕をつかみ返す。
吉川さんは、その伸びきった中山の腕を取り、その腕ごと、中山の身体を捩じって投げようとする。
中山は自身の身体を更に捩じって態勢を整えようとした所を足を払われて、盛大に倒された。
・・・これは決まったな。
吉川さんは、中山の倒れた瞬間にエプロンの紐を解き、中山が離れながら起き上がる動きに合わせて、ワンピースを掴み取った。
そう、エプロンごとワンピースを掴み取ったのだ。その状態で起き上がりながら離れる動きを取れば、どうなるかは必然だろう。
「え?」
中山は後ろに下がった拍子にワンピースが脱げた事に驚き、一瞬動きが止まった。
吉川さんは、その一瞬の隙を逃す事なく脱げたエプロンをワンピースごと剥ぎ取ってしまった。
「ひゃあ!?」
吉川さんは勝ち誇ったようなドヤ顔でエプロンを掴みあげた。
「これでこのエプロンは私が預かっておくわね。」
中山はワンピースを取られた事で身体を隠すように丸めていた。
「さあ、英奈ちゃんには選択肢をあげるわね。1つ目は、私の用意したエプロンを着けるか、2つ目は、このまま私に剥かれて、裸エプロンを披露してくれるかよ」
中山は冷や汗を掻きはじめた。
「さ!どっちにする?」
そんな選択肢なんて、悪魔か!?
「よ、吉川さん。わ、分かりました。分かりましたから~!!」
中山は顔を真っ赤にして叫んでいた。
ふむふむ、上下とも水色か。
結局、吉川さんの用意したヒラヒラ全開のエプロンを着けた中山は、顔を真っ赤にしながら、吉川さんの分のオムライスを用意し、今は全員で昼食にしている。
「まったく!吉川さんは、男子のいる前で服を脱がすなんて、何を考えているんですか?」
その小言を、吉川さんは悪びれた様子も見せずに
「まあまあ、似合っているんだからいいじゃない!」
「それにしたって、やり方があるじゃないですか!」
中山は、ジト目で吉川さんを睨んでいた。
吉川さんはその視線を物ともせずに、ニヤニヤした顔をしていた。
「それに、本間君だって、眼福だったでしょ?あんなにガン見していたんだから」
ゴホッ!
・・・こっちにまで火の粉を飛ばすのは止めてくれ。
そして、御霊討伐任務の最後の時。
さっき、中山が何かを言っていたような気がしたが、今はそれよりも、俺は中山の行動が許せなかった。
「この!・・・馬鹿野郎、何考えているんだ!!」
俺は感情のままに、中山を怒鳴りつけていた。
「な、馬鹿ってなんだよ!」
耳を塞ぎながら中山が言い返してきた。
「馬鹿を馬鹿って言って何が悪い!」
「何でそんなに馬鹿馬鹿言われなきゃいけないんだよ!」
「そんな事も言われなきゃ分からないのか?戦闘中は常に周囲全てに意識を向けていなければならないんだぞ。なのに、何も考えずに走る馬鹿がいるか!」
「仕方ないだろ!走らなきゃ男の子の所に間に合わなかったんだから!」
「仕方なくないだろ。もっと優先準備を考えて行動しろって言っているんだよ」
「それは、男の子を見殺しにしろって言うのか?」
「そんな事言ってないだろ」
「同じ事だろ!男が女子供を護るのに理由は要らないだろうが!」
「・・・そうか、そういう事なのか」
・・・俺は今まで、中山の姿に惑わされてしまっていたらしい。
俺は、中山のその言葉の中に漢を感じた。
そして、中山の考えが分かってしまった。
中山は女になってしまった。
しかも、言葉使いまで直させられている。
その内、思考まで女性化してしまうのかもしれない。
それでも!
いや、だからこそ!
その心意気と言うか、覚悟と言うか、想いだけでも遺そうと思っているのだろう。
俺に、そこまでの心意気があるのか?
俺は、その覚悟に勝てるのか?
正直、自信が無い。
だが、それを口に出すのは負けを認めるかのようで、言えなかった。
だから、こういう風にしか言えなかった。
「まあ、言っている事は古臭いけど、嫌いではないよな。その考え方は」
俺は顔を向ける事が出来ず、顔を背けながら、そんな事を言ってしまった。
そんな事を言ってしまった俺は、後悔した。
そして、アイツに負けたくはないと思った。
心身ともに男の俺が、心意気で負ける訳にはいかないのだ!
アイツの仲間として、恥ずかしくないようになりたい。
その為には、もっと頑張らなければ!




