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砂の丘、銀の墓標  作者: 潮見若真
第二章 ヤマトの村
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11.経路

「十二回の満月のごとに一度、おれたちツルミはシンジュクに商売に行くんだよ」

 ミツが言う。


「シンジュクに、取引のできる人間がいるの? どんなヤツ?」


 重ねて聞くハルに、ミツは気圧されたように、


「どんなヤツって、そりゃ……直に人間に会ったことはないんだよ。」

「人に会ったことがない?」


「ああ。門に品物を置いて、立ち入りを許されてる場所に入る。その場所からだったら、何を持っていってもいいって約束になってるんだ。おれのじいさまのじいさまよりも古い時代からの商売相手だよ」


「持っていくって……何を取引するの?」

 ハルが首を傾げると、ミツは少し考える風に口を歪めて、そして続けた。


「おれたちツルミってのはな、そこいら辺の畑や牛や馬を育てている村とはちょっと様子が違って。工業を商売の中心にしているんだ。ああ、海が近いんで、海産物も出してるけどな。昔の時代にあの場所にあった工業製品や部品が、ぼちぼち発掘されるんだよ。普段はその部品を売ったり、新しい製品を作って売ったりして周囲の村と取引している」


「ふうん……」


 ハルの知る二〇六〇年代には到底及ばないものの、この世界にも機械と言っていいものはそれなりにある。ツルミをはじめ、そういった工業で生計を立てている村もあるということか。


「シンジュクにはツルミよりも良い部品がわんさかあるから、こちらの海産物やなんかを持ってって交換するんだ」


 想像した通り、シンジュクもどこかの村と商売をしているのだ。


(周辺の村には評判が悪いから、あえて遠くのヤツらと取引してんのかな)

 それは笑い話だ。

 ちゃんとしたご近所付き合いをしていれば、周囲の村々から孤立することはなかったというのに。

 考えていると、不思議そうにこちらを見つめているミツと目が合った。


「だけど、どうしてそんなことを聞くんだい?」


「あぁ、えっと……ここの周辺の村は、シンジュクと商売をしてないって聞いてて。だからみんなシンジュクのことを知らないんだけどさ。もしもそこまで閉鎖的なとこじゃなくて、どこかの村と商売をしているんだったら、その……この村も、取引できないかって思ったんだ」


 相手を警戒させないための――役に立っているのかどうかは分からないが――中途半端な笑顔を作って、


「それは……近いだろ? こことシンジュクは。商売の相手になるなら、楽じゃない? ああ、ツルミの商売をジャマしたりはしないよ。別のものを商材にする」


 ミツはまだ不思議そうな顔をしながらも、一応は納得したように「ふうむ」と息をついた。


「あんたはこの村の、客だって言ったな」

「うん。世話になってるからね。いい取引相手が見つかれば、ちょっとは恩を返せる」


「そうだなあ」

 中空に目をやって、ほんのわずかの間、考える表情をとったミツ。ハルの脇に立っているシマと、もう一度目を合わせて。


「ま、別にはっきり口留めされてるわけじゃないし、あんたは命の恩人だからな。話してもいいよ、シンジュクへの経路」




 あのドーム型の都市には、南に位置する正面玄関――彼らは通ったことがないけど――のほかに東西南北に通用路的な地下通路がある。

 ――ただし彼らが使用している西の入り口以外の情報については、彼らの中でも「伝説」と言ったほうがいいレベルの不確かさではあるが――。


 ミツは、そう語った。


 前時代にできた通路の名残らしい。

 都市の出入り口から少なくともおよそ一、二キロに及ぶと思われる、地下通路。

 かつての地下鉄と、それに並行する地下道の通っていた道だろうと、ハルは想像した。ことによると、もっと先まで繋がっているのかもしれない。ハルが出てきた地下通路は、「中野坂上から西は崩落が激しい」とたしかトキタは言っていたから、本来はその先もあるのだ。


 そのほかに、東西に一本ずつ、ドームの外壁を伝うようにして階段状に続く非常用回廊。それらがツルミの男たちが知る限りの都市への出入り口だが、メインゲートと非常回廊の入り口は、ほとんど開くことはなく、外側からアクセスすることはできない。


「満月の、十五の月の日に、西の地下通路のドアが開く。ほかの入り口はよく知らねえ。その日の夜明けから日没までの間、周辺の哨戒のやつらがどいて、隊商が地下通路を通って都市の入り口まで近づけるんだ」

 ミツは秘密を打ち明けるような小声で言う。


「ただし、南北の哨戒はあるよ」シマが続ける。「それと鉢合わせねえように気を付けて行くんだ。地下通路の入り口まで、昔の街道の名残でかすかに道の跡が残ってるんだよ。だいぶ砂に覆われていて、よっく探さないと見失っちまうけどな。入り口のある廃墟が見え出したあたりからずっとその道をたどってけば、安全に中に入れるはずだ」


「おれたちツルミはさっきも言ったように、十二回ごとの十五の月の日に、そこへと行く。何度も通っているが、ほかの商売の連中と顔を合わせたことはない。たぶん商売でそこを訪れるもんは、ごく少数なんだろうな。もっとも西側しか使ったことがないから、ほかの出入り口は分からんが」


「地下通路の中には人はいないから、ドアまでは簡単につけるだろう。ただ、ドアは開いちゃいるが、内部がどうなってるかまではおれたちは知らないんだ。むかーしっから決まった場所に行ってブツを交換して帰るだけだからな」


 十分だ。

 その入り口で、トキタは待っていると言ったのだから。


 満月の日に、都市への入り口が開く。


 あの日が本当に十五夜だったかと言われるとはっきり分からないし、時間の約束もしていない。が、トキタにしたって、ハルが外の世界に出て正しく日数を数えられるとは思っていないだろう。彼は具体的な日付を指定するわけではなく、百八十日と細かい日数を刻んでくるわけでもなく、ただ漠然と「半年後」と言ったのだ。前後数日の間にあの場所に行けばどうにかなるのかもしれない。それだったら――。


 次の満月の日。


 哨戒ロボットも所払いをさせられるという日の出から日没までの間にあの地下通路を通って都市に行く。




「ハル、出かけるのか?」


 ツルミの客に礼を言って外に出たハルに、斜向かいの建物からグンジが声を掛けてくる。


「仕事に行くよ。今日は畑でいいの?」

「ああ。ツルミの客を見舞ってきたのか?」

「うん」

「だいぶ良くなっただろう」

「うん。もう普通に話せたよ」


「そうか」

 そこで思いだしたようにグンジは、「ああ」と声を高くした。

 

「ずっと言おうと思ってたんだが、やはり村の外に出るときは近距離でも銃を持ち歩け。こないだのツルミのやつらはたまたま敵じゃなかったからいいが、盗賊だってざらにいるんだ。知ってるだろう? 毒虫が出るかもしれないしな」


「うん……」

 頷いて、ひとつ思いつく。

「グンジさん、拳銃もある?」


「ああ? まあ、あることはあるが、狙いにくいし射程も短い。砂漠ではあまり役に立たないぞ」

「うん、だけどまだ慣れなくて。馬に乗りながらだと、両手は離せなくてさ」

「そうか……? 分かった、両方持っていけ」

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