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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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82/119

82 治療開始

 翌朝、扉をノックする音でナーニョは目が醒めた。どうやら修道女が朝食を持ってきてくれたらしい。


 ナーニョは朝食を受け取った後、素早く着替えて朝食を摂る。


「おはようございます。今日も天気が良くて良かったです」

「ナーニョ様、おはようございます。では出発しましょう」


 エサイアス様たちと共に街を出て、森に入っていく。この辺りは人間の膝丈程度の小型の魔獣が多いようだ。


 各々が魔獣を討伐している。これだけ魔獣が多いと街で専門店ができるのも不思議ではない。


 商売になっているのだから、騎士たちが狩っては駄目ではないかと考えた。


 だが魔獣は商会の馬車に突撃したり、食糧を奪おうと襲ってきたりするのでいなくなった方がいいのだとか。それに異次元の空間ができる限り魔獣はいなくならない。仕事がなくなるわけではないようだ。


 ただ、今回退治した魔物は集めて村の入り口に置いていて欲しいと要望が出た。


 魔獣専門店の店主から大きな手押し車を借りたので騎士たちは倒した魔獣をその上に乗せていく。半日だけで三十は倒しただろうか。


 騎士たちは怪我することなく倒していく。


「まだまだいるが、今日はこれくらいにしよう」


 エサイアス様の言葉で街へと戻った。街の入り口には店主がホクホク顔で出迎えてくれていた。


 金額は下がるらしいが全て買い取りという形でお金を支払ってくれた。


「ありがとうございます。これは商業ギルドからの心付けです」

「感謝する」


 肉は食堂や精肉店へ、素材は魔獣専門店に並ぶそうだ。


「隊長、その謝礼で肉が食いたいです!」

「「そうだ、そうだ!」」


 一人の騎士がそう言うと、他の騎士たちも同調するような声が聞こえてきた。


「仕方がないな。肉を少し多めに発注しておく」

「「おおー!」」


 エサイアス様はふっと笑顔になり、騎士たちも思わぬ臨時収入に笑顔が溢れている。


 こんなに多く狩ったら肉は余るんじゃないかと思っていたが、そこは商人魂が炸裂。


 燻製にしたり、塩漬け、ジャーキーを作ったりして長期保存が利くようにするのだ。


 今まで街で消費するためだけに狩られていた魔獣は私たちが討伐したことで王都に珍しい食材として入ってくるのもあるかもしれない。


 私はエサイアス様と食事をした後、神殿へと戻る。今日から神殿で治療を開始する。


「ワット神官、お待たせしました」

「ナーニョ様、こちらです」


 神官は笑顔で手を振りながら迎えてくれ、そのまま応接室のような部屋へと案内された。



 縦長の大きなガラス窓から光が射しこみ、いくつものタペストリーが飾られているその部屋はローテーブルを囲むようにソファが置かれ、ゆっくりと話をすることができるようになっていた。


 そしてそのソファに座る三人の人物。一人は商会長、あとの二人は身体に欠損がある人だ。三人は私を見るとすぐに立ち上がって深々と礼をする。


「ナーニョ様、今日は怪我人を治していただけると聞いてきました。私は商会長のヨモフです。今日はよろしくお願いします」

「ご足労頂きありがとうございます」


 ワット神官は私の隣に座り治療の様子をしっかりと見届けるようだ。


 どうやら商会長の話では怪我をしている人は多く、本当なら全員に治療を受けさせたいが、人数が限られているので手や腕を失くした人を優先して治療してほしいそうだ。


 今回連れてきた二人は商会で働いている二人だそうだ。二人とも他の街へ荷物を届ける途中に魔獣から攻撃を受けて怪我をしたようだ。


 一人は右手首から下がないのと、左足もひざ下から義足になっている。もう一人は右腕の付け根からないようだ。


 神に縋りたい一心で今日この場に来たらしい。


「治療をはじめるにあたって、何か質問はありますか?」

「「いえ、ありません」」


 二人とも真剣な表情でうなずく。私は立ち上がり、向かいにいた義足を付けている人の前に立ち、肩に手を当てて魔法を唱える。


 ゆっくり怪我人の身体を魔力が巡り、じわじわと手と足が生えはじめる。その様子を見ていた商会長の見開いた目は今にも零れ落ちてしまいそうなほどだ。


 待っているもう一人の怪我人も凝視している。やはり彼も驚きで言葉が出ないようだ。


「治療が終わりました。違和感はないですか?」


 カランカランと落ちた義足。ワナワナと震える両手を見て声が漏れる。


「あ、あぁぁ……。う、うぅ」


 声にならないようだ。そして彼の目から涙が溢れると同時に嗚咽を上げて泣いている。商会長はその様子を見て目を真っ赤にしている。


 ここまでくるのに様々なことがあったのだと思う。

 それこそ言葉にできない苦労が多かったのだろう。


「ナ、ナーニョ様。ありがとうございます。ザレンもみてやってくれますか……」

「分かりました。ザレンさん触れますね」


 普段私は治療する人たちの名前をあえて聞かない事にしている。それは治療する上で個人に思い入れがないようにするため。


 自分に近い人であればあるほど丁寧な治療したいと思ってしまう。個人を知れば治療に差が出てしまうかもしれない。その思いがあるから名前を聞かないようにしている。


 私はザレンさんの肩に手を当てて治療を始めた。


 彼は腕以外特に問題はないように思える。ゆっくりと生えてくる腕。萎んでいた服の袖がゆっくりと持ち上がっていく。その様子を見てザレンも言葉を失っているようだ。


 ……魔力を流してふと気づいた。


 いや、きっと間違いかもしれない。私は口を閉じる。


「……本当、なのか……? 夢じゃ、ない、よな? 商会長、見てくれよ。俺、俺の手は見えるか?」

「あ、ああ。ザレン。見えている、夢じゃない」

「あぁ、ナーニョ様!!! あ、ありがとうございます」


 ザレンさんは地にひれ伏しそうなほど頭を下げている。


「いえ、私は私のできることをしたまでです。……ごめんなさい。少し魔力を使いすぎたので少しの間、退室させていただきますね。」


 私はそう軽く答えて一礼して部屋を出た。


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