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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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79 安堵

 部屋をウロウロしてみるけれど、彼の状態が良くなることはない。不安で怖くなって先ほど治療した騎士たちの部屋へ駆け込んだ。


「あ、あのっ。体調はどうですか?」

「ナーニョ様? 治療を受けてからなんとなくですが、身体中を毒が回っているような感覚は無くなったような気がします。だるさは残っていますが」

「!! 本当ですか!? 分かりました」


 一人の騎士がそう言うと、確かに、と他の騎士たちも同意をして頷いている。その言葉を聞いた私は、走ってエサイアス様の元に向かった。


「エサイアス様、魔法を使いますね」


 勢いよく部屋の扉を開けた私は、そのまま魔力を彼に向けながら駆け寄った。


 私の目に映る光は先ほどと同じように様々な色が浮かび上がった。先ほどの騎士たちよりも色が濃い。


 菌の勢いが強いということなの?


 エサイアス様は菌に負けようとしているの? 私は震える手をギュッと彼の手に重ねた。


「エサイアス様、負けないで『トエモノストロ』」


 呪文と共に菌は死滅していく。私はすぐにヒエロスの指輪に付け替えて、彼に魔法を掛けた。


「……ナーニョ、様?」

「エサイアス様、気分はどうですか?」

「すっきりした感じだ。先ほどまで身体が重くて息苦しくてもう駄目かと思っていたんだ。ナーニョ様の魔法のおかげでこの通り元気になった」

「う、うわーんっ。良かったっ。エサイアス様が元気になったっ」


 さっきの不安や恐怖、緊張の糸が切れて安堵の涙が溢れ出た。エサイアス様は私をぎゅっと抱きしめた。


「俺はもう大丈夫。大丈夫だから泣かないで」

「だって、だって、死んじゃうかと思ったの。またあの時のように私の前から居なくなるんじゃないかって」


 エサイアス様は身体を離した後、私を隣に座らせ頭を撫でた。大丈夫、大丈夫と優しく。


 私は彼がいなくなってしまうんじゃないかという不安と、私の魔法で元気になった安堵感で涙が溢れたが、ようやく落ち着きを取り戻した。


「エサイアス様、ごめんなさい。もう大丈夫です」

「良かった。いつもナーニョ様は我慢して溜め込んでしまっているんじゃないかと心配していたんだ。無理はしないで欲しい。俺はナーニョ様を心配しているよ。さぁ、涙も止まったかな?」

「……はい」


 私は眉と耳をへにゃりと下げながらも微笑んだ。


「そうだ! こうしていられない。エサイアス様の病気も治すことができたのだし、他の方もきっと待っていますよね。いつまでも泣いていてはいけないですね。すぐに他の方にも魔法をかけてきます」


「あ、ああ。急がなくても大丈夫、じゃないかな? 騎士たちはみんな強いからね」

「でも、苦しんでいるでしょうから行ってきますね! エサイアス様はゆっくり休んでいて下さいね」

「あぁ、ありがとう」


 どことなくエサイアス様は残念そうな顔をしている。


 自分が病気で騎士たちの顔を見られないことが残念なんだろう。


 エサイアス様のためにも早く他の騎士たちを治さないといけない。


 私は先ほどとは違い軽い足取りで騎士たちの部屋を再度回っていくことにした。


「ナーニョ様、どうされたのですか?」

「先ほど王宮から届いた新しい指輪の効果を確認したの。今から治していきますね。そのまま寝ていて下さいね」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 私は先ほどと同じように魔法を掛けていく。


 一部屋に六人しかいないので一回で消費する魔力はあまりない。


 同じ病室にいる元気な騎士もよく見れば症状が出ていないだけで菌は身体をじわじわと蝕んでいるようだ。


 もちろん全て死滅させていった。半分の騎士たちは治療を終えた。


 あとの半分は部屋から出ないように話をする。半数の騎士が動けるようになればかなり違うだろう。


 翌日は残りの騎士たちの治療をした。その後、神殿に様子を見に行くと、神父たちは体力が回復したとはいえ、やはりまだ病に苦しんでいる様子だった。他の人たちも同じようなものだ。



 次の日、騎士たちはしっかりと静養した後、ようやく遅れた魔獣討伐の計画を立てているようだ。


 私は神殿に赴き、改めて病気を治す魔法ができたことを説明し、神殿にいた人たちに魔法を掛けた。


 どうやら各家庭でまだ寝込んでいる人たちもいるようで病気が治った人たちは彼らに神殿に行くように勧めると言っていた。


「聖女ナーニョ様、感謝しかございません。本当にありがとうございます」

「神父様、私は聖女ではありません。この魔法を作ってくれたのは王宮の研究員です。感謝するのであれば研究室にお願いします」

「はい!」




 治療を行い始めて一週間が過ぎようとしている。


 ようやく街は人が出歩き、活気も取り戻しつつある。騎士団も順調に魔獣を討伐しており、順調そのものだった。


 病が流行った時に魔獣が街に入り込まなかったのは、本当に幸運だった。


「ナーニョ様、この後、次の街に移動されるのですよね?」

「はい。その予定になっています」


「カールカールの街は過去に異次元の空間が街の外にできたのです。なんとか退治はしたようですが、街の人は身体の一部が欠けている者が多いと聞きました。どうかあちらの街に行った時、一人でも多く救ってはいただけないでしょうか?」


「そうなのですね。私の魔法では限界もありますが、一人でも多く治療できるように頑張りますね」

「よろしくお願いします」


 神父がこれほどまでに次に向かう街の人たちを心配しているのはきっと家族か誰かがその街にいるのだろうか。


 私は疑問に思ったけれど、神父の様子を見て深く聞くのをやめた。


「ナーニョ様! ナーニョ様のおかげでお母さんも妹も良くなったんだ」


 井戸の場所を教えてくれた少年が駆けてきた。あの後、やはり少年も病に罹ったけれど、近所の人たちから家族で神殿に向かうように言われて神殿に来て私の魔法を受けたのだ。


 数日静養したおかげでみんな元気に過ごしていると言っていた。本当に良かった。


「元気になって良かった。あの時は井戸の場所を教えてくれてありがとう。あの時教えてくれていなければ一日中探し回っていたわ」

「役に立って良かった! ナーニョ様、またこの街に来てね! 絶対だよ?」

「ふふっ。次来たときは観光案内してね」

「うん! 絶対だよ!」


 街の人たちと話をした後、畑に魔法を掛けて騎士たちの元に戻った。


「お待たせしてすみません」

「大丈夫だよ。しっかりと別れを済ませてきたのかな?」

「はい」

「では出立!!」


 こうしてナーニョたちは晴れやかな気分で街の人たちに手を振られながら無事にノダンの街を出発した。


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