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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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60 指輪の試弾

 ケイルート兄様はすっかり元気になった。


 あのときの怪我人たちも翌日には治療を終えてみんな元気に過ごしている。


「ナーニョ!!!」


 騎士団から研究所までの道で私は呼び止められた。振り返るとケイルート兄様が怒ったような表情でこちらに走ってきた。


「兄様、どうしたのですか?」

「どうしたもこうしたもないだろう!? 俺の許可なく巡視に同行すると聞いたのだが?」

「はい、付いていくことにしました」

 私は怒るケイルート兄様に笑顔で答えた。

「俺は反対だ! こんなに可愛い妹を魔獣のいる所へやるなんて」


「兄様、そう思って下さるのですね。嬉しいです。でも、私はエサイアス様より強いんですよ? 魔法で魔獣を倒せるし、治療だってできる。私たちが活躍すれば王家の評判も上がります」

「いや、それはそうだが。そうじゃないんだ。俺は妹を危険な所へ送り込みたくない」


 私はケイルート兄様に向き直って頭を深々と下げた。


「……兄様。ローニャの事をお願いします。あの子は人一倍努力家で誰よりも寂しがりやなんです。あの子を守るために私も頑張ってきますね。すぐ帰ってきますから」


 私は不安を口にせず、話をした。


 兄様は怒っている。

 でもそれが嬉しいと感じてしまう自分がいる。


 私のことをこんなにも心配してくれる人がここにいるということに。だから頑張ろうと思える。


 もう誰も怪我させたくないの。

 あの苦しみ、辛さ、泣き叫びたくなる思い。

 もうあの思いをさせたくない。


 今回の巡視のために研究所の人たちは急いで指輪を用意してくれた。


 今までは治療を中心とした指輪を作っていたけれど、魔獣退治用の魔法が刻まれた指輪もいくつか準備してくれた。まだまだ練度は低いけれど、充分に役立つ。


 そして補助魔法の指輪も用意してくれた。残念ながら今の私には同時に二個の魔法を扱うは難しいので、攻撃か補助かその場で判断しなければいけない。


 ちなみに回復魔法は魔力の消費が多く、攻撃魔法はの方がやや少ない。


「ナーニョ様、指輪の試弾をお願いします」


 私を見つけた研究員が駆け寄り、話をする。


「分かりました。兄様、またその話は夜にでも……」

「ああ、呼び止めて悪かった」


 私は研究員の人とそのまま訓練場に向かう。騎士団の訓練場の横に私とローニャが試弾できるスペースを新たに作ったのだ。


「ナーニョ様、ケイルート殿下とお話中にすみませんでした。どうしても試弾してほしくて」

「構いません。兄様とは部屋に戻ればお話できますから」

「それなら良いのですが」


 訓練場に着くと、私は研究員から指輪を受け取り、指に嵌めた。


 目標物は騎士団が使っている人形と同じものだ。何度も研究所で試弾しているため研究員も私に合う指輪の素材が分かっているようで最初に比べると初めての試弾でも使える物が多くなっている。


 今嵌めている指輪はマーローという指輪だ。これは特殊な火魔法で浄化の火とされている。


 魔物の毒や酸で汚染された範囲を火で焼いていくのだ。火は燃え続け、汚染が無くなるまで鎮火しないのが特徴だ。


 範囲やしっかりと効果が出るのかを確認するため研究員は人形に薬品をかけて待機する。


「では始めます。『マーロー』」


 私は人形に指輪を向けて魔法を唱えた。


 指輪から火の玉が人形へと向かっていく。範囲を広めに設定してみたけれど、指輪は優秀なようで薬品の掛かった人形にしか火は燃え移らないようだ。


 人形にかけられた薬品はチリチリと煙を上げて消えていく。人形自体は少し焼け焦げてはいるが、燃えてはいない。

 訓練場は木の焦げた匂いがしている。


「人形は少し焦げてしまいましたね。ここは要改善っと。威力が強いのか。もう少し装飾を小さくしてみる必要がありますね」


 研究員は興奮しながらメモを取っている。


「では次の指輪も試してみますね」


 次に私が選んだ指輪はスールンという指輪。この指輪は指輪に蔦が装飾されている。先ほどのマーローの指輪には浄化の紋が形取られていた。


 一目見ただけでどの魔法かも分かりやすくされているような工夫がされている。


『スールン』を唱えると、指先から棘のある蔦がシュルリと出て人形にギュッと巻きついた。小さな蔦も沢山出てしまった。


 ここは少し改善するところだと思う。


 この指輪は使用する魔力量で蔦の本数も変えられるようだ。新たに数本の蔦を出し、鞭のようにしならせて人形に叩きつけた。


 パシンッ、パシッ。


 叩きつける音が訓練場に響いている。自在に操るにはかなりの集中が必要なようだ。


「この魔法なら魔獣を縛り、足止めすることも可能ですね! いや、鞭として使うこともできるし、使い方を変えれば壁としても機能するかもしれない。まだまだ可能性を広げられるのか。凄いですね。 次の指輪もお願いします」


 私は軽く頷き、ターローの指輪をつける。


 研究員は用意していた大き目のガラスの器に入った泥水を人形の前に置いた。ターローの指輪は水質改善の指輪だ。

 これがあれば汚染された井戸の水も一瞬で飲み水へ変換することができる。


 ただし、周辺が毒などで汚染されている場合は効果がないことが考えられている。


『ターロー』と唱えると、ぱちぱちと水が音を立てた。


 水は蒼い光を放ち、徐々に濁りのない水へと変化していった。

 これは少し魔力のロスが多いように感じるわ。ここも改善されると良さそう。


「透明に変わりましたね!」


 研究員はさらに興奮していた。どこの村も雨の翌日は井戸の水は濁り、そこから病気が広まる事もある。これがあれば多くの村が救われるだろうと、研究員は喜んでいる。


 そうして指輪をいくつか試弾し、研究所に戻って評価することになった。


 私は感じたことや気づいたことを研究員に話し、研究員は頷きながらメモを取っていく。


「ナーニョ様、急ぎ指輪の調整に入ります」

「ありがとうございます」


 研究員達はきびきびと研究室に戻っていった。




 私はふうと息を吐いて覚悟を決めた。


 ……きっと私は兄様に凄く怒られる。


 でも、彼に付いていきたい。


 ケイルート兄様と話をするために一足先に仕事を切り上げて王宮内の王族区画へと戻った。


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