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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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59 グリークス神官長にお願い

 翌日から巡回の準備をするため、打ち合わせや戦闘訓練に加え、治療と魔法の研究もあって、一気に私は忙しくなった。


 荷物などの準備は全て侍女達がしてくれるので助かっている。


 第二研究室へ向かい、頼んだものが出来上がっているか確認すると、あと少しで完成するのだそう。


 私が研究所に頼んでいたのは、ローニャと連絡を取るための腕輪なの。魔法は名前と相手をイメージして言葉を送る仕組みになっている。


 小さな手紙が送れる指輪も近いうちにできるようだ。これがあれば城と巡視先でのやりとりが簡単になり、かなり役に立つはずだ。


「ナーニョ様、グリークス神官長がお見えになっております」

「分かったわ。第二会議室へ通してもらって」


 私は研究員からもらった試作品を箱に仕舞い、護衛騎士に渡して第二会議室へと入った。


 第二会議室は第一会議室の半分ほどの広さで二十人程度入れる。


「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、こちらの方こそ突然の訪問をお許しください」


 縦長の開かれた窓から心地よい風を感じる。

 グリークス神官長は丁寧に頭を下げて謝罪した。


「今日はどうなされたのですか?」

「えぇ! 騎士団の巡視に同行すると聞きました。本当でしょうか??」

「ええ。エサイアス様に同行しようと思っています」

「その理由をお聞きしても?」


「魔獣で傷つく人たちが一人でも減るため、です。それに魔力を持っている人間を探し出すためでもあります」


「教会としては嬉しい限りですが、何故そのような自分の身を危険に曝してまでするのでしょうか? 貴女らなら王女としてもこの王都で暮らしていくには十分だと思いますが」


「確かにおっしゃる通りだと思います。何かやりたいことはあるかと父に聞かれ、ずっと考えていたんです。でも、いくら考えても何も思い浮かばなかった。


 妹を守らなきゃって思いで今まで生きてきたから。昨日、ケイルート兄様が大怪我をして医務室に運び込まれた時、お父さんとお母さんのことを思い出したんです。


 もう誰一人私のような思いをしてほしくない。また、魔力を持つ人間を探しだすためでもあります。王都に来れる怪我人はほんの一握り。やはり探すには私自身が行かないと探せないのです」


「なぜそこまでして魔力を持つ人間を探そうと思ったのですか?」

「それは……ローニャのため、です」

「ローニャ様のため?」


 グリークス神官長の言葉に頷く。


「私たちは弱い。今は陛下が後ろ盾とはなっていますが、私たちはただの落ち人なのです」

「だが、魔法が使える」

「ですが、その事で私たちは貴族に狙われていることも事実なのです」


「私の耳にも届いております。やはりナーニョ様達を教会が保護した方が良い」


「お気持ちはありがたいです。ですが、ローニャは研究者になりたいという夢があるのです。この国を豊かにし、飢える事のない世界を作りたいと。


 それにはここの研究所で研究をしていきたいと言っているのです。そのために私は魔力をもつ人間を一人でも多く探し、協力者を得たい。そして怪我人を治療し、私たちの味方になってもらいたい。我儘な考えかもしれませんが」


 私の言葉を聞いたグリークス神官長は優しく微笑み、軽く頷いていた。


「グレイス王太子妃のご実家ですね。お二人を売り渡す計画でもあるのでしょうか? まぁ、あってもおかしくはないでしょう」


「私たちは道具の一つとみなされているそうです。彼女たちにとって私たちは獣に過ぎないようです。猫種ではありますが、私たちは人間となんら変わらないのです」


「王太子妃という権力がある以上、何をしでかすか分かりませんからね。民衆という後ろ盾は絶大だ。我儘だなんて全く思いません。むしろ素晴らしい」


「神殿としてもグレイス妃殿下とそのご実家に思うところはあります。お二人に何かあるようでしたら私も動きましょう」


「そう言っていただけるとありがたいです。あ、そうだ。グリークス神官長が来ると聞いたので試作品ですがこれを持ってきたのです」


 私の言葉で後ろに控えていた護衛騎士の一人がグリークス神官長に箱を渡した。


「これは?」


 グリークス神官長は不思議そうに箱を開けてみて驚いたようだ。


 中身は金色に光る腕輪だ。

 もちろんこれも魔法を使う道具の一つ。


「綺麗な装飾が施されていますね。内側に言葉が刻まれている。これは魔法道具なのでしょうか?」


 神官長は箱から腕輪を取り出し、内側の文字をじっくりと腕輪を眺めている。


「あと数日で私の分が完成すると研究所の方が仰っていたのですが、これをグリークス神官長にも持っておいて欲しいのです。


 これはファールの魔法が刻まれた腕輪で、手紙を送ることのできる物です。相手の顔を思い浮かべ、その名前と詠唱を唱えると相手のところへ届く仕組みです」


「素晴らしい!!! ナーニョ様のおかげで遠くの教会へ手紙をすぐに送ることができるなんて」

「手紙ならあまり魔力は使わないので神官長でも問題なく送ることが出来ます。今、研究を始めているのは小包が送れるようになる腕輪だそうです」


「なんと。それも凄い。出来上がるのが待ち遠しいですね。……ナーニョ様、本当に英雄エサイアスについていくのですか? それが苦難の道であっても?」


 グリークス神官長は真面目な顔で聞いてきた。


「もちろん分かっています。ですが、これは私にしかできないことではないかと思うのです。もし、私に何かあればローニャの事をよろしくお願い致します」

「わかりました。ナーニョ様の行く道に光が射しますように」


 短時間だったが神官長にも会えた。私もエサイアス様も忙しいのでまだ会えていない。私が一緒に行くことを駄目だと言われないかしら。



 こうして瞬く間に数日が過ぎた。


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