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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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55 戦闘 ケイルート視点

 伝令係が大声で叫びながら騎士団の詰所に入ってきた。


「何があった?」


 俺は冷静に伝令係に聞く。


「東の森の奥から魔獣が現れました! その数は三体。対応に当たっていた第三騎士団が撤退しました。現在、第五騎士団、第七騎士団が戦闘中。敵は恐ろしく強く、更なる応援を要請しています」


 ……第三騎士団が撤退。


 その言葉に背中に背筋がぞくりとなった。


 ナーニョやローニャがいるおかげで、我々は死に急がず、怪我をすれば撤退するよう勧めているが、二つの団でも苦戦しているのか。


 拳にぐっと力を入れる。


「エサイアスは?」


 俺は副官に視線を送り、現在のエサイアスの状況を確認する。


「申し上げます。現在エサイアス様率いる第十二騎士団は西の森にて魔獣を討伐中との事です」

「チッ。動かせんのか」


 副官の言葉に苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「他に動かせる団は?」

「治療中が第十と第十一団。王都の警備と王宮警備にも現在出ており、第一団と第二団のからそれぞれ三分の一割けばすぐに向かえます」

「チッ。寄せ集めになるのか。仕方がない。俺がその二団を率いて前に出るしかない。第二団長を呼べ」


 副官に指示をする。他の団は休養しているため招集するにしても時間が掛かる。こんな時に。


「フォール、副官のエルノルテが入室します」


 第二団長のフォールと副官が緊張した面持ちで入室してきた。


「あぁ、待っていた。伝令から聞いただろう。すまんが、三分の一の騎士を準備してくれ。お前達も一緒に出ろ」

「承知いたしました」

「ディール、父上に話をしておけ」

「畏まりました」


 緊張に包まれる騎士団棟。


 数年前に異次元の空間ができたとき、同じような状況だった。


 そして援軍要請に応じて出た兄は儚く散った。あの時の状況に比べれば敵はまだ三体だ。まだいける。


「ローニャはどうしている?」

「はい。ローニャ様は先ほど研究所から医務室へと移動し、治療を開始しています。もう少しすれば第三騎士団の騎士が治療に運ばれてくる予定です」

「そうか。治療させ、軽傷の者は復帰できる準備をさせろ」

「承知致しました」


 ナーニョやローニャがいる事で我々は思う存分戦える。


 本当に感謝しかないのだ。


 鎧を着こみ、訓練場へと向かう。既に騎士たちは準備を終え、整列していた。


「諸君、先ほど伝令からあったように現在、王都外に魔獣が三体出没中だ。やつらは王都に向かっているようだ。我々が出撃せねばならぬほど強大な敵だ、心してくれ」


 どの騎士も真剣な表情を崩すことはない。


 騎士団は実力で一から二十五までの団になっている。平民であっても実力があれば第一に入ることができる。団長や副団長はさらにエリートとなる。


 エサイアスが第十二団の団長なのに英雄と呼ばれている理由はエサイアス自身も強いのだ。


 だが、それだけではない。騎士たちの中で軟弱だと笑われていた集団を纏め上げ、第一騎士団に劣らない程の能力を出させている。


 やつは第十二団一人一人の能力をしっかりと考えた上で配置し、動かしてきたおかげでどの団よりも戦死者を出すことなく、怪我人も少ないのだ。


 俺に対する口は悪いが。


「では出立!」




 騎士たちは馬車に乗り込み目的地へと向かう。


 その間、誰も口を開くことはない。


 何度も魔獣と対峙してきたが、この時間が一番嫌いだ。


 毎回対峙する魔獣は特徴が異なる。素早く動くもの、皮膚が硬いもの、毒を吐くもの、分裂するもの、数が多いなど様々なのだ。今回の魔獣はどんな強さなのだろうか。


 生きて帰ることができるのだろうか。


「到着!全員準備を整え配置につけ!」


 第二団の副長が声を出す。そして合流先の第五団の団長に現在の詳しい状況を聞く。どうやら三体いた魔獣のうち一体は先に撤退した第三団が倒していたようだ。


 残る二体は第七団で追い詰めて倒すのも時間の問題だという。俺は小さく安堵する。だが状況は良くない。


 騎士たちの怪我も増え、一つの部隊が崩れればすぐに形勢逆転されるようだ。


「援軍感謝します」


 話は手短にして各員配置につき戦闘が開始された。俺も団員達に逐一指示を飛ばす。どうやら魔獣の一体は離れた相手に酸を飛ばすようだ。


 第三騎士団が撤退した原因はその魔獣によるものだった。後の二体は身体が大きく動きも遅いが、表皮が硬く剣が入らない。


「辛弾を投げよ!」


 俺は指示を出す。ナーニョから聞いて作られた最新武器。とは言ってもまだまだ試作段階にあるのだが。


 魔獣によっては耳の良いもの、鼻の利くもの、目の良いものなど様々な種類がいてその魔獣にあった音弾や香弾などがある。


 今回投げた辛弾は目や鼻などの粘膜を攻撃する物だ。弾の威力はあまりないが、気を散らして隙を作るためには十分な武器となる。


「敵は怯んだ!全力で掛かれ!」


 第二騎士団長のフォールの命令で一斉に斬りかかる団員たち。


 グォォォォ!!!


 抵抗するように大きな唸り声を上げている。


 一体がバランスを崩し倒れ込んだ隙に喉元に斬りかかり、目を潰し息の根を止める。


 問題は二体目だ。目が見えないせいで酸を所構わず飛ばしている。どうやら魔獣の足元には飛ばせないようだ。だが足元は踏まれる可能性もある。


 後方に回ったり、ギリギリの所に移動しながら攻撃していく。俺も酸を避けながら魔獣を斬りつけている。


「あと少しだ!頑張れ!」


 斬りつけて大分体力を削ったが、辛弾の効果は切れてしまったようだ。


 魔獣は怒り狂い、雄たけびを上げて指揮をしている団長に突進した。どうやら騎士たちに指示を出している者を意図的に狙っている様子だ。


「チッ。敵は少しだが知能はあるようだな。俺とお前どちらが先にやられるか、だ」


 グルルル!!


 魔獣の声に負けないほどの大声で、俺は指示を出した。


 背後に回った騎士たちが斬りかかっては後ろへ下がり攻撃を避ける。


 ぐるりと振り返った魔獣は俺と視線が合うと、腕を振り上げ叩き潰そうとした。辛うじて避けた所に酸の攻撃。酸の焦げた匂いが充満し、砂埃が舞い上がり、剣がぶつかる音が響いている。


 そのどれもが危険だと感じさせている。


 魔獣が俺に向かって酸を吐いてきた。

 クソッ。避けきれない。


「今だ! 一斉に攻撃しろ!!!」


 俺の号令と同時に騎士たちは斬り込んだ。俺は避けきれずに酸の攻撃を受けた。鉄の鎧を着てはいるが酸は鎧の中に入り込み身体を焼いていく。


「ケイルート様! 急げ、ケイルート様を下げろ!」


 俺は数人の騎士たちに引きずられて魔獣の攻撃が当たらない距離に引き離された。鎧を脱がされ、水をかけられたが傷は相当に酷いようだ。手も動かなかった。


「ケイルート様、囮になんてならなくていいんですよ!!」

「い、いや、囮になるつもりはなかったんだが……」


「下半身が特に焼けただれています。指も溶け始めている」

「ケイルート様、大丈夫ですか!?」

「エルノルテ、状況は?」

「ケイルート様の指示で最後の魔獣も倒せました。すぐに帰還します」

「……ああ。頼んだ」


 俺は目を瞑り痛みと戦いながら王宮へと運ばれて行った。


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