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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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50 私のやりたいこと

 早くも私たちがこの世界に来て一年が過ぎようとしていた。


「ナーニョ様、ようやく指輪が完成しました。どうぞお受け取り下さい」


 今日は指輪のお披露目ということで陛下、王妃、王太子、宰相、各大臣、騎士団長、副団長、医務官、研究所の長官の立ち合いの元で行われた。


 もちろんエサイアス様もいる。例外として神官長も参加している。本来ならこの場に居なくても良いのだが、神官長本人もぜひ立ち会いたいと話があった。


 この一年、治療した人たちの中には魔力を持っている人はまだ出てきていないのだが、今後魔力持ちの人間が現れた時にも指輪を使いたいと神殿保管用に一セット用意したのだ。


 宰相の進行で第二研究所の研究員は指輪が入っている小さなケースをみんなの前で開いた。


「ようやくだ」

「我が国は救われた」


 大臣や騎士団長たちはそう口にして自然と拍手が起こった。


 みんなに見守られながらケースの中の指輪を一つ取り出す。


 この世界に暮らす人間たち待望の瞬間といえる。ナーニョも新しい魔法が使えると思うと嬉しくなって思わず笑みが溢れた。


 この日のために試験を繰り返してきたのだ。指輪の研究をしていくうちに判明したことは僅かな差だが、私とローニャの使いやすい指輪が違う。


 金属の種類や配合を考え、私に合わせた指輪を先に作ることになった。もちろんそれには理由がある。ローニャはまだ成長途中だからだ。


 成長しきった後でローニャに合わせた指輪を作る事になっているため、それまでは私が使うことになっている指輪と同じものを使う事になる。


 神官長も何度か研究所に足を運び自分専用の指輪を作ってもらっていた。


「皆様、本当にありがとうございます」


 私が感謝を述べると、会場はシンと静まり返った。


 私はお父様に視線を送り、頷くと範囲魔法のヒエストロの指輪を使うため、一歩前に出た。


 少し仰々しい感じもするが、私は両手を組んで祈るように魔力を流し始めると、指輪から優しい光が波紋のように広がっていく。


 この部屋には護衛騎士や従者も含めて五十人はいるだろうか。


 今日は魔力を抑えず使えるだけ使おう。


 みんなの傷が少しでも癒せますように。


 そう願いを込めて範囲回復魔法「ヒエストロ」唱えた。


 その瞬間、室内にいた人々は淡い光に包まれた。


「……ああ、温かい」

「これが回復魔法なのか」

「やはり素晴らしい」

「ナーニョ様、ありがとうございます」


 その場に居た人たちから歓声があがる。みんなの顔から笑顔が零れ、高揚している。


「やはりナーニョ様の魔法は凄いですね」

「そうだろう? さすが私の娘だ」

「私も初めて回復魔法を体験したけれど、凄いわ。ナーニョ。たまには母にこっそり魔法を使ってもいいわ」


「ふふっ。お母様、今度掛けますね」

「私もお母様に掛けるね」

「嬉しいわ、ローニャ」


 お母様はギュッとローニャを抱きしめた。


 ローニャはかなり成長している。

 身長百五十センチ程度。以前のドレスや服は小さくなり、着られないのでまた新たにケイルート兄様が使っていた服をもらって着ている。


 ドレスは成長して足が出てしまうと見栄えが悪いけれど、ズボンであればまだ許されるようなので普段はズボンとシャツという装いになっている。


 余談だが、私はワンピースや自分用の特別騎士服を着用し、ドレスも持っている。


 成長してしまえばローニャも同じようになるだろう。


 今回お披露目した指輪は初級の物ばかりだ。


 全ての魔法を作り、試弾するにはまだまだ時間が足りない。ただ、範囲回復魔法ヒエストロや怪我回復の上級の魔法であるヒエロスターナは優先的に作られた。


 ヒエロスターナの魔法は欠損を治す魔法で魔力の消費は激しい。


 私やローニャは使うことができるが、私は一日に二人、ローニャは一日で一人という程度しか治療できない。


 無くなったものを新たに作り出すにはそれ相応の魔力が必要となるようだ。


 ローニャの成長もあと少しだ。


 ここ最近は魔力が一気に増え、安定し始めている。私としてもホッと胸を撫でおろしている。


 そして王都を中心とした近隣の村や街も回復魔法のおかげで怪我人は一定数に止まり始めている。


 先の見えない不安から平民達は全体的にどことなく暗い顔をしていたが、今では活気にあふれた街になりつつある。


 二人のおかげで救われた人も多く、彼女たちは今やこの国に無くてはならない存在だった。


 そして獣人である二人の容姿もまた歓迎される一因となったのはいうまでもない。


「陛下、王妃様、私、やりたいことがあるの!」


 私が魔法を使い、その場に居た人たちが明るい未来に高揚している最中、ローニャが口を開いた。


「やりたい事とは何だい?」

 お父様は優しくローニャに聞いた。

「あのね、私、魔法の研究員になりたいの。私はお姉様よりも治癒魔法は得意ではないし、怪我人を治したいけれど、血は少し苦手だと思ってしまうの。


 でも、みんなが喜んでくれる事をやっていきたい。サーローの魔法でこの国を豊かにしていきたい。みんなで美味しいごはんを食べられるようにしたいの。


 ちゃんと治療も続けるわ。でも、植物の指輪を使っていきたい」


 ローニャは確かに幼い頃からサーローの指輪を使っていて得意な魔法だ。土質改善魔法のサーローは私より効果を出せている。


 今まで飢えずにいたのも奇跡なほどの世界。治療も大事な魔法だが、ローニャの魔法は歓迎されるはずだ。


「そうかそうか。ローニャはそう考えているのだな。ナーニョはやりたいことはあるのか?」


 突然の問いに私は言葉を詰まらせた。


「えっと、私は、まだ、この世界に慣れるのに必死で何も考えていませんでした。今度までに考えておきます」


「そうか。無理はない。二人ともこの世界に来てずっと勉強や治療を続ける毎日だったからな。突然やりたい事を聞かれても困ってしまうだろう」


 お父様の言葉に宰相を含めた周りの人たちも頷いている。みんなが笑顔で私たちの願いを叶えたいと言ってくれている。


 みんなが口を開き始める前に宰相がこの場を仕切った。


「では、これにて指輪の献上の儀を終えます」


 そうして私は心に引っかかりを作ったまま無事に指輪のお披露目会は終わった。



 私は何をしたいのだろう?

 これからどう過ごしていけばよいのだろう?


 先ほど言葉にした慣れるのに必死だったというのも嘘ではない。けれど、今まで妹を守る事に必死でそればかりを考えてきた。


 ローニャも大人になりつつある。十二歳を過ぎて身体も成長し、やりたいことが実現できるようになる。


 獣人ならあと三年で独り立ちする者も多いし、私もそのうちの一人だった。ローニャが自立する事を邪魔してはいけない。


 でも、ローニャに時間を割いていた私はこれからどうすればいいのだろう。


 元居た世界ならきっと私はそのまま魔法使いとして祖母の元で生涯働いていたと思う。


 人間の世界に落ちてきた私たちは考えていた将来が消えた。この世界で求められているのは怪我人を治す魔法。


 私は治療者としてこのまま活動していくべきなのか。


 自分のやりたい事……。


 その日から心の何処かで自分のやりたい事というのが心に引っかかりながら治療や研究、勉強を忙しくこなすことになった。


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